050
「会合場所はまたこの喫茶店か」
僕達はこれまた昨日と同じくイリナの勤め先の喫茶店に来ていた。
「どうせならメンバーが全員揃っている場所でやった方が良いと思いまして」
既に例の方はこの喫茶店にいらっしゃるということをローランさんには知らせてあるので、彼の緊張度は現在針を振り切っている。
ローレンさんには酷だと思うが、思い当たる人がこれしかいないのだから、仕方なく我慢してもらう。
「じゃあ、入りましょうか」
「お、おおおおう」
ここまでローレンさんが怖がるなど、今までにはないことだった。
過去にどんなことがあったのか気になるところだ。
しかし、とてもではないが、聞ける雰囲気ではない。
それ程までにローレンさんは切迫した表情をしていた。
「いらっしゃいませ……ってアンタ達か。はい、こちらにどうぞ」
店のドアを開けるとイリナの声が聞こえる。
イリナはすぐに僕達をテーブル席に案内した。
「こんにちは、シオンさん」
そのテーブル席には正しく深窓の令嬢といった雰囲気を纏い、紅茶をゆっくりと飲むサータリーファルさんがいた。
ローレンさんはその姿を目に映しただけで、体を強張らせている。
その様子はあまりにも簡単に見て取れた。
「こんにちは、サータリーファルさん」
僕は挨拶を返しながら、席につく。
一応ローレンさんをサータリーファルさんから離れた位置に配置して座っておいた。
ローレンさんをサータリーファルさんの隣に配置しようものなら、まともな話などできなくなるのは想像に難くない。
「それで今日はどんなお話なんですか?ローレンまで連れてきた理由が少し読めないのですが……」
サータリーファルさんはローレンさんを一瞥してそう言った。
もう言うまでもなくローレンさんは顔面を青白くしている。
「単刀直入に言うけど、僕達サークルを作ろうと思ってるんだ。サータリーファルさんにはそのメンバーになって欲しい、僕達はそのお願いに来たんだ」
「そのサークル、入ります」
「そうだよね。サークルの活動内容が分からないんじゃ……すいません、今何ておっしゃいました?」
「いえ、ですから、そのサークルに入ります」
思わず聞き返してしまったが、どうやら聞き違いではないようだ。
し、しかし、こうも簡単に了承されてしまうと、こちらが心配になってくる。
「あ、あの、文句とかあるわけじゃないんですけど、どういう理由で了承してくれたんですか?」
「私、サークルって以前からやってみたかったんです。でも知り合いが誰もいないところに入るのも緊張するじゃないですか。だけど、シオンさんとローレンがいると分かっているサークルなら安心です。それにシオンさんとももっと仲良くなれますしね」
満面の笑みでサータリーファルさんはそう言った。
僕は顔が少し熱くなるのを感じながら、何とか話を続ける。
「あ、ありがとうサータリーファルさん。一応メンバーと活動内容を説明するね。メンバーは今のところ、僕、ローレンさん、イリナ、そしてサータリーファルさん。活動内容はまだ詳しくは決まってないんだけど――」
「そ、それに関しては俺から話がある……あります」
僕がそこまで言ったところで、今まで下を向いて黙っていたローレンさんが喋り出した。
「シオン、俺はお前にはただサークルがやりたかっただけと言ったが、ありゃ嘘だ……俺はよう、人様の役に立つことがやりてぇんだ。今まで俺は剣を自分の為に振ってきた。だがそれじゃあ、何でかは良く分からねぇが、限界があるってことに気づいたんだ。俺はそれをお前とそこの女から学んだ。お前達の戦っている姿からは何かが感じられたんだよ。その時に俺は師匠から言われたことを思い出した。『己が為に剣を振るな、誰かの為に剣を振れ』ってな。あの時は何を言ってるのかさっぱり分からなかったが、今なら分かる気がする。俺はその『誰かの為の剣』を探したいんだ。だから皆、どうか俺の手伝いをしてくれねぇか……!」
そう言って、ローレンさんは深々と頭を下げた。
ローレンさんと戦った時の心境など、もう忘れてしまったが、イリナの為に戦っていた気がする。
僕のような若輩から何を学んだのか分からなかったが、ローレンさんの姿は確かな覚悟と意気込みが感じられたのだ。
そんな姿を見た僕達が断る理由などあるはずがない。
「僕なんかで良ければ、是非お手伝いさせてください」
「まぁ、アンタが私に頭下げることなんて珍しいことこの上ないし、手伝ってあげなくもないわ」
「何だか丸くなりましたね、ローレン。私も皆さんと同じくお手伝いしますよ」
「お、お前ら……!」
皆の言葉を聞いてローレンさんの目がキラキラと光り出している。
「ちょ、やめてよね。流石にその年で年下相手にして泣き始めるのはあり得ないから」
イリナは遠慮なく心ない言葉をローレンさんに浴びせにかかる。
「おま、こんな時でさえ、気の利いた言葉の一つもかけられねぇのか!?今ので溜まってた涙が吹き飛んだわ!」
「やっぱり泣きそうだったんじゃない。うわっ、気持ち悪っ!」
僕は二人のいつもとなんら変わらないやり取りに思わず額に手を当ててしまった。
「サータリーファルさん、お願いしますね。僕にはこの二人、止められないんですよ」
「そうですね……でもたまにはこういう日もいいんじゃないですか?」
僕はもう一度言い合いをしている二人の姿を見る。
片方はウェイトレス姿の人間族、もう片方は粗野な見た目の魔族、全く正反対とも言える容貌、立場の二人が言い合いをしている。
捉えようによってはただの喧嘩かもしれないが、僕はこうも思っていた。
「確かにいいかもしれませんね」
人間族と魔族の橋渡し、それは図らずともここに達成の一例があるのではないか、と。
この時の僕達は全員が全員、顔に笑みをたたえていたのだった。
本作をお読み頂きありがとうございます。
作者から二つお願いがございます。
ずばり、ブクマ登録と評価です!!
何卒、よろしくお願い致します。
感想、質問なども、どしどしお寄せください。




