033
「動けねぇだろ?お前が寝てる間に何本か折らせてもらった」
「その、声は……ライオス君、だね?」
あまりの痛みに先刻まで口も効かなかった僕だが、やっと痛みが治まってきて、喋ることはできるようななった。
「ああそうだよ。あれからもっと出汁にしてやろうと思ってたのに、いつの間にかお前が居なくなってたからびっくりしたぜ。しっかし、俺達は妙な因果で繋がってるみたいだなぁ?偶然街で見かけた時はビビったぜ」
……何という不運だ。
この広い王都でばったり会うなんていう偶然は滅多に起こらないはずなのに。
しかし、今はそう悔やんでもいられない。
脱出したいのは山々だが、フレイがどうなっているか気になる。
まぁ、こいつらが無事ということは相当僕が嫌いでそのまま放置して逃げた、ということだろう。
だが、その予想は呆気なく裏切られてしまった。
「兄様、無事ですか!?」
紛れもなく僕の愛すべき妹、フレイの声。
《変声》している可能性もあるが、あれは専門性の高い術式で一般人はまずその名前すら知らないだろう。
というわけでどんな手を使ったのか知らないが、残念ながらこの声は本物である可能性が高い。
「まぁ、無事かなぁ……」
体中の骨がボキボキ折られているようで、全く大丈夫ではないのだが、何とか痩せ我慢。
「カッコつけんなって、無能なお兄様ぁ!」
「ま、いいんじゃねぇの?これから自分の無能さを理解できる素晴らしいものを見せてあげるんだからさ!」
こいつら、まさか……!?
さっきは躾とか言っていたが、僕にやるんじゃなくて……。
「お、おお、お前達、何をするつもりだ?」
僕は震えを止められずに、けれども絶対に聞かなければならないことだから悪魔達に問う。
すると、答えが返ってくる前に僕は体を持ち上げられて、ボロボロの椅子に座らせられる。
正面には今にも泣きそうな顔をしながら、唇を強く噛みしめるフレイが同じように椅子に座らされていた。
「ん?お前の妹をいじめるんだよ」
一瞬の躊躇いもなく、ライオス君はそう言った。
「それだけはやめてくれ!僕にだったら、何でもしていいから、妹にだけは手を出さないでくれ!」
ようやく仲良くなれたんだ。もう誰にも壊されたくない。
「そうか、それなら――」
ライオスはフレイの方にゆっくりと歩みを進めて、フレイの前に辿り着いた時、こちらを振り向いてこう続けた。
「尚更たくさんいじめてやるよッ!」
顔は愉悦に満ち満ちていて、最早一遍の逡巡もない。
それは横にいた二人も同じだった。
ライオスはそう言うと同時にナイフを抜いて、フレイの上着からその下の下着までを縦にスパッと切った。
「っ!!?……いやあぁぁぁあぁぁ!!?」
人気のない倉庫に鳴り響く愛する家族の悲鳴。
腹の底からはドス黒いものが込み上げてくる。
「俺も混ーぜて!」
そう言って傍にいた男の一人もナイフを取り出して、今度はスカートから覗いたフレイの足に小さい傷を一つ、二つとつけていく。
「お前らッ!!やめろ!!それ以上やるなら――」
しかし、僕の言葉はライオスに遮られる。
「やるならぁ?何だよ、言ってみろよ?」
「……っ!」
僕には何もできない。
立つことすらできず、ただフレイが傷つけられる姿を見ているだけ。
自分の守るべき人も守れない、こんな僕に生きる価値なんてあるのか……?
「ははっ、黙っちまったよ!続きをするから、よぉーく見てろよ?」
そうこの上なく不快な笑い声を上げるライオス。
体をドス黒いものが支配し、巡っていく。
「おいライオスぅ!もうそろ下も行くかぁ?」
「お前は本当に手が早ぇな……まぁ、でもそろそろ行ってもいい頃かもな?」
「ひっ……!!?」
フレイの短い悲鳴はしかし鮮明に僕の耳に届く。
瞬間――スイッチが入ったのが僕にも分かった。
「……ろ……」
ライオスは僕の声に気づき、後ろを振り向く。
「あ?なんだって?まだ言うことあんのか?」
「……めろ……」
ライオスは僕に近づき、胸ぐらを掴んで僕の体を軽々と浮かせる。
「良く聞こえねぇんだよ!特別に聞いてやるから、はっきり――」
「やめろつってんだ!!《下衆がッ!!》」
黒い電撃のようなものが辺りを無数に迸り、通った場所を破壊していく。
「な、なんだってんだ!?」
ライオスは驚きに目を丸くし、顔を歪ませているが、もう遅い。
「《黙れ》、《控えろ》」
「「「ッ……!!?」」」
そのただの言葉は見えない力を持って相手の体を貫き、相手を黙らせ、平伏せさせる。
僕は静かにフレイの元に歩み寄り、彼女を拘束していた何らかの仕掛けが施された手錠の輪を半分にする。
僕は傷ついたフレイの体を一瞬で回復し、その体をぎゅっと抱きしめる。
もう、二度と離さないようにフレイの華奢な体を強く強く抱きしめる。
「お前達、《自――」
僕はそう呪詛とも取れる言葉を発そうとしたが、それはフレイによって遮られる。
「兄様ッ!!……もう、いいですから……帰りましょう」
顔をぐちゃぐちゃにしたフレイの顔を見ると、僕のドス黒い何かは溜飲を下げたように引いていく。
「……分かった」
僕はフレイの体を抱きしめたまま《転移》を発動した。
家の前に《転移》すると、既に迎えがいた。
二人は射殺されると錯覚する程の鋭い視線を僕に向けてくる。
「ただいま」
僕は二人にそう微笑みかける。
そう、僕は僕だと彼等に示すように。
「「お帰り」」
二人も視線を柔らかいものに変え、僕とフレイに微笑みかけてくる。
沈みかけている夕陽は何かの終わりを示しているようだった。
本作をお読み頂きありがとうございます。
作者から二つお願いがございます。
ずばり、ブクマ登録と評価です!!
何卒、よろしくお願い致します。




