026
「はー、遊んだ遊んだ!」
「そう、ですね……」
私達は結局夕方前まで食べたり、買い物したり、とにかく遊びまくった。
今は街外れの小高い丘に来ている。
王都が一望できて、知る人ぞ知る絶景スポットなのだ。
「……フレイ、本当にごめん。色々迷惑かけた。今までちゃんと謝ってこなかったけど、力の件についてはひとまず方がついたから、改めて謝らせて欲しい」
僕は突然、そう切り出す。
フレイとはお祭りの効果もあって、仲が縮まっている。
だから今がチャンスだと思ったのだ。
そして、案の定空気が重くなる。
「……何ですか、藪から棒に。今まで話そうともしなかったのに」
「それは――」
「それは私が口を利いてくれなかったから?」
フレイは僕の言葉を遮り、心を読んだかのように僕の心中を言い当てる。
「っ……」
図星をつかれた僕は何も言い返せずに黙ってしまう。
「実を言うとですね、もう昔のことは割と気にしていないんです。今は素晴らしいスキルを授かって満足してますし、それなりに充実した生活を送ってます……でもね、私が気に入らないは兄様、貴方が私から逃げ出したことですよ」
フレイは射殺すような視線を僕に向けてくる。
別に怒鳴っているわけでもないのに、あまりの迫力に僕は一瞬口が動かなくなってしまう。
「……確かに僕はろくに謝りもせず、フレイから逃げたよ。それはフレイからしたら許せないことだと思う。だから僕はフレイがなんと言おうと謝り続けることに決めた。独り善がりと思うかもしれないけど、いつか許して欲しい」
僕の言ってることは理不尽で、自己中心的なことは分かっている。
だけど多分、僕にできることなんて謝ること以外におよそない。
「そんな口先だけの言葉で許されるとでも!?貴方は幼い頃の全てを私から奪った!あまつさえ、自分は私より強大な力を手に入れて、今私の上にまで立とうとしている!それを全て水に流して許せと?そんなことできわけ――」
フレイは激昂し、若干早口になってまくし立てる。
「僕は家族には自分の考えを押し付けるよ。だけど、フレイはそれで納得しないと思う、だから何度でも謝る。ごめん、フレイ。許してください」
僕は深く頭を下げる。
これが僕にできる精一杯、謝罪の気持ちを伝える為の手段だ。
何か代償となる行為があればいいけど、僕にできることは全てフレイにもできる。
だから無力な僕がフレイにできることなど全くないのだ。
瞬間、フレイのオーラが何倍にも膨れ上がり、その圧倒的なオーラは僕の体を縛り付ける。
こんな理不尽なことを言われて、何もしないわけがない。
「このッ!!」
フレイは構えた拳を僕の腹に向けて、思い切り振り抜く。
僕は避けることもできずにその一撃をもろに受け、体は大きく後ろに吹き飛ぶ。
「ぐっ、ふぅっ!!?」
これは……結構やばかったな。もう腹に感覚がない。
僕は倒れたまま口から大量に吐血するだけで、何もできない。
僕は恐る恐るパンチを受けた辺りに手を持っていく。
しかし、そこには僕の体はなかった。
僕の体には穴が空いていたのだ。
僕は目蓋が重くなって、そのまま目を閉じてしまった。
「ちょ、フレイちゃん!?やり過ぎよ!これどうするのよ!?」
私は単なる痴話喧嘩で済むだろうと、その場で静観していたが、シオンがフレイちゃんの気持ちを全く理解していない発言をしたせいで、フレイちゃんがブチ切れたのだ。
「今までの気持ちが全部出てきて、思ったより力が出ちゃったんです!!こ、このままだと私、人殺し……?」
フレイちゃんも冷静な判断ができていない。
どうやら、本当にここまでやる気はなかったようだ。
と、その時、後ろから聞き覚えのある声がする。
「まさか、こんなことになるとはね。私も驚いたわ」
「か、母様!?」
そう、そこには何故かおばさんが立っていたのだ。
「は、早くシオンを《蘇生》してあげてください!」
ヒルダさんが授業で言っていた通り、《蘇生》というのは一分以内に行わなければ成功率がぐんと下がる。
もう既に三十秒近く経っているはずだ。
そして、それはおばさんも知っているはずなのだ。
「その必要はないわ。見てなさい、もうすぐ《魔王》の真の力が顕現するわよ」
おばさんはすっと、シオンの方を指してそう言う。
顔は真剣そのもので、シオンの体を強く睨みつけている。
私とフレイちゃんはおばさんの言葉に従い、シオンの体に目を向ける。
そして、それから少ししたところで、シオンの体から漆黒の霧のようなものが流れ出す。
それはシオンの体を覆い尽くし、更には周囲に広がりだす。
私はそれが本能的に不味いものだと思い、大きく距離を取る。
「フレイ、イリナちゃん、下がりなさい!!」
おばさんは強力な結界魔法で漆黒の霧を囲い込む。
しかし、霧はその強力な結界さえ蝕んでいく。
「フレイ、貴方も手伝って!」
「は、はい!」
フレイちゃんは焦りからくるのであろう玉のような汗を顔に浮かべながら、両手を前に突き出し魔法陣を展開する。
「私も手伝います!」
結界魔法は良く分からないが、《魔強化》によって私は二人を強化する。
だが、それでも漆黒の霧を完全に押し留めることはできない。霧は今にも結界を破りそうだ。
私がもうダメかと思った瞬間、突然霧は勢いを失い、発生元であるシオンの体に吸い込まれるようにして戻っていく。
漆黒の霧が晴れたそこには、何かに大きく抉り取られたような地面と傷一つないシオンの姿があった。
「……こ、これは」
私が呆然とした中でも、何とかそれだけ言葉を絞り出す。
「これが魔王が魔王たる所以、《破壊の魔力》よ。分かったでしょう?この力は使い方を一歩誤れば、街など軽く一つ呑み込むわ。シオンは少しずつこれを飼い慣らさなければならないのよ」
おばさんはそう言いながら、眠ったままのシオンの元へ行き、その体を抱き抱える。
「このことはシオンには言わないようにね。このことを知ったら、きっとこの子は誰にも迷惑をかけない場所に行こうとするから」
私は思わず口の中に溜まった唾を飲み下す。
私はまた一つとんでもないことを知ってしまった気がする。
「さ、帰りましょう。まだ夕飯の準備が途中なのよ、二人とも手伝ってね」
おばさんの言葉に私は首肯する。
綺麗な夕陽だけを背にし、私は歩きだすのだった。
本作をお読み頂きありがとうございます。
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