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005

 伯母さんの家に居候しに来てから一年が経とうとしていた。


 僕のことを知っている人は誰もいないリハバイトはとても住みやすく、騒がしいけどとても楽しい日々だった。


 まぁ、人間族ってことで少し見られることはあるけど、半年後にはすっかり馴染めていた。


「伯母さん、この荷物どこに置いておけばいいですか?」


 僕は手慣れた手つきでお使いでもらってきた荷物を家に運び込む。


「一つ目のやつは私の部屋に、二つ目は研究室に置いてくれ」


 伯母さんはこちらも見ずに指でパッパッと指示を出す。

 もうすっかりこのやり取りにも慣れてしまった。


「分かりました」


 僕の初検査の次の日から魔法の訓練は始まった。

 魔法の訓練と言いつつも、半年間はずっと魔力を操る訓練で、正直言ってつまらないことこの上なかった。


 だけど、魔力の訓練が終わってからはとても楽しかった。

 色々な魔法を教えてもらって、それを自在に操る。

 すごく達成感のあることだった。


 無力な僕のはずなのに、不覚にも全能感を感じたりもした。勿論思い上がりだとは分かっているけど。



「最近思うんだが、お前学校に行った方がいいんじゃないか?」


 伯母さんが夕食の後に突然そう切り出してきた。

 本当に何の脈絡もなく、だ。今までこんな話をしたことさえない。


「え、学校ですか?」


 僕は学校というものに通ったことがない。

 というか、世の子供達の八割はそうなのではないだろうか?


「そう、学校」


 伯母さんは至極真面目に、そして淡々とそう言う。


「……いやいやいやいや!!急過ぎて良く分かんないですけど、そんなことできませんって!第一僕は雇われの身なんです。仕事があって掛け持ちなんて無理です!」


 この人はたまに突拍子もないことを言い出す。

 いつも驚かされるけど、大抵冗談だ。そう、大抵だ。


「そんなこともないだろう。だってお前、意外と暇してるだろ?昔はともかく、最近は実験だってそんなにしてないし」


「た、確かにそうですけど……」


 やっぱりダメだ。

 学校というからにはお金もかかるだろうし、居候している身である僕が、そこまで面倒を見てもらうわけにはいかない。


「言っておくが、今回は割と本気だ。シオン、お前に足りてないのはやはり交友関係の豊かさだ。お前は親譲りの剣術があるし、私が教えた魔法もある。それなのにお前、友達がいないだろう」


 い、痛いところを突いてくるな、この人。

 でもそればかりはどうにもできないというか、結局スキルは無いままだし、弱肉強食の文化が強い魔族の世界では横の関係は上手く構築できないだろう。


 それは学校も同じはず、否、むしろ学校の方が閉鎖的な人間関係という意味でその文化は強いのかも知れない。


 つまり弱い僕に友達ができるはずがないのだ。

 良くてパシリ、悪くて奴隷だ。


「シオン、逃げるな。私の目を見ろ」


 伯母さんは今にも僕を射殺すような視線で見つめてくる。

 僕はその目に驚きながらも、目線を逸らさずにいた。


「いいかシオン、よく聞け。お前は弱くて脆い。だが、それがどうした。相手が生まれつきの能力で武装しているなら、お前は生まれてきた後に手に入れたもので戦え。お前は既にそうして戦う術を知っている。だが、それでもお前は負けるかも知れん。しかし、決して諦めるな。自分の弱さに打ちのめされるのと、諦めるのとは全く違うことだ。諦めない限り、光は絶対にある!」


