029
僕が《転移》したのは街の外縁部に程近いところにある路地裏だ。
決めつけは良くないと思い、一応『お使い』を引き受けたがやっぱりこうなった。
ドブに捨てた方がなんぼか返ってくる可能性のあるお金だった。
しかし、この広い王都であの人混み、もうあの人達と会うこともないだろう。
僕は散策を再開すると同時にある違和感を感じた。
それは外縁部にいる騎士の多さだ。
建国記念祭の期間中は警邏の騎士も多くなるのは当然なのだが、人混みのない外縁部だというのに、かなりの数の騎士がいる。
王都に駐留する第一から第五騎士団までが全て展開しているのではないかとも思える数だ。
何か外敵に備えているとか、そういう物々しさも感じる。
まぁ、ただの平民であるところの僕が知ることができる情報とも思えないけど。
僕は騎士達を背に街中へと戻り、お祭り見物を楽しむのだった。
シオンが散策に出掛けた後、しばらくの間は静寂がライトヒルト家を支配していたが、カイルの呟きによって、その支配は崩れ去った。
「そういえば、イリナちゃんはどうして魔族領にいたんだろう……」
カイルはふと気になったことを誰ともなしに口にする。
カイルの疑問は尤もなものだろう。
戦時下というわけでもないのに、人界の守護者たる勇者が単身魔族領に赴くというのには違和感がある。
そんなささやかな自問にも取れる発言を拾い上げたのが、リビングでくつろいでいたフレデリカだ。
「敵情視察ってところじゃないかしら?今は均衡を保っている人間族と魔族だけど、少しでも力関係が変われば、戦争にだってなりかねないでしょう?現に私達のお爺様が現役だった頃は普通に対立関係にあったわけだし」
フレデリカは自分の推論を述べる。
そして、カイルはその話で何かを思い出したようにはっと顔を上げる。
「そういえば、ギルドで噂になってたな……確か神託が降りたとかで、魔王が建国記念祭の期間中に王都に現れるっていう……あ」
その魔王が自分の息子だと今になって思い出したカイル。
良くも悪くも子供のスキルを全く気にしていない父親だ。
そして、そんなダメな父親の反応にフレデリカは勿論怒り心頭だ。
「あなたって人はなんでそう大事なことを言わないわけ!?それで詳しい神託の内容は!?」
フレデリカは怒りに顔を歪ませ、カイルを問い質す。
「ゆ、勇者も同じタイミングで王都に舞い戻るから安心だ、みたいな話だったような……」
カイルはフレデリカの剣幕に気圧され、少し言葉に詰まりながらも説明する。
その曖昧な言い方が更にフレデリカを苛立たせるが、今はそんなことよりももっと大事なことがある。
「イリナちゃん!ちょっと降りてきて!」
そう、神託には戻るとあるのに、未だ勇者は王都に戻ったと確認されていない。
これでは中央が慌てるのは間違いない、というか現在進行形で慌てているだろう。
そう思ったフレデリカはイリナに王城まで行くよう進言しようと考えているのだ。
イリナはフレデリカの少し焦ったような声音を感じ取り、すぐにリビングに降りてくる。
「どうしたの?おばさん」
イリナは眉をハの字に曲げて心配そうな顔を浮かべてはそう言う。
「それが――」
フレデリカは神託のことを伝え、イリナに王城に行くように説明する。
「え!?そんなことになってたんだ……分かった。ちょっと王城まで行ってくるわ」
イリナは手早く身支度をして、家を出ていったのだった。
「今度からああいう話はしっかりとお願いしますね」
フレデリカはイリナを見送ると、ドスを利かせた声でカイルに釘を刺す。
「き、肝に銘じておきます……」
カイルはソファの上で正座し、俯きながら小さな声でそう言うのだった。
一ヶ月後にはすっかり忘れているだろうことは言うまでもないが。
散策を済ませ、昼前に帰宅した僕はイリナが家にいないことに気づき、母さんに聞いてみる。
「ああ、それはね――」
僕は母さんの話を聞き、騎士団が展開していた理由を自己完結気味に知ったのだった。
母さんが言うには僕のスキルは今も封印状態にある為、例え神託に引っかかっても、それが表に出ることはまずないらしい。
僕はそのことにほっと胸を撫で下ろしながら、イリナが帰ってき次第、魔族領に戻った方が良いのではないかと思ったりもしたが、具体的にどうするかは彼女の意見も込みで考えた方がいいだろう。
そんなことを考えている間に昼食の時間になった。
良く考えてみると、家族水入らずの食事というのはこれが久しぶりということなる。
まぁ、だからといって何かが変わるわけではないのだが、それでもやはり家族での食事というのは感慨深いものがある。
「何ですか?さっきから気持ち悪い顔をして」
突然フレイにそんなことを言われてしまう。
どうやら少なからず顔に出ていたようだ。
「別にどうってことはないんだけど、家族水入らずの食事っていうのは久しぶりだなぁ、と思って」
そう言われてフレイも納得したようで、そういえばそうですね、と口にする。
「確かに四人揃っての食事ってのは一年ぶりぐらいになるのか」
父さんも何度か頷きながら、遠い昔を思い出すように言った。
「じゃあ、いつもよりゆっくり食べましょうか。ちょうど一人分余っちゃったし」
母さんはイリナの分を指差しながら、そう言う。
僕は久しぶりの家族の雰囲気を思い出しながら、昼食の時間を過ごすのだった。
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