001
この世界の誰もが自分に期待するであろう運命の日。
がっかりする人もいるだろうし、人生の大きな転機になる人もいるだろう。
「シオン・ライトヒルト、貴方のスキルは――」
僕だってその例に漏れずに自分に期待する。
だけど、運命はあまりに残酷で――
「ありません」
残念ながら僕の場合は前者だった。
僕はシオン・ライトヒルト。
『若き英雄』と呼ばれた父カイルを持ち、『大聖女』と呼ばれた母フレデリカを持つ、自分で言うのも難だが、将来を期待されてここまで育った人間だ。
父さんと母さんの名に恥じないように、教養と訓練を積んできたはずだし、そんな僕には神様だって、素晴らしいスキルを下さるだろうと思っている。
スキルというのは十二歳になると、神からの贈り物として授けられる。
その人の才能を現した物だとも言われている。
スキルは使えば使う程に、自分に様々な恩恵を与えてくれる。
例えば、僕の父さんは《神速の剣聖》というスキルを持っていて、基礎身体能力は勿論、スピードに特化した能力を持っている。
こういうのを世の中では『当たりスキル』と呼んでいる。
そして、僕にも運命の日となる十二歳の誕生日が遂に訪れた。
「シオン、ご飯よ〜!」
「はーい!」
そんな日も朝はいつも通りに、皆で食卓を囲む。
食卓を囲むのは父さん、母さん、僕、妹だ。
「父さん、教会には何時くらいに行けばいいの?」
僕は楽しみ過ぎて、昨日はよく眠れなかった。
やっと、僕も父さんみたいにカッコよく活躍できるようになるんだ!
楽しみじゃないわけがない。
「そんなに楽しみかぁ?俺はあの時ビクビクしてたぞ?今でも鮮明に覚えてるよ」
父さんは体を震わせるような仕草をする。
「え?何で?」
「だって、俺の親父は貴族だろ?次男にそこまでの期待はしていないとは言え、下手なスキルなんて出そうもんなら、あの日に勘当されてたね」
父さんは手を横にやって、やれやれのポーズ。
すっかり失念していたが、あまり良いスキルを貰えない可能性もあるのだった。
「あなた、何言ってるの、こんな日に!貴方は別にそんなこと気にしなくていいのよ?スキルなんかどうでもいいの。私達は貴方が立派に育ってくれれば、何もいらないわ」
母さんはいつもそう言ってくれるけど、僕にもプライドみたいな物がある。
父さんと母さんは優秀な人だったのに、僕がそうじゃないなんて、自分が許せない。
「俺も同じような話をするつもりだったの!……まぁ、胸張って行け!俺達はお前が元気に育ってくれればそれでいいんだ。あのクソ親父みたいなことは絶対しない」
父さんと母さんがそう言ってくれるだけで、胸が一杯になった。
でもやっぱり僕だって、父さんみたいに皆を守れるような人になりたい!
この思いだけは変えられないんだ。
教会が開く時間が近くなると、僕は家を飛び出す。
「気をつけて行くのよ!」
母さんの注意する声が後ろから聞こえる。
「分かってる!行ってきます!」
街の大通りに出ると、色々な人が話しかけてくれる。
「お、シオンは今日が誕生日か?」
「うん!これから教会に行くところ!」
「あんなちびっ子だったシオンちゃんがこんなに大きくなるなんてね」
「やめてよ!いつの話してるの、おばさん」
仲のいいおじさんとおばさんも僕を祝ってくれてる。
これで悪いスキルのはずがない、何の根拠もないのに、僕はそう思うのだった。
僕は更に走る速さを上げて、教会に急ぐ。
「神父さん!お願いします!」
「おお、シオン君、こんにちは。少し待っていてくれ」
神父さんは奥の部屋から青く透き通った水晶を取り出してきた。
「では、お祈りの姿勢になってくれ」
僕は片膝をついて、指を組んでお祈りの姿勢になる。
ああ、とうとう僕は素晴らしいスキルを貰えるんだ。
やっぱり父さんと同じような《剣士》系統のスキルなのかな?
