羊サマの云うことには3
ミコはしっかり20代半ばなので、”プリフォーゼ”後の姿は本気で恥ずかしがっています。
結構可愛い系の妖精さんみたいな衣装をイメージしています。がんばれ、ミコ!
黄金と黄緑の雷撃が私を包む。朦朧としながらも、痺れと痛みを覚悟するが、不思議とその感覚は襲って来なかった。それどころか、ほんのり暖かい春の野原のような心地よさすら感じる。このまま、眠ってしまいたいくらいだ……
「おいおい、眠っちゃ困る。しっかり、目を開けてくれ。……初仕事だ!」
せっかくの心地よさを、アルゴの軽い声が邪魔をする。仕方がない……起きてやるか……そういえば、なんだかすごく面倒なことになっていたような気もするが、夢だったのだろう。……目を開ければ、またバイトにいく日々が始まる。変な羊も、変身する不思議な美少年と牡鹿も、存在しなかったのだ。大丈夫、目を開ければまた平凡で何もない現実が始まるーー
……始まらなかった。
目を開けたところで、目の前にはまさに烈火のごとき威厳がありすぎる恐ろしい姿の美少年が、意識が朦朧とする前の姿そのままでこちらを睨んでいた。
「おーい。ミコ、聞こえるか?」
どこからともなくーー頭の中から……アルゴが語りかけてきた。
「ちょっと!?これどういうこと!?」
「自分の姿をよく見てみろ。時間がないから、手短に言うぞ。この姿は、オレとお前が合体……”プリーフォーゼ”した姿だ。」
どこからともなく現れた鏡で、自分の姿を見せられる。そこには、おおよそ、成人済みのいい大人がして良い格好ではない自分がうつっていた。淡いレモンのような黄色を基調としたドレスには、ライムグリーンのレースがあしらわれ、頭にはアルゴの頭にあったはずの立派なツノと何かの植物の冠が乗っていた。おまけに、普通の茶髪だった髪の毛はクリーム色に近い金髪に変わり、瞳の中には緑の光がチラチラと宿っていた。
「ーーっ!な……な……」
自分のあまりの変わりように、金魚のように口をパクつかせている私を無視して、アルゴは続ける。
「驚いてるところ悪いが、本当に時間がないんだ。あんまり待ってくれる相手でもないしな……先に伝えておく。オレがお前に貸せる権能は稲妻と生命の恵だ。稲妻は説明しなくてもわかるよな?生命の恵はオレもまだ使いこなせない部分もあるんだが、治癒能力と植物を操る程度なら余裕だ。相手は太陽の権能を持ってるから、少し厄介かもしれないが……ま、なんとかなるだろ!武器はコレを使ってくれ!」
なんとかなるわけないだろ。喉まで出かけた言葉が引っ込む。どこからともなく現れた金色の双剣がずっしりと手に触れた瞬間、「引き返せない」と本能が理解したのだ。
……それならやるしかない。目の前の面倒を取っ払って、私の平凡で平穏な日常を取り戻してやる。
「ミコ、お前が想像すれば、オレの権能でなんとかする。お前はあいつを倒すイメージだけをしっかり、絶対に諦めずに……祈ってくれ」
意味はわからなかった。普段の私なら、「祈ったところで何になる」と鼻で笑ったことだろう。でも、今の私は、やっぱり少しおかしい。格好だけじゃなく、頭までおかしくなったのかもしれない。そんなつもりなかったのに。
「任せて。さっさと終わらせよう。」
憎たらしい羊に、相棒みたいな言葉を投げていた。”プリフォーゼ”とかいう、謎の合体状態にまでなってしまったのだ。この場で信じられるのは……こいつだけだ。
覚悟を決めて、牡鹿とプリフォーゼした美少年の方を見据える。待ちくたびれたとばかりに、少年は闘いの始まりの鐘を鳴らす。
「……準備が整ったようですね。ソアレさまの我慢の限界が近づいていますので……最初から、本気でいかせていただきます……っ!」
いよいよ、バトル開始です…!
引き続き、応援よろしくお願いします!