035
魔族領に戻った後は特に何もせず、残りの休学期間を消化した。
そして、久しぶりの登校日の昼休み、その事件は起こった。
「シオン、一緒にご飯――」
いつものように僕達が二人で昼食を摂ろうと話始めようした時、教室のドアが凄まじい音を立てて開けられた。
教室に残っていた生徒全員が思わず音のした方に目線を向けてしまう。
「……お、シオン!お前ようやく休学明けたらしいな。とりあえず二人で飯行こうぜ?」
教室のドアを開けるなり、僕の方に近づいてきたのは決勝戦で当たったマギレガー先輩だった。
先輩はそう言うや否や、僕の腕をがっしりと掴んでやや強引に引っ張る。
「え、ちょっ!待ってくださいって!急にどうしたんですか!?」
僕はいきなりの展開に心当たりがなさ過ぎるので、とりあえず先輩の腕を振り払う。
「別に急じゃねぇよ。今まで一緒に飯食おうと思ってたのに、お前が休学になったから、それが明けるまで待ってたんだ。ってわけで行くぞー」
そう言って先輩は再度僕の腕を掴み、そのまま歩いて行こうとする。
しかし、その歩みは僕の反対の手が掴まれたことによって停止する。
「ちょっと、コイツはこれから私とご飯を食べるの。勝手なことしないでくれる?」
イリナは視線を鋭くして、臆することなく、なんの躊躇いもなく先輩を睨めつける。
すると、途端に険悪な空気が流れ出す。
「あ?そんなもん後にしろ。俺は一週間待ってんだよ」
こ、この二人は恐らく……相性最悪だ。
まずどちらも口が悪いし、喧嘩っ早そうな性格だ。
口論で済めばいいけど……。
「知らないわよ。大体アンタなんかとシオンが食べたいわけないでしょ。ね、シオン?」
こ、こっちに振ってきた!?
「んだと!?おい、シオン!こんな女よりも俺と食いてぇよな?」
イリナの言葉に怒りを露わにする先輩。
完全に逃げ道がなくなってしまった。
しかも、どちらを答えてもバッドエンド直通だ。
「……とりあえず三人で食べるってことで良くないですか!?」
当然、僕はお茶を濁すわけで……。
「ちっ……まぁいい。この生意気なガキがいるのは気に食わねぇが、俺は大人だから譲ってやる」
譲ると言いながらも明らかに不機嫌そうな声を漏らすマギレガー先輩。
「アンタが大人なら全ての生き物も大人よ」
その先輩の言葉に対してイリナは吐き捨てるようにして返す。
どうしてこの二人はここまで仲良くできないんだろうか?
「この後輩にはしっかり教育してやる必要があるみてぇだな……?」
顔を歪ませて、手をポキポキと鳴らす先輩。
「教育?それはこっちがアンタにすることよ」
イリナも攻撃できる体勢をとり出した。
事態はまさに一触即発、今にも手が出そうだ。
「あああぁぁぁぁぁぁ!!こんなことしてたらお昼休み終わっちゃいますって!さっさとご飯食べましょうよ!?」
二人はもう一度顔を見合わせてから、ふんっと勢い良く顔を逸らす。
とりあえずの危機を脱したのはいいのだが、マギレガー先輩を僕達の教室に留めておく、というのは級友の精神衛生に悪いので、僕達は足早に教室を出て、食堂へ向かう。
「今日は……日替わり定食にしようかな。二人は?」
「私も日替わり定食にするわ」
「俺も日替わり定食にすっかな」
僕がそうですか、と言うより早く、イリナがまた不機嫌そうに顔を歪ませる。
「私の真似しないでくれる?気持ち悪いわ」
イリナは身震いするような仕草をしながら、嫌悪感を言葉の端々に滲ませて言う。
「お前の真似をしてるんじゃねぇ。俺はシオンと同じものを頼んでるんだよ。勘違いすんじゃねぇ、クソガキ」
よく飽きないものだなと思う。
ここまでくると、この二人は仲が良いんじゃないかとまで思えてきた。
「後ろがつかえるので、後にしましょうよ……」
僕は肩を落としながら、諦め気味に言葉を発した。
「で、先輩はどういうご用で僕に所に?」
やっとのことで昼食を摂り始められた僕達であったが、早々にはっきりさせておきたいことだったので、僕はいきなり本題に入る。
「そうだなぁ……まずはその先輩ってのなしな。こそばゆくて、まともに話せそうにない。ローレンさん辺りでよろしく頼む」
それぐらいなら特に断る理由もない。
「……改めてローレンさん。僕に何のご用ですか?」
「強いて言うなら……シオン、お前の友達になりにきた」
「「……は?」」
僕とイリナは間抜けな顔をしながら、思わずそんな声を出してしまう。
「えっと、何かの冗談ではなく?」
「おう。友達になりにきた」
「アンタ、友達いないの……?」
イリナは悲しいものを見るような哀れんだ目をローレンさんに向ける。
正直言って、こればかりはイリナに同調できる。
低学年の、それも人間族の生徒とわざわざ友達になりにくるなんて、同学年に友達がいないと言っているようなものだ。
「バッカ、俺ぐらいになると、対等な関係を築ける奴は限られてくるんだよ。旦那は友達って感じでもねぇし、旦那以外で俺をぶっ倒した奴って言うと、お前ぐらいしかいねぇんだよ」
恥ずかしがる様子もなく、むしろ得意げに胸を張りながら、そう言い切るローレンさん。
僕達にはそれが余計に哀れに見えてならなかった。
「……分かりました。僕で良ければ、友達、やりますよ」
僕はローレンさんの哀れ具合に目尻に涙を浮かばせながら、握手の為に手を前に差し出す。
「そうね。私も友達をやるわ……」
イリナも僕と同じように手を前に差し出す。
「いや、シオンはともかくお前は普通に気に入らないから別にいい」
そう言いながら、ローレンさんは僕の手だけを取り、よろしくなと言わんばかりにブンブンと手を振ってくる。
「何ですってぇぇぇっ!!?」
二人の何度目かの口喧嘩に辟易し、僕は二人を止めるのを諦め、昼食を摂り始めた。
何はともあれ、これが僕とローレンさんが友達になった瞬間であった。
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