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残像の人影

作者: ツヨシ

社会人になって県外に就職したが、毎年お盆には帰っていた。

実家は高台にあり、家の前には道路、その先は高い崖となっていた。

崖の下は岩場で、私が生まれる前にそこに落ちて死んだ人がいると聞いたことがあった。



ある年の八月十五日のこと。

その日の朝、今日は自分のアパートに帰るつもりで準備していると、急に外が騒がしくなった。

見ればパトカーが来て、そのうちに救急車も来た。

それを窓から眺めていると、誰かが訪ねて来た。

警官だった。

父が対応したが、後で聞いてみるとなんでも家の前の崖下で男の死体が発見されたそうだ。

それで何か見聞きしなかったかと聞いてきたのだが、前の日は親類の家に行っていて帰るのが遅かったので何も見聞きしていないと言うと、警官はそれ以上聞かなかったとのこと。

私はそのまま帰ったが、アパートについた後で気になって夜に父に連絡して聞いてみた。

父が言うには、どうやら男は崖から落ちて死んだようで、検死の結果、おおよそだが昨日の午後七時か八時ごろ死んだらしく、警察は自殺と事故の両面から調査しているようだ。

私はそれだけ聞くと興味がなくなり、電話を切った。



翌年の八月十四日のことだ。

墓参りなど全ての用事をすませた私は、実家の窓から何気なく外を見ていた。

すると崖っぷちに立つ二つの影を見た。

午後七時過ぎ。

辺りは少し暗くなりかけてはいるが、陽が完全に沈むにはまだ時間がある。

だというのに、その影はなぜか真っ黒だった。

――なんだ、あれは?

気付けば二つの黒い影はいつの間にか一つになっていた。

そして残った影もその場を足早に立ち去った。

それはどう見ても生きている人間には見えなかった。

あまりにも不気味すぎたがために、私はそんなものは見なかったことにした。



更にその翌年の八月十四日。

午後七時過ぎ。

私は夕食を促す母に「ちょっと待って」と言い、窓から崖を見ていた。

去年見た黒い影がずっと気になっていたのだ。

するとまた影が二つ、いきなり現れた。

そのとき私は気付いた。

影の一人に片腕がないことに。

二年前に崖下で死んだ男には片腕がなかった。

そしてじっと見ているにもかかわらず、片腕のない影がいつの間にかいなくなり、もう一人の影も逃げるようにその場を去った。

私は考えた。

二年前に死んだ男は最終的に自殺と判断された。

するともう一人の影は誰で、いったいあそこで何をしていたのだろうか、と。


       終

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― 新着の感想 ―
[良い点] 黒い笑いがこみあげます。怖いのに、面白い。 霊の影って、物理的に存在しないモノに影ができるって、ホラーですのね。人や物の影ではない、異質な存在。不思議だし、実験してみたいです。 これ…
[良い点] ∀・)ミステリーが織りなすホラーですね。雰囲気がすごく良いですが、考えさせられる感じがなんとも。 [気になる点] ∀・)主人公は青年かな?子供かな? [一言] ∀・)単純に「殺人が真実」と…
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