それとも母さんみたいな《神官》系統のスキル?
僕の期待はこの時、最高潮に達していた。
「シオン・ライトヒルト、貴方のスキルは――」
神父さんがそう言ったところで、水晶は激しく輝き出す。
水晶は吸い込まれそうな輝きを放っていて、教会内が不思議と別の場所になったみたいだった。
「……!?あ、貴方のスキルはあ、ありません……」
な……ない……?
世界がひっくり返ったような気分になって、目がぐるぐると回って、何も考えられない。
「…………え!?そ、そんなことってあるんですか!?」
僕は何とかその言葉を絞り出す。
「わ、わしも聞いたことがない。だが、ここにハッキリと無いという文字が……とにかく君はお母さんを呼んできなさい。あの方ならもしかすると何か分かるかも知れん」
神父さんもかなり焦っているようで、いつになく額に汗をかいている。
「わ、分かりました……」
僕はわけも分からず混乱する頭を一旦リセットして、なんとか歩き出す。
スキルがないなんて、聞いたことがない。
スキルは神様が人間全員に与えてくれる贈り物なのだ。
そんなことがあり得るわけがない……と、信じたい。
父さん、母さん、僕は一体どうしたらいいの……?
家に戻って、母さんにこの話をすると、すぐに教会に行こうと言ってくれた。
「母さん、僕はどうなっちゃうの?」
僕は不安で不安で仕方ない心を安心させて欲しくて、母さんにそんなことを聞く。
「どうもならないわよ。多分、間違いよ。私が神父さんの代わりに見てあげるわ」
何故だか母さんは少し悲しげな目をして、僕にそう言う。
神父さんを疑ってるわけじゃないけど、母さんの方が魔法は上手いだろうから、ちゃんとした結果が出るはずだ。
「大聖女様、よくぞいらっしゃいました」
教会に到着すると、神父さんが深々と頭を下げる。
「少し、水晶を貸して頂きますね。シオン、さっきと同じようにしてね」
母さんが水晶に手をやると、水晶は神父さんの時の何倍も輝き出す。
しかし、あの時とは違って僕の頭は不安で支配されていた。
水晶の輝きは僕を誰もいないところへ連れて行きそうな、そんな感覚に囚われていた。
「……ありがとうございました。さ、行くわよ、シオン」
母さんは残念そうな顔をしながらも、少し安心したように見えた。
「ちょっ、母さん!どういうこと?」
僕はスキルについて何も言わずに教会を出て行く母さんを追いかけるように小走りになる。
「……シオン、貴方には本当にスキルが無かったわ」
僕は思い切り頭を殴られたような感覚に陥る。
スキルが無い、そんなことは到底信じられることではないが、母さんが言うことでそれは何よりも確かな信頼性を持った。
「……そ、そうかぁ……残念だけど、仕方ないよね。ぼ、僕は大丈夫だから」
僕は自分の気持ちを押し殺して、泣かないようにして、それだけ言う。
「シオン、ごめんなさい。貴方をちゃんと……これは違うわね……いいのよ、泣いても。貴方まだ十二歳なんだから」
母さんは僕を悲しい顔でじっと見つめてながらそう言ってくれる。
「こんなことで泣かないよ……うぅ、う、ああぁぁあぁぁぁぁ!!!」
結局涙は溢れ出てきた。
僕はここが大通りということも忘れて、情けなく母さんに抱きついて泣いた。
悔しくて、悔しくて、悔しくて、僕は泣き続けた。
僕は悪いことをしたわけじゃないのに、何でこんな目に遭うのか。
そんなことを考えながら泣いた。
もう涙が枯れて、出なくなった時には家についていた。
この後、母さんが豪華な夕飯を作ってくれたけど、昼食に続き、夕食も喉を通らなかった。
この時はもう何も考えられなかった。
本作をお読み頂きありがとうございます。
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評価を頂けると執筆のモチベーションになり、非常に捗ります!
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