042
「シオン、サークル作ろうぜ」
「「……は?」」
昼休み、僕とイリナが食堂で昼食を摂っていると、その闖入者は藪から棒にそんなことを言い出す。
そんな状況だったので、僕とイリナは思わず声を上げてしまう。
「いや、だからサークル――」
「待って、それは聞こえてるわ。少なくとも私は何故急にそんなことを言い出したのかってことを聞いてるのよ」
尤もな質問だとは思うが、この人に対しては……。
「うるせぇ、お前には言ってねぇよ。で、シオン、どうだ。やらないか?」
予想を全く裏切らず、いつも通りこうなる。
「……まずはどんな活動内容なのかぐらい聞いておきたいです」
正直嫌な感じしかしないが、話も聞かずに拒否するのも良くないと思った僕はとりあえず話を聞いてみることにする。
「活動内容?そんなもん決まってねぇ!とにかく俺はサークルがやりてぇんだッ!!」
ローレンさんは瞑っていた目をカッと見開き、握り拳を作って、そう高らかに宣言した。
全く胸を張れる状況ではない気がするのだが、この人はいつも自信あり気だ。
「さっきの軽口は捨て置いてあげるけど、そんな状況で人に話持ってくるってどうかしてるんじゃないの?」
今まで黙っていたイリナが口を開いた。
言い知れぬ嫌な寒気が僕に伝えている。
また面倒なことが始まるぞ、と。
「お前にはいってねぇっつってんだろ。話入ってくんじゃねぇ、クソ女」
始まった始まった、いつもこの切口上からなのだ。
「……何ですって?今この私をクソ女呼ばわりしたクソ魔族がいた気がするのは気のせいかしら……?」
僕はそんな様子に見向きもしないで、残っていた昼食を食べ進める。
「お?どうやら耳まで腐ってきたようだな。この距離で聞こえないとなるとこりゃ、将――」
瞬間、ローレンさんは大きな上へ打ち上げられる。
しかし、良く計算されていることに、何もないところにローレンさんは落下する。
勿論僕はそんなことは気にも止めずに更に食べ進める。
「羽虫がいると思って叩き落とすそうとしたら、思わず叩き上げちゃったわ。最近良く手が滑るのよね」
イリナは誰に言っているのか、そんなことをぬけぬけと言い出す。
と、そこまでイリナが言ったところで、僕は昼食を全て食べ終えた。
そして、足早にテーブルを離れると、しばらくしてからひどく嫌な鈍い音が聞こえた。
そう、それは丁度人を殴った時に出るような音だ。
ちらっと自分がいたテーブルの方を見てみると、そこにはイリナはおらず、大分離れたところに彼女は倒れていた。
あの二人の喧嘩が見るに耐えないのは手が普通に出るところだ。
女の子が殴る様も殴られる様も見ていて気持ち良いものではないのは誰にでも分かるだろう。
そんなことを思っていると、今度は取っ組み合いを始め出した。
こうなると、もうしばらくは治らない。
僕が呆れてものも言えずにその様を見ていると、横で良く知った声がする。
「イリナさんともあろうお方がはしたないですね。シオンさんもそうお思いなんでしょう?」
そこにいたのは僕と同じく呆れたような顔をしたサータリーファルさんだった。
「まぁそうだけど、ああなったらもう手をつけられないよ?」
僕は既にあの二人を止めるのを諦めている、というか懲りている。
あの二人の喧嘩は止められないどころか、止めようとすると、二回に一回は流れてきた攻撃が自分に当たる。
だから僕はもうあの喧嘩には関わらないように決めた。
僕と同じような犠牲者が出るのも気分が悪いので、僕は一応サータリーファルさんを止めようと思ったのだ。
「まぁ、少し見ててください」
サータリーファルさんはそれだけ言って、悠然と喧嘩の起きている方は歩いていく。
「イリナさん、ローレン、皆さんの迷惑になるので、喧嘩は外でやってください」
彼女が言うと、喧嘩が止まった。
しかし、それも一瞬だろう、そう思ったのだが……。
「誰だおま……どえええぇぇぇ!!?お、お、お、おおおおお嬢!!?何でこんなところに!?」
ローレンさんは目にも留まらぬ速さで後退り、驚愕に目を見開いてから、絶叫とも言える程の声を上げた。
あそこまでローレンさんが驚くのも珍しい。
さしもの彼でも魔貴族は恐ろしい存在なのだろうか?
「何よ、レイラちゃん。このウスラ馬鹿と知り合いなの?」
「ええ、少し家同士の付き合いがありまして、ローレンとは見知った仲なんです」
なるほど。しかし、それにしたって、ローレンさんは驚き過ぎではないだろうか?
いや、もしかすると、怖がっているのかも知れない。
「そ、それよりお嬢はどうしてこんなところに?」
ロ、ローレンさんが下手に出て話している、だと!?
唯我独尊、傲岸不遜などなど、とにかく自分第一のローレンさんが揉み手でサータリーファルさんに話しかけている。
ここまでくると、ローレンさんはサータリーファルさんに何かしらの弱みを握られているのではと疑わざるを得ない。
「まぁ、私からすれば編入なんですけど、いわゆる転校というやつです」
「そっすか、転校、転校ですか……って転校!?お嬢いつからこの学院にいたんすか!?」
一日か二日の来訪とでも思っていたのか、ローレンさんは転校という単語に異様な程驚いている。
「一週間前ぐらいからです。挨拶が遅れたことは謝ります」
「いや、謝るなんてそんなことは別にいいんすけど……つまりはここにずっといる、という……?」
「ええ、そういうことになりますね。よろしくお願いしますね、ローレン」
「……ひょ、ひょろひくおねがひまふ……」
もうローレンさんの顔は世界の終末を何回か体験してきたような感じになっており、見たこともない程動揺しているのが簡単に見てとれた。
しかし、これはもしかすると、サータリーファルさんさえいれば、この二人の闘争は止められる、ということではないのか……?
「サータリーファルさん!明日から一緒にお昼ご飯食べましょう」
僕は一瞬の躊躇いもなく、それはそれは綺麗な礼でお願いするのだった。
本作をお読み頂きありがとうございます。
作者から二つお願いがございます。
ずばり、ブクマ登録と評価です!!
何卒、よろしくお願い致します。




