025
「シオリ、フレオ君、こっち行ってみないか?」
言いながら既に進んでいるイリオ。
目を爛々と輝かせているところを見ると、本当に楽しそうだ。
「そんなに急がないでも、時間は一杯あるよ?」
「ちょ、ちょっと待ってくださいって!置いていかないでくださいよ!」
フレオは額に汗を浮かべている。
疲れたというよりも、この特殊な状況が体を強張らせているようだ。
「あ、ごめん……」
途端にしょんぼりしたような顔をするイリオ。
分かりやすっ!
「い、いやぁ……やっぱりあそこの店なんて良さそうです!ねぇ、姉様!?」
わ、私に振ってきた!
「そ、そうだね!早く行きましょう、イリオ!」
私は咄嗟にイリオの手を取り、美味しそうな串刺し肉が売っている出店に向かう。
「いらっしゃい!お兄さん、可愛い女の子連れてるなぁ!羨ましいねぇ」
一瞬可愛い女の子というのが、自分を指しているのか分からなくなったが、今はこの中で自分だけが女の子なんだなぁ、と実感する。
「おじさん分かってるね!本当に可愛いよな。この子シオリって言うんだ」
イリオはニヤニヤしながら、私の名前を広めていく。
や、止めてぇぇぇぇぇ!!私の悪名を広めないで!
「自慢は気に食わねぇが、お嬢ちゃんの分だけまけといてやるよ」
「やりぃ!ありがと、おじさん!」
イリオは三人分の肉を受け取り、代金を払う。
「はい、シオリ、フレオ君」
にこやかな笑みを浮かべて、私達に肉を差し出してくるイリオ。
男ながら、惚れてしまいそうな爽やかさだ。
「ありがとうございます……」
フレオはこういうところで食べ歩きをしたことがないのか、心なしか目を輝かせている気がする。
「ありがと、イリオ」
私もイリオから肉を受け取り、一口食べてみる。
「んー、美味しい!」
別にいい肉というわけでもないだろうに、こういう風に食べると本当に美味しく感じる。
お祭りパワーって、素晴らしい。
「どれどれ……うん、美味い!フレオちゃんも温かいうちに食べなよ」
「は、はい」
フレオは恐る恐るといった感じで、口を近づけていき、一旦匂いを嗅いでから肉を頬張る。
「……美味しい」
フレオは少し驚いたように目を見開いて、ぽつりとそう言う。
「良かった。じゃ、食べながら次行こう!」
「うん、行こう!」
私もなんだか楽しくなってきた。
フレオももっと楽しんでくれればいいのだが。
「っと、ごめんなさい」
どうやら、フレオが通行人と当たってしまったようだ。
「あん?なんだぁ、兄ちゃん。可愛い女連れてんじゃん?彼女?」
さっきから思うのだが、私ってもしかして、本当に可愛いのでは……?
まぁ、それはともかくとしても、面倒くさそうな輩に絡まれたようだ。
「私の弟が何か?」
私はあくまでも毅然とした態度で応じる。
こういう奴らは下手に出てやると、つけ上がるのだ。
「いやね、あんたの弟クンが俺にぶつかってきたもんで。それより俺と回らない?金なら全部俺が持つからさ」
狙いが丸分かりな程、男の視線は胸に行っている。
世の女性はいつもこんな視線を向けられているのか。
私も日頃から注意しておかなければならないようだ。
「結構です。行きましょう、フレオ」
「え……はい」
私はフレオの手を引いて、さっさと先に進む。
しかし、男はまだ付き纏ってくる。
「ちょっと待てって!楽しい思いさせてやるって言ってるじゃんかよ!」
そう言って、私の腕を掴んでくる男。
私はそれを無言で振り払い、そのままフレオの手を引いて、進んでいく。
「だから待てって言ってんだろ!!」
今度は更に強めに掴まれる。
流石に面倒くさくなったので、一旦フレオの手を離し、男を投げ飛ばす。
「ってぇなぁ!!もう許さねぇ!」
男の魔力は膨れ上がり、スキルが発動したことが分かる。
男は私に殴りかかってくるが、それは買い物から帰ってきたイリオに指一本で受け止められる。
「シオリ、何やってるんだよ?」
「ああ、ちょっとね。この人に絡まれて」
少しは私の対応にも非があったと思うが、そこには触れずに適当にイリオに片付けてもらう。
「あ、そう……ちょっと、これ持ってて」
男の拳を指一本で受け止めながら、平然と紙袋を私に渡してくる。
「てめぇは――」
「うるさいって」
男が全て言い終える前に、イリオは男を地面に叩きつける。
「かはッ!!?」
地面が割れる勢いで叩きつけられた男は少し吐血して、気を失う。
「お見事」
私は気絶した男に回復魔法をかけながら、イリオに称賛の言葉を贈る。
「ありがと」
そう言いながら、私の手から紙袋を取っていくイリオ。
イリオを見て町娘達がキャーキャー言ってるよ。
「さ、次だ!もっと楽しむぞー!」
「そうだね。ほらフレイ、行こ?」
「……はい」
少し迷った素振りを見せてから、頭を一度横に振って、フレイはそれだけ言った。
確実に溝は埋まっていってる、それを実感した一幕だった。
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