038
授業が全て終了し、帰りのホームルームも終わると、クラス内の人数は途端に少なくなる。
当たり前と言えば当たり前なのだが、僕の中では放課後は教室で友達としょうもないことを話す時間ということになっていた。
まぁ、イリナもローレンさんもそういう無駄なことをしないタイプだから、その体験をしたことはなかった。
しかし、僕は今その放課後の教室にいる。
イリナは何やら用事があると言って、ホームルームが終わるとすぐに帰ってしまった。
そして、僕はサータリーファルさんに学院と街を案内して欲しいと言われ、手続きをしている彼女を待っている状態なのだ。
この学院にはサークルという生徒達の様々な活動があり、それに参加している生徒も多いようだ。
そういうわけもあって、教室には何人かの生徒しか残っていないのだった。
そんな教室で僕は何をするでもなく、ぼーっとしているわけなのだが、突然教室に残っていた女子に話しかけられる。
「ライトヒルト君!ずばりサータリーファルさんとはどんな関係なの!?」
復学してからというもの、こういう機会が実は何度かあった。
魔族の社会は前にも言った通り、弱肉強食で男子からの目は未だに厳しいものも多いが、大会である程度の強さを見せたことによって、女子からの目は柔らかなものになった気がする。
まぁ、この人は強いからって理由で話しかけられるのも少し複雑な気分ではあるけど。
「えーと……昔少し一緒に遊んだことがあって、だから友達かな?」
「えー、だけどサータリーファルさんは旦那様って言ってたじゃん」
彼女は目をキラキラと輝かせて、僕に更なる質問を投げかけてくる。
女子って本当にこういう話好きだよなぁ……。
僕が若干辟易気味になりながら誤魔化していると、サータリーファルさんの声が教室に響いた。
「お待たせしました……あら、お話中でしたか?」
サータリーファルさんは首を少し傾げてそう言う。
「いや、そんなことないよ!じゃあまた明日!」
「ちょっ――」
女子の声が聞こえた気がするが、まさに天の助けとばかりに僕は彼女の手を引いて、教室を慌ただしく後にした。
「もう大丈夫だと思いますよ?」
言われて僕はいつの間にか大分教室から離れていたことに気づく。
「ご、ごめんっ!急に引っ張って……」
僕は繋いでいた手を慌てて離し、少し気恥ずかしくなりながら言う。
「いえいえ、構いませんよ。それで今日はどこを案内してくれるのですか?」
サータリーファルさんは特に気にした様子もなく微笑を浮かべて、僕に問いかける。
や、やっぱりやりにくい……。
「うーん……まずは学院内からだよね。今日は時間が遅いから街の案内はできないけど、それでもいい?」
「寧ろそっちの方がいいです!シオンさんと一緒にいられる時間が増えますから」
微笑どころか、花が咲いたそうな笑みを浮かべ、彼女は臆面もなくそう言う。
「ソ、ソウデスカ」
直球過ぎる言葉に恥ずかしいを通り越して、頭と心が悲鳴を上げ、停止してしまった。
まぁ、それも無理からぬことだろうとは思う。
だって、彼女は誰もが羨むような完璧な女の子なのだ。
普通に話していても緊張するのだ。
そんなことを考えながら、僕は案内する順路を頭で組み立てていく。
「この校舎には一から四回生までの教室と医務室、教員室、実験室みたいな授業に直接関係のある教室が集中しているんだ。とりあえず、僕達が結構利用する医務室と実験室の場所を教えておくね」
「お願いします」
折り目正しくお辞儀をするサータリーファルさんをチラッと見てから、僕達はクラスの教室以外が集中する最上階を目指す。
そして、あらかた教室の説明が終わったところで、一度校舎の外に出る。
向かった先はサークルの拠点となる部室が集中する特別棟だ。
特別棟はさっきまで僕達がいた教室棟と同等の広さがあり、未だに部室は余っている状態らしい、という説明をさらっとして、図書棟に向かう。
「ここには魔族領中の本が集まっていて、魔族領一の蔵書数を誇る図書館なんだ。まぁ、僕はそんなに本を読まないから良く分からないけど、何か読みたい本があれば、ここに間違いなくあるみたいだよ」
「本当になんでもあるんですか?」
そう疑いたくなる気持ちも分かる。
僕も説明された時は流石に疑った。
まぁ、それも中に入ってみると、意外と解消されてしまったのだが。
僕は自分の経験を元にサータリーファルさんに中に入るよう勧める。
「うわぁぁぁ……!!
どこまで続いているか分からない程の本棚の列。
見上げると外観より圧倒的に高い天井の位置。
本棚の数を数えているだけで頭がグルグルしてくるので、この図書館の蔵書数が一体どれだけのものなのかは想像できないが、とにかく多いということだけは分かるのだ。
「……あれ?この天井、明らかに見た目より高過ぎじゃないですか?」
まぁ、尤もな質問だろう。
誰が見てもこれは不思議に思うはずだ。
「この図書館内の空間が歪められているらしくて、それで外から見る時より高く見えるんだ」
「空間歪曲、ですか……」
そうぽつりと呟いたサータリーファルさんの目が一瞬赤く光った気がしたのだが、僕がもう一度見た時には綺麗な青い目に戻っていた。
多分、気のせいだったのだろう。
図書棟を出てホールの説明をすると、最終下校のチャイムが学院内に鳴り響いた。
僕達が利用しそうな場所は全て説明し終えたところだったから、ちょうど良いタイミングだ。
「今日はありがとうございました。お陰で学院ことが良く知れました。明日は街の案内をよろしくお願いします」
そう言ってまたぺこりを頭を下げるサータリーファルさん。
そして、さようなら、と言って校舎の方に走っていってしまった。
「……結局聞かなかったなぁ……」
この変な時期に何の目的で学院に来たのか、それには僕が関わっているのか、一つも聞くことはできなかった。
明日聞けばいいか、と思い、僕は《転移》を発動するのだった。
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