 思い出した。

 僕は結局何一つ変わっていない。

 あの街から逃げ出して、妹に全て背負わして逃げ出して、それでもまだ逃げ出そうとしている。


 いくら魔法を身につけたって、心は変わりはしないのに。

 そんなことも忘れていた。

 僕の諦め癖もとうとう板についてきてしまったようだ。


「……分かりました。僕、学校に行きます。だけど、いいんですか?お金とか諸々あるでしょ?」


 僕は最大の懸案事項について問うてみる。


「それなら安心していい。学費が全額無料の学校がある。まぁ、入学するのは至難だが――」


「それでもやります」


 僕は伯母さんが全てを言い切る前に遮る。


「お前、いい顔になったな」


 伯母さんはニヤッと笑ってそう言った。



 それから二週間経って、試験の日が訪れた。


「今回は私が送ってやったが、帰りは自分で《転移》してこい。分かったな?」


「はい。じゃあ、行ってきます」


「ああ、頑張ってこい」


 伯母さんは手をひらひらと振って激励してくれる。


 今僕がいるのは魔王城のお膝元であり、旧魔王領の最高学府が存在する街、魔都ゲルドガルドだ。


 街自体はリハバイト程は栄えてはいないが、年に一度、魔貴族達が集まる魔王城のお膝元とあって、そこそこに栄えているようだ。


 そして、僕が向かっているのがその最高学府であるところのゲルドガルド学院だ。


 学院は満十五歳となる子供達を旧魔王領中から集め、試験で選抜し『優秀な魔族』に育て上げる。


 そう、僕は試験を受ける資格がないわけではないのだが、そもそも教育方針から外れているのだ。


 今になって少し怖くなってきた。

 だが、もう半歩すらも下がることはできない。


 何故なら僕は『行ってきます』と言ってしまったから。


 装備はそこそこにいい剣と伯母さんに教わった魔法、そして、試験に落ちそうになったら使えと言われた薬がポーション瓶一杯。


 最後の薬というのがどうにも信用できないのだが、試験は二勝先取かつ負けたら即退場という《スキル無し》の僕には厳しい条件である為、なりふり構ってられない。


「「はぁ……アウェーだ」」


 横を見てみると、見た目は同じ人間族であろう女の子がいた。


 顔立ちは人形のように精緻なもので、輝くようなサラサラの金髪は風にたなびいている。

 つり目気味の碧い瞳はとても美しく、全てを見通されているような感覚に陥ってしまう。


 どれをとっても完璧、まさにそんな印象だった。


「あー、君も試験を受けるの?」


 僕は何となく気まずくなって、そんな分かりきったことを聞いてしまう。


「あ、アンタは……!?」


 女の子は僕の顔を見て目を丸くしている。


「え?」


 何故か女の子は僕の顔を見て驚いているのだ。

 まさか知り合いか?……確かにどこかで見たことがあるような……?


「……何でもない。同じ人間がいるのは少し心強いけど、今は敵。試験で当たっても手加減はしないわ。さようなら」


 瞬時に顔を冷静な物へと変え、さっさと行ってしまう女の子。


 それにしても綺麗な子だったなぁ……っていかんいかん。今は女の子にうつつを抜かしているわけにはいかないんだった。


「あ……」


 折角友達になれたかも知れないのに、名前も聞いてないや。

 まぁ、何とか合格できればまた会えるだろう。


 何せ、彼女は物凄いオーラを放ってたからな。

 そう、まるでスキルが発現した時のフレイみたいに。



「試験を受ける者はここで記名してから、闘技場の中に入るように!」


 学院には立派な闘技場がいくつもあるようで、試験はそこで行う。

 僕は学院の入り口で記名して、どこの闘技場に行けばいいか言われる。


 僕の試験会場は第三闘技場だった。

 ここに着くまでに何人か強そうな人がいた。

 是非とも当たりたくないな。


 自分の試合が始まるまでは観客席で対戦を見ることができるようになっていたので、ありがたく観戦させてもらう。


 何せ僕はまだ人と戦ったことがないばかりか、人が戦っているところさえ、見たことがないのだ。


「では試験を開始します。両者、所定の位置に着いてください」


 試験官の先生が号令をかけ、受験生を構えさせる。


 片方の人は良く知らないが、もう片方の人はさっきの強そうな人のうちの一人だ。

 この人も闘気がすごい。


「試験開始!」


 開幕直後に飛び出したのは強そうな方。

 得物は剣のようで、一瞬で勝負を決める気のようだ。


 しかし、相手もそこそこの剣の使い手のようで、紙一重で剣を受け流す。


 だが、そのまま強そうな方の優勢が変わることはなく、わずか三十秒程で押し切った。


 こ、この人には当たりなくないなぁ。



 そしてそのまま二試合見た後、僕は自分の試合の準備に入った。

 本作をお読み頂きありがとうございます。


 作者から二つお願いがございます。

 ずばり、ブクマ登録と評価です!!


 評価を頂けると執筆のモチベーションになり、非常に捗ります!


 何卒よろしくお願いします!

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