046
僕達は苦い顔をしたイリナに案内され、席についた。
「それでイリナは何やってるの?」
イリナは酷く面倒臭そうな顔をしながらそっぽを向いている。
「……そ、それは……」
「もうさっさと言っちまえよ。面倒臭ぇ奴だな。おい、シオン。お前何頼む?」
ローレンさんはイリナがここにいることを対して気にしていなさそうで、注文の片手間程度にしか思っていないようだ。
「無関心なのはいいけど、それはそれでムカつくわ!……あの……その、シオンはやっぱり気になる?」
「うん。友達が喫茶店でウェイトレスしてたら誰でも気になると思うよ?」
「だ、誰でも……まぁ、そうよね。分かってたわよ。アンタはそういう奴よ……」
イリナは少し残念そうに肩を落としてそう言ってから、ため息を吐いた。
「もう分かると思うけど、私今ここでバイトしてるのよ」
瞬間、僕は思わず笑い出してしまった。
「な、何よ!私がバイトすると何か変なの!?」
イリナは勿論顔を真っ赤に染めて怒り出す。
どこか変かと言われたら勿論変だろう。
自覚があるのかないのか分からないが、イリナは王女様で、しかも勇者という本来バイトとはかけ離れた存在だ。
そんなイリナの事情を知っている僕が慎ましくバイトをしているイリナを見て笑い出さずにいられるわけがない。
「ご、ごめん……ぷっ、あははは!いや、本当に申し訳ないとは思ってるんだけど……ふふっ……ちょ、ごめん、本当にごめんなさい。流石にそれは洒落になってないから!?」
いつまでも笑うのを止まずにいる僕をイリナは冷たい目で睨みながら、一瞬で顕現させた聖剣をこちらに向けてくる。
「じゃあ、俺はこのブランドコーヒーを頼む」
そんな僕達のやり取りを意にも介さずローレンさんはメニューを指差して言う。
「少しは気にしてくれても良くないですか!?僕今割と殺されそうなんですけど!?」
「シオン、そりゃお前が笑ったからだろうが。自分で注いだ油に引火した火は自分で消すのが常識だ」
ローレンさんは少しも笑わずに僕にそう言った。
思いがけず真面目な回答を頂いてしまった僕は少し反省した。
勿論あのローレンさんに説教された、というのが恥ずかしかったというのもある。
「……アンタは笑わないの?」
「笑う理由がねぇ。お前がどこでバイトしようが俺には無関係だし、興味もねぇ。仕事さえしてくれればそれでいい。だからお前は俺の注文をさっさと取れ。くっだらねぇことで言い争いしてんじゃねぇ」
ローレンさんはイリナの目も見ずに、本当に何の興味も無さそうに淡々とそう口にした。
「カッコいい雰囲気出しているとこ悪いんですけど、貴方にだけはそれ言って欲しくないです」
「おま、どうしてくれんの!?今めっちゃいいこと言ってたじゃん!本当に雰囲気台無しじゃん……ったく……まぁ、確かに俺達は普段から変なことで喧嘩してるけど、俺は笑わねぇよ……金がねぇ辛さってのは分かってるつもりだからよ」
僕は普通に良いことを言うローレンさんを少し見直していた。
しかし、途中まではイリナも僕と同じ気持ちだったようだが、最後の一文を聞いたところで顔色が変わった。
最後の最後で一言多いローレンさんだった。
ぎゃあぎゃあ騒いでいる二人を他所に僕もメニューに目を通す。
結局ブレンドコーヒーにすることしたのだが、メニューを見ている間に二人の喧嘩が治ったようだ。
「……ではブレンドコーヒー二つでよろしいですね。少々お待ちください」
ローレンさんのこんなに騒いでいるとクビになるぞ、という尤もな言葉に完全敗北したイリナはそれだけ言って、カウンターにいるマスターに注文を伝えにいった。
幸い、マスターはとても優しそうな人で、万事微笑みを絶やさず、こちらを見守っていた。
「それで提案なんですけど、イリナなんてどうですか?」
僕はイリナに聞こえないように少し声のボリュームを下げてローレンさんに話しかける。
「お前、正気か?あのゴリラ女をサークルに入れんのかよ?」
ローレンさんは心底嫌そうに顔を歪めてそう言った。
そこまで嫌ですか。
「逆に考えてくださいよ。サークルの活動内容的にはイリナがいた方が好都合じゃないんですか?冒険者稼業に手を出すなら、戦力はあって邪魔にはならないでしょう?それに何でかは知りませんけど、イリナはどうやらお金に困っているみたいじゃないですか。向こうも向こうでサークルに入る意義はある。かなり優良物件だと思いますよ?」
「む、むぅ……そう言われると、この上なく好条件な奴に見えてきたな……しかし、誘ったとして、俺がいるサークルに入ってくれるか?」
ローレンさんに自覚があったことはさて置き、可能性は低くないように見える。
「そういうのはもう考えている段階じゃないです。とにかく当たってみるしかないでしょ」
「分かった。だけど、誘うのはお前からにしてくれ。俺が言ってもアイツは絶対に入ってくれないだろうからな」
ローレンさんは渋々といった感じではあるが、承諾してくれた。
後のことは僕の手腕に関わってくるといっても良いだろう。
この勝負、絶対に負けるというわけでもないはずだ。
「お待たせしました。ブレンドコーヒーです」
そこまで話したところで、イリナがブレンドコーヒーをお盆のに載せて運んできた。
この間から先に帰っていた原因がこれだと考えると、バイトを始めてから結構経っているということなる。
イリナのウェイトレス姿はすっかり板についたような感じで、その所作も全く違和感を感じさせない。
「ではごゆっくりどうぞ」
イリナは終始無表情のまま僕達に接すると、そのまま奥の方に引っ込んでしまった。
「……これ本当に大丈夫なのか?」
「……希望はあります。今はその希望を最大限に高める為に、活動内容を明確にしましょう」
そして、僕達はサークルの活動内容を詰めていった。
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