羊サマの云うことには2
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「羊のくせにって言うけどな……オレはお前んとこの聖獣とは違う羊なんだっつーの。もしかして、お前……気色も悪いけど、頭も悪いのか?」
アルゴが、あからさまな挑発の言葉を吐く。やめとけって。
「ねえ、アルゴ……?あの人たち絶対めんどくさいよね?ここは、関わらずにスルーしよう。何をやってみるのかはわからないけど、何事もまずは説明から入った方がいいから。ほら、話だけは聞くからさ……ね?」
めんどくさい事を回避できるのなら、怪しい羊にだって下手に出る。下手に出てやる。
しかし、遅かった。おそらく、先ほどの「気色も悪いけど」が良くなかった。いや、「頭も悪い」の方かもしれない。とにかく、相手を怒らせたことだけは確かだ。牡鹿の目が燃えるような色に変化し、漂う程度だった熱気は、今や、そこら中のものをすべて燃やしてしまうのではないかというほどの激しいものになっていた。
「この僕に向かって……『頭が悪い』と言ったのか……?この僕に向かって!!!」
ほら……怒りの沸点が無駄に低いタイプだと、直感が教えてくれていたのに。
「ソアレさま……あまり、激しくなられては……」
銀髪の美少年が諭すように牡鹿に声をかける。しかし、効果がないことは、確かめるまでもない。
「僕が!!この僕が!!!この世の王に、すべての支配者になるこの僕が!!!侮辱されたのに、激しくならずにいられるものか!もう、二度と太陽を拝めないようにしてやる。レン、こっちに来い!」
牡鹿の言葉に、素直に従う美少年が、一瞬、こちらを見たような気がした。――憐むような目で。
次の瞬間。牡鹿と少年が赤銅の光に包まれ、熱がさらに強くなった。目を開けることも憚られるほどの熱風に、思わず身体が後ろへと下がっていく。しかし、逃げる事をアルゴが許してくれない。
「ミコ、しっかり見てろよ〜!オレたちも、この後やることだ。」
やたら、真剣な口調に、そのつもりがなくても従ってしまう。アルゴの毛で、なんとか熱風から身を守りながら、彼らの様子を伺う。
赤銅の炎のような光に包まれていた一人と一匹は、「1体」の何かになっていた。銀色だった少年の髪は黄金を被ったように、冷ややかだった瞳の奥にはチラチラと赤い炎のような光が宿っている。そして、頭には先ほどまで牡鹿が持っていたはずの大きなツノ。服も、おおよそ一般社会には馴染まないようなーー神聖という言葉が似合うようなーーものに変わっていた。すっかり姿を変えた美少年は、手に持った大きな太陽をあしらった杖でアルゴの方を指しながら、こう、宣言した。
「アルゴさま、そしてその使いの方。太陽の名のもとに……アニマ・デュエロを申し込みます。……受けていただけますね?」
有無を言わせない眼光に思わず身震いする。逃げよう。逃げないと殺される。こんな事を、自分の人生で思う日がくるなんて思わなかったけど、こんなところで、こんなわけのわからない死に方をするなんて絶対に嫌だ。
「ごめんな、ミコ。やるしかないんだ。」
出会ってから、初めてのアルゴの真剣な様子に、不本意ながらも心が揺らぐ。謝るくらいなら、今すぐここから逃して欲しい。私の願いはそれだけだ。後生だから、このわけのわからない現象に巻き込まないで欲しい。
願い虚しく、羊の目線に捕まる。金色の中にポッカリあいた半月型の瞳が私の意識を絡めとる。ボーっとした意識の中で、アルゴの声が優しく囁く。
「大丈夫だ、ミコ。すぐに済むから。……空と大地は我が手に。”プリーフォーゼ”」
そして、再び雷撃が私を包む。
次回こそ、初めてのバトルです!