022
五年前、私は一つの神託を賜った。
『今より五年後、邪悪の力が目覚めの時を迎え、魔の勢力は勢いを増すであろう。しかし、案ずるな。時を同じくして、希望の光も見出されるであろう』
この神託は《勇者》と《魔王》のスキルの発現を意味していると私は思った。
私はこの神託をすぐに王宮に伝えた。
既に過去の記録から《魔王》は魔族ではなく、人間だと分かっていたが、《魔王》が誰なのかを判明させるにはスキルの発現を待つしかなかった。
だが、裏を返せば《勇者》はスキルが発現していなくても、探すことは可能だった。
その方法は王都大聖堂の最奥の部屋、そこの台座に刺さっている聖剣を抜くことだった。
そして、まずは王族が聖剣を抜いてみることになり、聖剣の主は思いの外早く見つかったというわけだ。
「イリナよ。お前は素晴らしい天命を授かった子供だ。名誉ある大役、しっかり果たすのだぞ」
「……はい、お父様」
今でも覚えている。
大勢の諸侯や高官に見守れながら、イリナちゃんが淡々とそう言ったのを。
人界を護る道具として使われることをイリナちゃんは言外に感じていたのだろう。
最早そこには悲しみも怒りもなく、諦めが存在していた。
だけど、彼女には確固たる意志があったことも覚えている。
私には五百年前の勇者と魔王の悲劇を今回は起こさせないという、世界への闘志にも見えた。
「イリナちゃん、本当にごめんなさい。私があんな神託を伝えたせいで、こんなことに……」
「先生が気にすることじゃないわ。強いていうなら神様がいけないのよ!それに私にはまだ先生がいるわ」
そんな笑顔さえ、私には守ることができなかった。
「……本当にごめんなさい。今月一杯で私は教育係解任なのよ。来月からは剣術の先生、魔法の先生が貴方に付くことになってる。これからも頑張ってね」
もう申し訳なくて、涙も出なかった。
「そ、そうなのね。今までありがとう。私が頑張るわ!……ってまだ今日で終わりじゃないんだった」
イリナちゃんは下手な笑顔を浮かべていた。
それから私は仕事を辞めた。
無責任だとは思ったけど、もう人を悲しませる神託なんて伝えたくなかった。
情けない話だが、その時私は少し精神状態が不安定になった。
カイルさんは騎士を辞めて、私に寄り添ってくれた。
姉さんも年端もいかない子供にきつい訓練をさせるのは反対だと言って、国を出て行った。
しかし、悲劇はそこで終わらなかった。
シオンが歳を重ねるに連れて、私達は奇妙なオーラを感じるようになった。
だから私はシオンの深いところまで『覗いて』みた。
すると、シオンの中心からはとても邪悪なオーラが流れ出ていた。
私は直感的に悟ったわ。
この子が神託の《魔王》だと。
このままでは十二歳になった時、必ずスキルが発現し、周囲に《魔王》だとバレることになる。
そして、私はカイルさんと相談して、一つの策を考えついた。
シオンのスキルが発現しないよう封印し、生涯表に出ることのないようにしよう、と。
いつも目を輝かせて、父さんみたいになりたい、そう言うシオンにはなんて残酷な運命なんだろうと、私は何度も思った。
そして、親友とまで言っていた友達と敵対する関係になるなんていう、呪われた因果を断ち切って欲しいとも思った。
だけど、シオンが《魔王》だと周囲にバレて、最悪殺されるなんてことになる方が嫌だった。
だから苦肉の策として、シオンのスキルを封印した。
誰かを守りたい、力になりたい、そんな強い思いがある時には、力が解放される抜け穴を設定して。
結果、シオンには《スキル無し》なんていう異名を背負わせてしまったけど、私がしたことは間違ってないと思ってる。
こんな子に産んでしまった私がいけないけど、そのせめてもの責任は果たしたと思ってる。
それでも今でも思う。
二人が普通のスキルを持っていたなら、こんなことにはならなかったのに。
ずっと二人、友達でいられたと思うのにって。
「これが貴方に隠された力の秘密、私が知っているその全て。私には貴方達に謝る資格すらないのかもしれないけど、どうか謝らせて……本当にごめんなさい。でも私は嬉しいわ。二人の因果は呪われたものなんかじゃなかった。こうしてまた二人一緒になって、私に会いにきてくれたんだから」
そう母さんは目尻に涙を浮かべながら、話してくれたのだった。
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