040
魔都ゲルドガルドの遥か上空、そこに悠然と佇む船の中である会議が行われていた。
「観測機を回してみてどうでしたか?」
この船の艦長であるレイラはそれらしい落ち着き払った声音でクルーに問う。
「結果から言えることは至って普通の人間族、ということです。おかしな点は見受けられませんでした」
クルーは淡々と報告し、場は一度静まり返る。
「それは彼が対象ではなかった、ということですか?」
沈黙を破ったのはレイラの隣に座った眉目秀麗と言った言葉が似合う青年だった。
「そうとは言い切れませんが、確率はかなり低いかと」
そのクルーの報告を聞き、会議室は俄かに騒がしくなる。
会議室の者は皆安堵した顔をしていた――ただ一人を除いては。
「了解しました。引き続き観測機は回しておいてください」
瞬間、会議室にどよめきが起こる。
「な、何故ですか!?他に可能性のある人間族を当たった方が――」
「その可能性が一番高いのが彼でしょう?可能性はできる限り潰しておきたいのです。よろしくお願いします」
レイラはそう言って、席を立った。
それを追うように隣に座った青年も席を立つ。
二人が会議室を出ると分かると、クルー達は一糸乱れぬ敬礼で見送る。
「何故あそこまで彼にこだわるのですか?」
青年は声音に疑問を滲ませ、レイラに問う。
「それはさっき言った通りです」
レイラは後ろを歩く青年の方を振り返ることもせず、ただそれだけを淡々と言う。
「そういうことではなくてですね……」
青年はレイラのはぐらかしたような返答に語気を強めて、咎めるように言う。
「分かっています。これは私のわがままです。ですが、彼の可能性が高いのは分かるでしょう?」
「ええ。この資料にはもう一人の人間族であるあの少女が高確率で《勇者》であるという結果が出ています。そうなれば、予言に合う魔都にいる歳若い人間族という条件で絞った場合……」
青年は資料にペラペラとめくり、目を通しながらそう言って、一旦言葉を止める。
そして、それに答えるように、レイラは言葉を発する。
「そう、予言が正しいと仮定した場合、残りの歳若い人間族はシオン・ライトヒルトただ一人となります」
レイラは唇を微かに噛みながら、悔しそうにそう言った。
「分かっておられると思いますが、もし、彼が魔王で且つ、何かおかしな行動を見せたら――」
青年はその美しい顔の眉間にしわを寄せて、強く念押しするようにレイラに語りかける。
「サータリーファル家現当主として、魔王監査室筆頭執行官として、シオン・ライトヒルトを処断します」
彼女もまた険しい顔つきで資料にあるシオンの写真を睨みつけながら、そうはっきりと言うのだった。
サータリーファルさんを案内したその翌日、僕は休息日を利用して、週明けの試験の準備をしていた。
試験というのはゲルドガルドのすぐそばにある山の反対側まで、一日で行って帰ってくるというものだ。
勿論、魔法を使ってもいいし、何をしてもいい。
一番大事なことは一日で行って帰ってくるということなのだ。
「試験準備なんてものは普段からやらない者のすることだぞ?」
伯母さんの容赦ない言葉が耳に入ってくるが、今回の場合は準備をするのが普通だろう。
「普段から踏破訓練用に荷造りなんかしてるものなんですか!?」
僕は思わず声を上げて反応してしまう。
「私はほら、あそこにしっかりと準備してある」
伯母さんは部屋の端に置いてある背嚢を指差して言う。
それは一週間前伯母さんに言われて僕が準備したものなのだが、確かに何日も前から準備はされている。
「……分かりました。以後気をつけます」
僕は口から今にも飛び出そうだった反論をなんとか抑えて、反省の言葉を口にする。
まぁ、心は全くこもっていないのだが。
「そう言えばシオン、あの転校生の様子はどうだ?」
今まさに思い出しかのようにサータリーファルさんのことを聞いてくる伯母さん。
担任としてはもう少し早く聞いておくべきだろうに……。
「様子と言われても、特に問題ないと思いますよ?普通にクラスにも馴染めてますし」
僕はサータリーファルさんの教室での人気ぶりを思い出しながら、伯母さんに伝える。
「そうか。それならいいんだがな……」
伯母さんは足を組み換えて、考えるような仕草をする。
「何かあるんですか?」
「いや、何という程ではないんだが……実は彼女の両親は一年程前に亡くなっていてな。直系の家族は既にいない、そんな状態で家の権力闘争に巻き込まれ、何とか当主の座を射止めたと聞いたのだが、彼女の精神状態はあまり良いものではないと思っていたんだ。まぁ、何も問題ないなら、いいんだ」
伯母さんはそれだけ言って、また自分の部屋に戻ってしまった。
サータリーファルさんは自分はサータリーファル家の長女だと言っていたけど、本当のところはもう当主だったようだ。
僕はその事実に驚きながらも、一つ変な想像をしてしまった。
魔貴族は九柱しかないわけで、何年か後にはどうしたって、サータリーファルさんにあの学院の学長をする年が来るのだ。
今の学長も十分若い見た目をしているが、実年齢は何百歳になるのか分からない。
しかし、サータリーファルさんは本当に若くして学長をしなければならないのだ。
一体どんな学長になるのか、そんなことを考えて少し変な笑いを溢しながら、僕は準備を進めていくのだった。
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