047
僕達の話し合いが終わると、ローレンさんを先に帰して、僕はイリナのバイトが終わるのを待つことにした。
というのも、明日の始業前と昼休みにイリナに時間をもらっても、放課後にはまたバイトがあるかもしれないので、話をする時間が足りなくなるかもしれないと思ったのだ。
時計の針が七時を回った辺りで、イリナのバイトが終了した。
「お待たせ。ちょっと話さない?」
意外にも最初に話を振ってきたのはイリナだった。
僕達は喫茶店を後にして、街灯が照らす道を歩き出した。
「それで、何でバイトなんかしてるの?」
「それはほら、私結構強引に国から逃げてきたでしょう?活動資金として結構もらってたんだけど、その補給が見込めなくなったから、仕方なく働いてるのよ」
イリナが思ったより深刻な理由で働いていると知り、僕はあんなに笑ってしまった自分が恥ずかしく思えてきた。
「なんかごめんね。さっきはあんなに笑って」
「いいわよ。自分でも王女で、しかも勇者の私がバイトなんてするとは思ってなかったもの」
イリナは自嘲気味に苦笑を浮かべながらそう言う。
「それでアンタも私に話があるんでしょ?」
既に見透かされていたようで、僕はイリナに脱帽しながら、サークルについて話し始める。
「ローレンさんと僕で《戦術研究会(仮)》っていうサークルを立ち上げようと思ってるんだけど、イリナも入会してくれないかなって」
イリナは僕に訝しむような目を向けてから、続きを促す。
「活動内容は剣術、魔法のより実戦的な運用の仕方を研究するっていうもので、週に一回ぐらいのペースで冒険者ギルドの依頼を使った実戦もしようかなって思ってる」
僕の話を聞いてイリナは一つ大きなため息を吐いた。
「まぁ、たった数時間で良くまとめたんじゃない?申し訳ないけど、それでも私はパス。バイトが忙しく、サークルに割いてやる時間が今の私にはないのよ」
イリナはそう突き放すような口調で言う。
「じゃあ、一旦この話は置いておくとして、イリナは今食事ってどうしてるの?」
「え?最近朝は抜いて、昼は学食、夜は適当なところで済ませてるけど……それがどうかしたの?」
大して問題なさそうに平然と言い放つイリナだが、年頃の女の子がして良い食生活ではないことが良く分かった。
ここで僕はある秘策を使う。
「自炊できないから仕方なく外食することにしてるみたいだけど、そのせいで出費が嵩んで一日二食。それじゃあ、育ち盛りの子供の体には悪いと思う。そんなイリナに僕は今無料で夕飯を食べられる場所を紹介できます。さぁ、どうする?」
我ながら人倫にもとる最低の行為であると思うが、これもサークルの為、致し方なし。
「……アンタ割と卑怯ね。まぁ、分かったわ。名前だけしか貸せないけど、サークルに入ればいいんでしょう?」
イリナは背に腹は変えられないといった様子で、渋々サークル入会を承諾した。
「まぁ、この際嫌なら入らなくてもいいよ」
「はいはい分かり……って、え?」
僕の意外な言葉にイリナは驚いたような顔をしている。
「だってイリナ、結構切羽詰まってそうだし、一日二食っていうのは流石に年頃の女の子がしていい食生活じゃないでしょ。友達が困ってたら助ける、これは当たり前でしょ?まぁ、今回の場合、僕は直接イリナの役には立てないんだけど、紹介ぐらいはさせてよ」
「別に気を遣わなくても良いのよ?一応生活できるだけのお金はあるし、これからもやってける目処も立ってる。だからそんなに無理してくれなくてもいいの。そらよりいっそ食費を盾にされた方がよっぽどスッキリするわ」
素直じゃないなぁ。多分これ照れ隠しだし。
まぁ、口に出すと怒られるので胸の内に留めておく。
「じゃあ、お言葉に甘えて盾にさせてもらうよ」
「そう、それでいいのよ……まぁでも、気にしてくれてありがと。で、結局無償でご相伴にあずかれる場所ってどこなのよ?」
「まぁ、行ってみれば分かるよ」
そう言って僕は《転移》を発動した。
転移先は僕がお世話になっている伯母さんの家だ。
「アンタまさか、自分の家なんて言うつもりじゃ……」
イリナはジトーっとした目でこちらを睨めつけてくる。
「遠慮せずにどうぞどうぞ」
「自分の家でもないのにアンタ本当に堂々としてるわね」
イリナはそう言うが、僕にとってはこの話、ギリギリのところなのだ。
伯母さんがイリナを好いているということ、イリナが苦境に立たされているということ、この二つを利用することで、イリナがこの家で夕飯を食べることを伯母さんに承諾させようと思っているのだが、この一回だけでは全く意味がない。
どうにかしてイリナが継続的にここに来ることができればと思っているのだ。
しかし、僕はその可能性を測りかねている。
伯母さんはあれで人情に厚い人だし、自分の娘のようにも思っているであろうイリナの窮地においては、はっきり言って僕の窮地よりも力になってくれるだろう。
だが、イリナが拒否してしまえば、それまでだ。
そして、イリナは十中八九それを拒否する。
つまり、伯母さんがイリナの遠慮を押し切って、半ば強引にこの家に招待する必要がある。
果たして伯母さんがそこまでするのか、それが疑問なのだ。
刹那の間に頭の中でそんな考えを巡らせ、僕は家の扉を開けた。
鍵は閉まっておらず、既に伯母さんが帰ってきていることが分かる。
「どこで油を売っていた?……ん?イリナか。どうした、こんな時間に」
伯母さんは最初、僕を窘めるような口調だったが、すぐにイリナの姿を見て、その口調を優しげなものに変えた。
「まぁ、それは追々話していくとして、イリナの分の食事って足りますか?」
「ああ、足りる。お前の分をそのままイリナの分にすればな」
そして、一瞬で何かを感じ取ったのか、伯母さんは茶化すようにそう言う。
「普通に酷いですよ。居候の身であんまり言えたもんじゃないですけど、三等分するっていう平和的手段はないんですか」
「まぁ、四分の一は冗談だとして、とりあえず座ってろ。もうすぐ夕飯ができるから」
「四分の一しか冗談じゃないんですか……」
僕は割と本気な顔をした叔母さんを見て、肩を落としながら席につくのだった。
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