011
試験の日から一週間、僕はずっとイリナの話を思い出していた。
結局、特にこれと言った新たな気づきはなかったが、イリナが置かれている状況があまり良い物ではない、ということは十分に理解できた。
そして、今日は初の登校日だ。
僕はイリナの話を一旦頭から排除して、新品の制服に袖を通す。
学校という場所に生まれてこの方一度も通ったことのない僕としては、期待と不安が入り乱れる複雑な心境なのだが、いかんせん《スキル無し》の件があるせいで、不安が優勢だ。
「じゃあ、伯母さん、行ってきます」
僕は慣れない『行ってきます』の挨拶を伯母さんにする。
「おう、行ってこい」
こちらを見ないで手をひらひらと振る伯母さん。ドライだなぁ。
僕は《転移》を発動して、ゲルドガルドの路地裏に転移する。
路地裏を出て、大通りに出ると僕と同じ制服に身を包んだ人がちらほら見られる。
「シオーン!」
声がした方を見ると、ニコニコ笑ったイリナがこちらに走ってくる。
「イリナ、おはよう」
イリナはこの間と全く変わらない。
あんな話なんて元からしていないといった顔だ。
「おはよう、シオン」
あれからイリナと話すことはなかったので、これが一週間ぶりの話す機会ということになるのだが、いまいち何を話したらいいか分からない。
「……別に気にしなくていいのよ?五百年前にそうなったからって、今回もそうなるとは限らないわよ。それに私は話づらくなる為にあんな話したわけじゃないわ」
そんな僕の空気を感じてか、イリナは僕を励ますようにそう言った。
いつの間にか、肉体的にも精神的にも大きく超えられてしまっている気がする。
昔はあんなに泣いてばかりだったのに。
「そうだね。ありがとう」
そんなことを考えながら歩いていると、あっという間に学院に着いてしまった。
学院の玄関前には特設の掲示板が立てられていて、自分で所属のクラスを確認する仕組みになっているようだ。
「えーと、私のクラスは……二組ね。シオンは?」
イリナは特に気にした様子もなく、淡々と僕に告げる。
「僕も二組だよ。やっぱり顔馴染みがいる方が心強いね」
僕なんて思わず心の中でガッツポーズしてしまった。
まぁ、元々二組しかないから、そこまでの確率ではないんだけど。
「確かに魔族の中に一人放り込まれるよりは幾分かマシね」
幾分かどころか、何十倍もマシですよ。
僕達はそのまま校舎の中に入って、自分の教室を目指す。
ここまで来て難だが、学院でどんな勉強をするのかということを僕は全く知らない。
座学中心なのか、実技中心なのか、それさえも分からない。
人を二人蹴落としてこの学校に通っている手前、非常に申し訳ないのだが、あまりにも必死過ぎて、とりあえず入学することしか頭になかったのだ。
「おお、シオン君、入学おめでとう」
突然の声かけに僕は反射的に返事をする。
「あ、はい。ありがとうございます。お陰様で入学することができました……って、えぇぇ!!?」
僕は思わず大声を上げる程驚いてしまう。
なぜなら、そこにいたのは僕が二戦目で薬の力を使って勝った時の相手の人だった。
つまりは本来なら学院にはいないはずの人。
「ああ、すまない。驚かせてしまったね。私は三回生にも関わらず、試験で君と戦えと学院に言われてね。このような方法で試験を操作するなど間違っている、私はそう思って、手を抜こうと思ったが、君があそこまで強いとは思わなかった」
やはり僕は学院から歓迎されてなかったか。
とすると、イリナも僕と同じような事態に陥っていたはずだ。
「君の話も聞いている。イリナ君、君にも学院を代表して謝罪する。すまなかった」
そう言って、深々と頭を下げる先輩。
それにしても、この先輩は他の魔族とは少し違うな。
なんというか、人間族を全く下に見ていないし、自分と違うという意識さえない。
「あ、頭上げてよ!なんか目立ってるし!」
イリナは困ったような顔をしながら、そう言った。
いきなり先輩にタメかよ!!
「それはすまなかった。私はそろそろ失礼するとしよう」
先輩はイリナのタメ口にも特に気にした様子はなく、そのまま行ってしまう。
なんだか色々変わった人だったなぁ。
それはそうと、遅刻するわけには行かないので、僕達は自分の教室である一回生二組の教室に向かう。
先輩と話していたこともあって、席は大分埋まっている。
教室の席は教卓を中心にして扇状に広がっていて、後ろに行く程、席が高くなっている。
そして、空いていたのが真ん中の列の一番後ろだ。
席についてすぐに先生が入ってきた。
「結構ギリギリだったみたいね」
「うん。初日から遅刻っていうのは嫌だから、良かったよ」
さて、先生はどんな人なんだろうと、視線を教卓の方に向ける。
「今日からお前達のクラスを担当することになったヒルダ・アリステラだ。よろしく頼む」
……ちょ、これ何のイタズラですか?
イリナなんてポカンと口を開けて、アホみたいな顔をしてる。
「早速だが、これから入学式と始業式を行うから、ホールに集まるように。以上、解散!」
しかもそこはかとなく適当!
ある程度、人が出ていったのを確認して僕は教卓に向かう。
「伯母さん、何やってるんですか?」
僕は怪訝な顔をしながら、伯母さんに問いかける。
「なんだ、ライトヒルト。見れば分かるだろう、先生だ」
そういうことじゃなくて!
「ほら、イリナの顔見てくださいよ。驚き過ぎて魂抜けてますよ。急な事態に弱いって知ってるでしょ?」
すると伯母さんはニヤニヤしながら言う。
「知ってる。知っててやった」
「確信犯ですか!」
思わず声に出してしまったが、もう教室にはイリナ以外の生徒はいない。
「まぁ、とにかくここではヒルダ先生かアリステラ先生だ。くれぐれも伯母さんなどと呼ばないように」
こういうところには意外にも一線引いてるのか。
確かに他の人にバレるのは僕としても避けたいところだけど。
「ほら、分かったらフェルディナンを連れてホールへ急げ。式が始まるぞ」
こうなった経緯は帰ってから聞くとして、とりあえずイリナの魂を戻し、僕達はホールへと向かった。
本作をお読み頂きありがとうございます。
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