039
次の日、僕とサータリーファルさんは授業を終えるとすぐに街に繰り出した。
案内を始めるまでに時間がかかり、終了時刻がギリギリになってしまったという昨日の教訓を生かしての行動だ。
「今日はどこを案内してくれるのですか?」
気のせいだろうか、サータリーファルさんの腰から尻尾が生えているのが見える……。
本当にあったらさぞかし可愛いであろう幻覚を頭から追い出し、僕は昨日のうちに簡単に考えていた計画をサータリーファルさんに話す。
「まずはたくさんお店がある大通りに行くから、そこで好きに買い物しながら、進んで行くっていうのはどう?」
僕が言うとサータリーファルさんは顔を輝かせる。
「凄く楽しそうですね!さ、早く行きましょう?」
そう言って、道も知らないのに僕の手を取って、歩き出すサータリーファルさん。
「……ここはどっちですか?」
予想通りサータリーファルさんは少し困った顔をして、こっちを見てくる。
なんか可愛い小動物と散歩している気分になってきた。
「こっちだよ」
僕はそのまま彼女と手を繋いだまま道を行く。
周りからの視線が少し痛いが、気にしないことにした。
「ここが凱旋通り、この街で一番大きな通りだよ」
凱旋通りというのはその名の通り、街の門から魔王城に続く道となっていて、魔王が戦の凱旋パレードに使った道だとも言われている。
「凄い活気ですね……!」
昨日と同じように、花が咲いたような笑みを浮かべ、とても楽しそうにするサータリーファルさん。
「サータリーファルさんの住んでる街はどんな感じなの?」
サータリーファル家の領都がどこにあるのかなどは全く知らないのだが、物珍しそうな表情をしているのを見ると、こういう風景は見慣れないのだろうか?
「そうですね……まぁ、概ねこういう感じではあるんですけど、少し雰囲気が違うんですよね」
サータリーファルさんは笑顔を浮かべているけれど、少し寂しげな笑顔だ。
きっと故郷のことを思い出しているのだろう。
前はリハバイトの規模を小さくしただけの街だと思って、勝手にどこの領都も同じようなものだと思っていたのだが、そういうわけでもないようだ。
「あ、ここのお店見てみたいです!」
サータリーファルさんは良くある庶民的な雑貨屋の前でぴたりと止まった。
貴族というと、高級なアクセサリーなどを好んで身につけると思っていたのだが、サータリーファルさんは違うのだろうか?
何はともあれ、とりあえず僕達は入店する。
「このお店には色々な物があるのですね……」
サータリーファルさんは売られている品物を物珍しそうに次々と見ていく。
「参考までになんだけど、このお店がどういう所か分かる?」
もしかすると、彼女は雑貨屋という単語を知らないのではと思い、僕は一応問うてみる。
「あ、私を馬鹿にしてますね?勿論、知っています!こういうお店のことを雑貨屋さんと言うのですよね?」
僕は安心して、思わず胸を撫で下ろす。
「まぁ、昨日クラスの方々に聞いたんですけど」
ずっこけたくなる気持ちをぐっと押さえて、僕はこういうことを説明するのが僕の役割なのだと実感したのだった。
買い物や寄り道をしながら、魔王城へと続く大通りを進んで行き、僕達はとうとう魔王城に到着した。
時刻は既に五時を回っており、夕陽が魔王城の姿を露わにしている。
「凄い迫力ですね……!」
魔王城はハイゼラニカの王城にも引けを取らない程の迫力を持って、僕達を襲っていた。
やはり城にはある種の怪しげな雰囲気というのがあって、見る人を不思議と圧倒する。
「ここが魔都最大の観光名所と言ってもいい場所だからね」
逆に迫力がなくては困るのだ。
「……では行きましょうか」
そう言って、来た道をそのまま引き返そうとするサータリーファルさん。
「え?これだけでいいの?」
僕は思わず聞き返してしまう。
ここの他にはもう見るべき場所はないし、ここが最大の見所であり、終着点なのだ。
「はい。しかと目に焼き付けました……それよりこれを買ってくれませんか?」
サータリーファルさんが指差す先にあるのは、アクセサリーが売られている露店だ。
僕達はその露店に近づき、品物を見ていく。
「えっと、どれがいい?」
「買ってくれるのですか?」
サータリーファルさんは驚いたように目を見開く。
自分で買ってくれと言ってきたのに、彼女は僕が買ってくれないと思っていたらしい。
「うん。何かの記念にね」
まぁ、何の記念かは分からないが、サータリーファルさんには景色よりもこういう形に残る物の方が良かったということだろう。
「そういうことなら、折角ですからシオンさんが選んでくれませんか?」
「ぼ、僕が決めるの!?」
こ、困った。僕にはこういうアクセサリーのセンスはないし……。
僕が困惑しているのを知ってか知らずか、彼女はキラキラした目を送ってくる。
うん……選ばなきゃいけないようだ。
僕は葛藤を終えて、サータリーファルさんに似合うアクセサリーをこれでもないと探していく。
「こ、これでどうでしょう……?」
僕は思わず敬語になりながら、サータリーファルさんに選んだアクセサリーを渡す。
ちなみに僕が選んだのは首飾りだ。
「……!ありがとう、ございます……死ぬまで離しません」
サータリーファルさんは一瞬驚いたような顔を見せたが、すぐに優しげな笑顔に戻り、首飾りを強く握りしめた。
「大事にしてくれるのは嬉しいけど、大袈裟過ぎじゃない?」
僕は会計を済ませながら、そう言う。
「そんなことないです。人から貰った物は大切にするものです」
僕があげた物だからという調子に乗った勘違いは大外れだった。
それにしても、素晴らしい信条を持っている。
自分がますます恥ずかしくなってきた。
「まぁ、でも――」
僕が自分のダメさ加減に肩を落としていると、彼女が声を発する。
「シオンさんに貰ったっていうのが一番です!」
僕は彼女のあまりの可憐さに、胸を鷲掴みにされ、心音を大きくすることしかできなかった。
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