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『全員夕方五時までに、山の反対側にいるアリステラ先生に証となる魔鉱石をもらって帰ってくること。それと急遽ルールに追加になったんだが、《転移》の魔法は禁止ということだ。では、皆の健闘を祈っている』
拡声魔法を用いた隣のクラスの先生の話の終了を合図に生徒達は一斉に山に向けて走り出す。
今日は踏破試験当日。
学期末に試験がもう一つあるらしいのが、今回の試験はそれに関わってくる重要なものだそうだ。
それに加えて、成績においてかなりの評価割合を占めるということもあって、生徒達のやる気は最高潮に達しているのだ。
そういうこともあって、《転移》禁止令に面喰らった僕は少し出遅れる形での出発となったのだった。
《転移》禁止令は僕にとって大きい。
向こう側で魔鉱石をもらったら、すぐさま《転移》で帰還しようと思っていたのに、その計画が全て台無しになってしまったのだ。
僕のやる気は他と違って、駄々下がりである。
しかし、どうやら僕と同じ状態に陥っている人がいるようだ。
「サータリーファルさんも《転移》が使えるの?」
僕は少し足早に駆け寄り、ぼーっとしながら、とぼとぼ歩いているサータリーファルさんに話しかける。
「へっ!?……あ、はい。そんなに顔に出てましたか?」
サータリーファルさんはひどく驚いたような顔をして、そう言った。
「うん。結構顔に出てたかな」
僕の考えとは違うところであんな顔をしてたのかも知れなかったが、傍から見ると、《転移》を禁止にされて残念がる人にしか見えなかった。
「そう、ですか……シオンさんも私と同じく?」
「僕も《転移》禁止令を喰らって、計画が台無しになった」
こうなると、本当に僕達も急がないと間に合わなくなりそうだ。
既にイリナなんかはもう見つからない程前にいる。
さっき見た限りでは木の枝から枝へぴょんぴょん跳んで、独走状態になっていた。
「じゃあ、私達もそろそろ本気で行きましょうか?」
と、その時、森の中から《火球》が飛んでくる。
向き的には丁度こちらの方に命中すると思われた。
しかし、サータリーファルさんが指をパチンッと鳴らすと《火球》は速やかにその勢いを失い、魔力の粒子となって、風に流されていった。
「……さ、流石だね」
僕は思わず驚愕に目を見開いてしまう。
魔法を無効化する魔法なんて聞いたことがない。
もしかしたらそういう風に見せる魔法なのかも知れないが、どちらにしろ、戦うことになれば、大きな脅威となるだろう。
まぁ、戦うこと自体そうそうないとは思うが。
「いえいえ、これぐらい何でもありませんよ」
瞬間、サータリーファルさんから肌をちりつくような、とてつもない圧が発せられる。
魔力を体の隅々まで行き渡らせることによる身体強化、サータリーファルさんはこれを行ったのだ。
それに加えて、サータリーファルさんな練度は他の人より圧倒的に高い。
地の魔力もさることながら、ここまで魔力操作の練度が高いということは相当な訓練を積んだのだろう。
「では、お先に失礼しますね」
サータリーファルさんは恭しく礼をすると、一瞬で消えてしまった。
まぁ、正確にはサータリーファルさんが高速移動したことによってそう感じたのだが、事実、僕には目の端で山に入っていく姿を捉えるのが精一杯だった。
とにかく、僕もこんなところで燻っているわけにもいかないので、とりあえず全身に魔力を行き渡らせ、速く走れるような状態を整える。
「よし、行きますか」
そうして僕も地面を思い切り蹴ったのだった。
山の中腹辺りに入った頃だろうか、そこにどんよりとした空気が漂っていた。
おそらく、これの正体は多くの人が魔力を排出したことによるものだと思うのだが、それにしたって、濃度が少し高過ぎる。
魔力も風に流されるという性質があるため、このように一箇所に留まるということはないのだ。
たまたま風がないだけなのかとも思ったが、そうでもないようだ。
どういうつもりで仕掛けたのかは分からないが、『そういう魔法』が働いているのを感じる。
こんなものを仕掛けても精々高濃度の魔力に酔って、少し気分が悪くなるぐらいのものだろう。
それ故に僕には殆ど役に立たないはずなのに、こんな手の込んだ術式を使ってくる意味が分からないのだ。
しかし、術者は近くに居ないようだし、気にしても仕方ない。
そう思った僕は不気味さを覚えながら、足早に通り抜けるのだった。
この時はまだ、誰かに見張られているとは露ほども思っていなかった。
「ふむ、お前で最後だな」
やっとのことでアリステラ先生の元に辿り着いたのに、かけられた言葉は辛辣そのものだ。
もう少し、応援する言葉をかけて頂きたいものだ。
「え、最後って本当ですか?」
僕は驚愕の事実に思わず聞き返してしまう。
「ああ、用意していた魔鉱石が丁度最後の一つだ。《転移》を禁止にしたらすぐこうなるのは困ったものだな」
特に気にした様子もなく、先生はそう口にした。
「《転移》禁止令って伯母さんが出したんですか!?」
まぁ、何となく予想はついていたのだが、こんなのほぼ名指しで妨害を受けたようなものだ。
ひ、酷過ぎる……。
「でも私のお陰で自分の課題が見えてきたんじゃないのか?」
確かに僕の魔力量には依然として問題があると思ったが、毎日魔力は空っぽにして寝ることで、容量を増やす努力はしている。
「まぁ、一朝一夕でどうにかなることでもなし、そんなに気にすることでもないが、同じ人間族でもイリナは一番にここに来たぞ?」
それを聞くと少し耳が痛いが、それはスキルによる底上げという部分もあるのだろう。
僕がイリナに追いつけるはずなどない。
「あ、イリナと言えば、最近あまり話してないんですよね。放課後も忙しそうにしているし……伯母さん何か知りません?」
僕はふと思い出したことを伯母さんに問うてみる。
この人ならば、イリナから何か相談を受けているのではと思ったのだ。
「いや、特に知らんが、まぁ、あれくらいの年頃であれば色々あるだろう。あまり詮索するものではないと思うがな」
何やら達観したような口調で伯母さんは言った。
そして、話が終わりだとばかりに私は先に帰っているから、と《転移》特有の光に囲まれて行ってしまった。
復路では往路で遭遇した妙な魔法が働いている場所などもなく、何事もなく帰ることができた。
人間族がビリというのも当たり前なので、特に何かを周りから言われたりはしなかったが、心なしか周囲の生徒達は清々しい顔をしていたように見えた。
こうして踏破試験は幕を閉じた。
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