010
「久しぶりだな、イリナ。元気にしてたか?」
「はい、ヒルダさんがいなくなってからは寂しかったですけど」
「そうかそうか!それなら旧交を温めよう。好きなだけ飲み食いしてくれ。何、入学祝いと引っ越し祝いと考えて気楽にしてくれて良い。なんならそこの馬鹿の分まで食べても良いぞ」
二人は旧知の、それも大分親しい仲だったらしく、話が弾みに弾んでいる。
皆で家の食卓を囲む中、僕は肩身が狭いわけで……。
「えっと、二人はどういう知り合い?」
僕はまず、情報収集から始める。
それを元に会話に入る糸口を見つけるのだ!
「そりゃ、王宮にいれば、たまに顔を合わせるから、それで仲良くなったのよ」
そんなことにも察しがつかないのかしら、みたいな顔をしているけど……伯母さんって宮仕えだっけ?
「……伯母さんって前はどういう仕事してたんですか?」
「…………」
目を合わせようとしてくれない伯母さん。
そんなに帰りが遅いのがダメですか!?
何も言わずに心配させたのは僕だけど、少し子供扱いされすぎている気がする。
「え……アンタ、もしかして知らないの!?」
驚愕に目を見開くイリナ。
親の仕事すら知らない人もいるだろうに、伯母さんの仕事を知っている人はかなり少ないのでは?
それはともかくとして、どうやら代わりにイリナが教えてくれそうだ。
「うん、まぁ」
「アンタ、こんなすごい人と住んでて、よく気づかないわね。比類ない程の魔法の知識、世間に出回っている術式よりも何世代も進んでいる魔法陣。ここから導き出される答えは?」
く、クイズ形式かぁ……。
「ま、魔法の研究者?」
「それは今の仕事でしょ」
魔法の研究者以外で魔法に詳しい王宮の仕事……!
「……宮廷魔法士!」
「そう!だけど、ヒルダさんはただの宮廷魔法士じゃないわ!ヒルダさんは五年前まで、宮廷魔法士団副団長だったのよ!」
まるで自分のことを自慢するようにヒルダさんのキャリアに胸を張るイリナ。
本当に二人は親しい仲だったようだ。
「確かにすごいですけど、なんでそんなエリート街道まっしぐらの仕事を辞めちゃったんですか?」
僕がそう言った途端、部屋の空気が張り詰める。
聞いちゃいけないことだったか……?
「ま、まぁ、僕もスキルが無いせいで色々人生に影響ありましたからね!誰だってそういうことありますよね!?」
僕は取り繕うようにそう言うが、空気は重いままだ。
だが、僕の心配は杞憂に過ぎず、伯母さんはふっと笑みを零す。
「別に良い。昔のことだ。それより夕飯が冷めないうちに頂こう」
大丈夫、そうだな。
気になると言ったら嘘になるが、僕のスキルのことのように、人に言いにくいこともあるだろうから、この気持ちは心の奥にしまっておこう。
それからは平和な時間が続いた。
皆で食べるご飯は美味しかったし、父さんと母さんとフレイと食事した時のようだった。
「あー、美味しかった!久しぶりに人とご飯食べたわ」
イリナは本当に嬉しそうだ。
僕も初めてこの家でご飯を食べた時は同じような感覚になった気がする。
何しろあの時は二週間ぶりのまともな会話と食事だったから。
「それ、伯母さんに言ったら、多分すごく喜ぶよ」
「ヒルダさんはそんな単純な人じゃないわよ」
イリナは僕の言ったことがお世辞か冗談とでも思ったのか、笑いながら言う。
いやいや、あの人貴女にめちゃ甘ですよ?
「……そういえば、イリナのスキルってなんなの?」
僕はふと思い出したことを聞いてみる。
凄まじいオーラといい、あの目にも止まらぬ速さといい、相当な高位のスキルだろう。
「まぁ、教えてあげてもいいけど、一つ昔話をさせてもらうわ」
藪から棒になんだろう。
イリナのスキルとその昔話にどんな関連性があるんだ?
五百年前、一人の勇者と一人の魔王がおりました。
勇者は人間族を魔族から守る為、仲間を率いて魔王に戦いを挑みました。
魔王もまた、魔族を人間族から守る為、配下を従えて勇者の戦いに応えました。
結果は引き分け、勇者は仲間の命懸けの救助で、なんとか死を免れ、逆に魔王は配下を守り、死んでしまいました。
勇者は仲間を弔いながらも、魔王の勇敢な行動に胸を打たれていました。
勇者は人間族を説得し、魔族への攻撃を止めるよう、言いました。
しかし、勇者の願いは聞き入れられることなく、人間族の魔族への攻撃は続けられ、最後には魔族側についた勇者までも殺されてしまいましたとさ。
「勇者と魔王、どちらも正しい行動をしたと思うのに、なんで死んじゃったんだろうね。勇者なんて、結局同族に殺されちゃうしさ」
イリナは悲しげに、今は亡き勇者と魔王に想いを馳せるようにそう口にする。
なんだか重い話だったが、上手くスキルとの関連性が掴めない。
「……その勇者と魔王の力をその身に宿した人間がこの世界にいるって言ったら、信じる?」
「信じる。イリナがそう言うなら信じるよ」
僕がそう言うと、イリナは微笑みを浮かべる。
「ありがとう、信じてくれて。私のスキルは――」
その瞬間、全てが繋がった。
何故五年前には何の武術も心得ていなかった彼女がここまで強くなったのか。
そして、五年前というポイント。
五年前といえば、母さんが教会の仕事を辞めた時期だ。
その後を追うように父さんも騎士を辞めた。
更に言えば、伯母さんまでもが仕事を辞めている。
これは単なる偶然か、それとも何かの因果か。
憶測の域を出ない考えではあったが、それは確かにある程度の現実味を持った推論だった。
「《勇者》よ」
彼女は遠い虚空を見つめて、自分の将来を憂うように言うのだった。
本作をお読み頂きありがとうございます。
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