023
「私はおばさんのせいだなんて思ってないわ。確かにあの頃は色々大変だったけど、今はこうして幸せにしてる。釣り合いはとれてるのよ」
「僕も全然思ってないよ」
ぼ、僕が《魔王》!?
じゃあ、あの二人が主だの君だの言ってたのは、そういうことだったわけで……。
色々な情報が僕の頭をグルグルして、全く整理がつかない。
「シオン、そんなに急がなくてもいいのよ。とりあえず、部屋に荷物でも置いてきなさい。家は何も変わってないから、イリナちゃんは空き部屋に案内してあげて」
どうやら完全に見透かされているようだ。
そうだ、まだ時間はある。
ゆっくり考えていけばいいんだ。
「分かった。話してくれてありがとう、母さん」
「当然のことよ。気にしないで」
微笑を浮かべてから、さっさと行きなさい、と言う母さん。
「じゃあ、イリナ、こっちだよ」
「うん、分かった」
それにしても、信じられない。
イリナはどう思ってるんだろう?
今はそれを聞く気にはなれないけど。
「この部屋空いてるから自由に使ってね。じゃあ、僕は自分の部屋に行くから」
それだけ言って、僕はイリナと分かれる。
僕の部屋は本当にそのままだった。
母さんが掃除してくれていたのだろうが、綺麗なままだ。
僕はとりあえず荷物を適当な所に置いて、ベッドにボフンっと寝転がる。
「これから僕、どうなっちゃうんだろう……」
《魔王》ということは、魔族の頂点に立つ者ということで、つまりは魔族領を纏め上げる立場というわけだ。
母さんの話からすると、先代の魔王も人間族だったということだから、おかしなことではないんだろうけど、僕からしたらとても違和感がある。
まぁ、この辺は学長やアナデッドさんに聞くとしても、魔王にならない、というのも一つの選択肢だとは思っている。
そんな勝手が許されるのかどうかは分からないけど、今までも魔王無しで魔族領は回ってきたわけだから、別にいなくてもいい存在ではあるのだろう。
そんなことを考えていると、ドアがノックされる音が聞こえる。
「どうぞ」
僕は母さんだろうと思い、気軽に返事をする。
「シオン、少し話があるんだけど、いい?」
「え?ああ、イリナだったのか。うん、いいよ。適当に座って」
僕は起き上がり、ベッドに座る。
イリナは部屋にあった椅子に腰掛けた。
「それで、何の話?」
とは言っても予想はつく、僕達のスキルにまつわる話だろう。
「うん、その……シオンはおばさんの話を聞いて、どう思ったのかなって」
どう思ったのか、か……。
「えーと……まずは実感がない、かな?あの力がどういうものかは分かったけど、自分が《魔王》だなんて言われてもピンとこないし、《魔王》らしく振る舞えるとは思えない」
「実感か……私もあの頃は全くなかった。だけどね、スキルを使って、あの強大な力に向き合ってると、分かるのよ。この力はそういう力なんだって。最初は怖くて仕方なかったわ。だって、下手をしたら、人を殺すことできる程の力なんだもの、子供には過ぎた力だと思ったわ」
子供には過ぎた力、まさにその通りだと思う。
だから、母さんは僕に封印を施したのだと思うし、少なくとも今の僕ではあの力は身に余る。
それでも少しずつ慣らしていかなくてはならないと思うのだ。
責めて僕が力に振り回されない程度にはだけど。
「だからこそ、私達はこの力に向き合って、知って、使って、正しいと思うことに利用してかなきゃいけないのよ。私はそれをこの二年だか、三年だかで学んだ。だからこれは同じような運命を背負った先輩からの助言。大事な時に頼りなるのは結局のところ、自分だけなの。だから自分を強く持ちなさい」
正しいこと、そんなの今の僕には分からない。
だってそうだろう?
人間族の為になるようなことでも、それが魔族の為になるようなこととは限らない。
僕はまだ、そんなどうしようもないと分かっていることを考えてしまう。
イリナが言っているのは、多分そういうところに折り合いをつけて、自分の絶対に正しいと思うことを周りに何と言われようと、貫き通せ、ということだろう。
今の僕にはまだ遠い、そんな境地にイリナはいるんだ。
「……分かった。僕、頑張ってみるよ」
「うん、そうして。私達が真に対等な立場に立てた時、それが私の悲願が果たされる『和平』の時よ。だから、私からのお願い。いつか私に追いついて」
あの日、あの話を聞いてからどこか引っかかっていた。
それが今、やっと分かった。
イリナのこの悲しげな顔だ。
あんなに強い力を持っているのに、彼女は何故そんな顔をするのか。
何故そんな顔をさせられているのか。
こんなのはやっぱり間違ってる。
この顔を笑顔に変えてやりたい。
その為に僕は彼女に追いつかねばならない、そう思った。
差しあたっては、フレイとの因縁に決着をつける。
これは間違いなく最優先事項だ。
決着の時はもう近くまで迫っていた。
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