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「そういえば今日の式典にイリナちゃんが登壇するらしいぞ?」


 父さんが唐突にそう口にしたのは次の日の朝食の最中だった。

 式典というのは毎年建国記念祭の最終日に行われる記念式典のことを言っているのだろう。


 一年の中でも唯一一般市民が城門をくぐることのできる機会ということもあって、毎年多くの人々で王城敷地内の広場が賑わう。


「へー……いや、それ昨日言ってよ!?」


 僕はどうでもいいことだろうと聞き流していたが、『イリナが登壇』という言葉を聞き、思わず声を上げてしまった。


 自分の友達の晴れ舞台をこの目で見ないなんて薄情なことはしたくない――というのは建前でどんな感じに喋るのか見てみたい。


 普通、式典に登壇するのは国王のみだ。

 そこに王女が、それも第三王女であるところのイリナが登壇するということはよっぽどの発表があるということだ。


 例えばイリナが勇者であると公表する、とか。


「大丈夫だって。式典は三時からだから、まだまだ時間はある。それに末席も末席だが、五人分席が用意されているから、わざわざ早く並ぶ必要もない。どうだ、父さん様々だろ?」


 父さんは胸を張って自慢げにそう言ってくる。

 どうにも鼻につく言い方だが、ありがたいことに間違いはない。


 父さんが言うように、一般の列に並んで参加しようものなら、もうこの時間には列が出来始めていて、相当な時間並ぶことになるのだ。


「そ、そうだね。ありがとう……フレイも行くの?」


 僕はひくついてしまいそうな頬を抑えながら、フレイに話を振る。


「私も行きます。なんだかんだ言って、今まで式典に行ったことがないですから」


 フレイは特に驚いた様子もなく、眉一つ動かさずそう言う。

 どうやら式典自体には興味があるようだが、イリナの登壇に関してはそこまで興味がないようだ。


「それじゃあ、私も行こうかしら。折角のイリナちゃんの晴れ舞台だしね」


 母さんはフレイと打って変わって、とても楽しみにしているようだ。

 それぐらいイリナが表舞台に立つというのは、今までにないことなのだ。


「じゃあ、二時ぐらいにはここを出たいから、それまでに準備しておいてくれ」


 僕達は父さんを半眼で睨らんでしまう。

 父さんは皆で出掛ける前に大体そう言うのだが、結局一番準備が遅いのが父さんなのだ。


 そして、一番問題なのが父さんはそのことを全く気にしていないということだ。


 僕達は揃ってため息を一つ吐いてしまう。


「ふふっ」


 それがなんだか面白くて、僕は思わず笑ってしまったのだった。



 僕の予想に反さず、今回も父さんはギリギリで準備を終えたことは言うまでもない。

 僕達はまたもや半眼で父さんを睨むが、全く気づいた様子がない。


 まぁ、それはさておき、僕達は円形に広がった王都の中心である王城を目指して歩き出した。


 豪奢な家々が建ち並ぶ貴族街を抜けると、大きく開けた場所に出る。


 そして、顔を上げると雄大で精緻な装飾が施された城が目に飛び込んでくる。

 侵入者を拒む絶対的な城壁は果てが見えず、王城の敷地が広大であることを示している。


 城壁を囲むように一般の列はできており、列もまた果てが見えない。


 僕達は特設された一般入城口ではなく、その横にある特別入城口から入城することができる。

 しかし、僕達の予想に反して、特別入城口も一般程ではないにしても、かなりの列ができている。


 だが、間に合いそうにないという程ではないようだ。


 僕達が列に並ぶこと十数分、厳しい身体検査を受けて、僕達は入城を果たした。


 中心にそびえ立つ城はその全貌をあらわにし、訪れた者の目を否応なしに奪う。

 それは僕達とて例外ではなく、その場に立ち止まり思わず城に圧倒されてしまう。


 父さんと母さんは何回も王城の門をくぐったことがあるからか、早々に式典会場に向かってしまう。


 僕とフレイは慌てて二人を追いかける。


 そして、見えてきたのが王城の庭に設えるには、少し違和感のある式典の特設舞台だ。


 舞台の上には豪華な椅子がいくつも置かれていて、ここに王族が座るであろうことが窺える。


 席についてから程なくして、式典の開始を告げるファンファーレが鳴り響く。


 それから司会が式典開始を宣言し、国王の言葉に移る。


「――今日という日を迎えられたこと、嬉しく思う。これも皆の協力あっての物だ。これからも国一丸となって、進んで行けたらと思っている」


 国王の言葉が終わり、次はいよいよイリナの登壇だ。

 ここから見る限りでは純白のドレスに身を包んでおり、特にそわそわしているわけではなく、落ち着き払っているように見える。


 一体どんな話をするのか、僕も含めた会場にいる皆がそれを考えていると思う。


 そして、イリナはゆっくりと席を立ち、壇上へと進んでいく。

 その所作も実に落ち着き払ったもので、悠然と歩みを進める様は、まさに王族といった感じだ。


 僕はいつの間にか口に溜まっていた唾を飲み下して、イリナを見守る。


 登壇したイリナは一拍間を置いてから口を開く。


「このような場でお話しする機会を頂き、ありがとうございます。ほんの少しですので、お付き合いください」


 イリナはそう言ってまず頭を下げた。


「皆様は五百年前の人間族と魔族の闘争をご存知でしょうか。闘争が始まった理由は今となっては不明ですが、勇者は人間族を、魔王は魔族をそれぞれ率いて戦いに臨み、引き分けました。両軍の損耗は甚だしく、戦いはしばらくして終結しましたが、結局戦いは何も生むことはありませんでした。私は王族として、二度とこのようなことが起きないようにと願って、生きて参りました。そして、私はその悲願を叶える為の力を手に入れました」


 そう言って、以前と同じように胸から光り輝く聖剣を抜き放つイリナ。

 聖剣の光は辺りを覆い尽くし、あまりの眩さに皆一様に目を瞑った。


「私がこの時代の勇者です!私はこの力で必ずや人間族と魔族の架け橋となります!皆様、どうか私に力をお貸しください。皆様のお力添えがあれば、今よりも強固な友好関係を築けると私は確信しております!」


 イリナはそう高らかに宣言すると共に、聖剣を掲げる。


 一瞬の静寂の後、会場は歓声に包まれた。

 皆、伝説の勇者の再臨を喜んでいるのだ。


 歓声は鳴り止むことを知らず、会場を支配していたが、イリナが聖剣を胸に仕舞い、深々と礼をすると徐々に静かになっていった。


 そして、そのまま式典は終了の運びとなり、僕達は家路に着いたのだった。

 本作をお読み頂きありがとうございます。


 作者から二つお願いがございます。

 ずばり、ブクマ登録と評価です!!

 何卒、よろしくお願い致します。

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