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002

 僕はあの日から一週間、何もせずにただ引きこもってしまった。


 だけど、すぐに僕に残された道はそうないことに気づいた。

 気づいてからの行動は早かった。


 僕はまず、今までやってきた勉強と剣の訓練に更に時間をかけるようにした。

 勉強はそこまで好きではなかったが、スキルが無い僕に残されたものはそれぐらいしかないのだ。


 だけど、大好きな剣、父さんと母さんの励ましが僕の心の支えとなってくれた。


 それをそのまま一年半続けた。


 そして、妹のフレイが十二歳の誕生日を迎えた。


 フレイのスキルは《聖導の剣聖》、父さんと母さんのスキルをハイブリッドしたような素晴らしい物だった。


 これならば、僕は安心して()()()()()、そう思った。



 父さんと母さん、それから街にいる本当に仲のいい人は無能な僕を変わらず、受け止めてくれた。


 だけど、一部の人は僕を見ると逃げるように去って行くか、目を逸らした。


 なんでも街では、


『あの子が呪われた子よ』

『いや、あの子は病気なんだ。移されると十二歳になってない子供はスキルが貰えなくなるらしいぞ?』

『そもそも、母親が悪いのよ。ちゃんと産んであげなかったからあんな風になったのよ』


 などなど、色々な噂が飛び交っていたらしい。

 真偽の程は僕にさえ、分からないけど。


 それでもやっぱり、父さんと母さんは変わらず僕を愛してくれた。


 フレイは僕を嫌ってしまって、今では口も利いてくれなくなってしまった。

 これは仕方のないことだ。

 僕のせいで、自分の友達が離れていってしまったのだから。


 僕は知っている。

 父さんが《スキル無し》の僕でも雇ってくれる仕事先を色々な伝手で探してくれていることを。


 僕は知っている。

 母さんは自分がどれほど悪く言われようと、それを一切表に出さずに、僕に接してくれることを。


 僕は自分が無力なのが、悔しくて、情けなくて、もう耐えきれなかった。



 そんな僕の元に半年前、一通の手紙が届いた。


『我が親愛なる甥へ。

 私はお前の伯母にあたる人間だ。伯母というのは分かるか?私の場合、お前の母さんの姉だ。


 私は今、魔法の研究をしていている。

 そして、ある日、私の耳にある噂が入ってきた。

 ハイゼラニカ王国に《スキル無し》の子供がいる、とな。


 私はなんとかその子供が何という名前なのかを調べた。

 すると、その子供はなんと自分の甥ではないか!

 私は運命を感じてしまったね。


 どうせお前は何も仕事が決まっていないのだろう?

 お前も将来親のスネを齧りたくはないだろうから、仕事を紹介してやる。


 仕事は私の実験に付き合うこと。

 食事、住居は全額負担、報酬は要相談。期間はとりあえず三年。

 どうだ?意外と好条件ではないか?


 もし、興味があったらいつでも表の場所に来てくれ、歓迎するぞ。


 親愛なるお前の伯母ヒルダ・アリステラより』


 伯母さんはちょっぴり怪しい人だと聞いたことがあるけど、どうやら僕にぴったりの仕事のようだった。


 僕以外の家族に対する陰口はフレイのスキルが判明したところでパッタリと止んだ。

 唯一の心残りは皮肉にもスキルのお陰で解決したのだ。


 僕は妹の誕生日を見届けて家を出るつもりだったから、伯母さんのところへ行く旨を書いた置き手紙をして、僕は深夜に家を出る。


 僕のいる街はハイゼラニカ王国、王都レグニカ。

 そして、伯母さんのいる街は旧魔王領、今は魔貴族の治める領土だ。


 その中でも一応ハイゼラニカ王国寄りのリハバイトという街らしいのだが、馬車を乗り継いで、二週間も掛かってしまう。

 ここまで貯めてきた貯金でギリギリ足りる場所だ。



 とりあえず、僕は今夜中に隣町まで歩いて、少しでも馬車賃を減らす。


 街道を歩いて行くので、魔物と呼ばれる危険な動物は出にくいのだが、用心して行かなくてはならない。



 夜道を歩くこと数時間、結局魔物と遭遇することなく、隣町に到着することができた。


 東の空を見上げると、見事な日の出が山の間から覗いていた。

 ここが僕のスタート地点となる場所だ!


 そう意気込んだはいいものの、懐は依然寒いままだ。

 出費には気をつけなければならない。


 始発の乗合馬車に乗って、旧魔王領方面を目指す。

 途中何本も乗り換えながらの旅になる。



 一週間と少し経って、ハイゼラニカ王国領内では最後の街となる場所に着いた。


 ここまで来ると大分田舎という感じがしてくる。

 幸いにも宿屋が一軒あって、そこに泊まることができたのだが、これから先の旧魔王領は僕にとって、未知の領域である為、どうなっているかが全く分からない。


 まぁ、行ってみなくちゃ、何も分からないけど。

 そういったことを考えて、一日を終えた。



 大昔は人間の国と争っていた魔族達であったが、今となっては見る影もない。

 人間と魔族は何十年も前に和平を結んでおり、交易ルートも開拓されつつあった。


 そんなわけで、国を跨ぐ場合であっても、乗合馬車は存在する。


 そして、馬車に揺られること更に三日、とうとう僕は伯母さんの住む街、リハバイトに到着した。

 リハバイトはかなり栄えているようで、もしかすると、魔貴族の住む領都なのかもしれない。


 その辺の詳しい情報は伯母さんに聞いてみるとして、まずはその伯母さんの家を探さなければならない。


 手紙にはざっくりとこの辺、とだけ書かれていて、細かい場所が全く分からない。


 とりあえず、その方面に向かってみるのだが、誰が伯母さんかも分からない為、周辺の人に聞いてみる。


 するとどの人も、『あー、あの人ね』と言った感じに教えてくれて、最終的には伯母さんの家の場所を知ることができた。


「甥のシオン・ライトヒルトです。手紙を見て来ました」


 しっかりとノックはしたはずなのだが、一向に人が出てくる気配がしない。

 何処かに出かけているのかな?


「お前、私の家の前で何をしている」


 声がした方を振り返ってみると、母さんと似たような顔をした人が立っていた。


「えっと、貴女がヒルダ伯母さんですか?僕、シオン・ライトヒルトです。手紙を見て来ました」


「おお、お前がシオンか!大きくなったな、と言ってもお前を見たのはまだお前が赤ん坊の頃だったから、覚えているわけないか」


 僕は会ったことがあるということさえ、知らなかった。


「立ち話もなんだから、まずは中に入れ。大切な話はそれからだ」


 こうして僕は無事、伯母ヒルダと邂逅を果たしたのだった。

 本作をお読み頂きありがとうございます。


 作者から二つお願いがございます。

 ずばり、ブクマ登録と評価です!!


 評価を頂けると執筆のモチベーションになり、非常に捗ります!


 何卒よろしくお願いします!

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