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そして、羊は笑う

羊の目ってしっかり見ると意外と怖くないですか?

でも、毛刈りされてる時の動作が全てを帳消しするくらい可愛いのでよしとします。

基本ローテンションなゆとり×さとり世代な主人公ですが、だんだん表情豊かになっていくので、見守ってあげてください。

「イヤァ、ごめんごめん。まさか人間にオレの雷が当たるなんてなぁ、あっはは。」


 目の前で、愉快そうにしているソレは、どこからどう見ても「羊」だった。この国の人間は大抵義務教育を終えている。そして、私はさらに高等教育を受け、大学卒業資格まで手に入れているのだ。この国の教育のために、私が保証しよう。羊は、普通、喋らないはずだ。


「もしもし?おーい!当りどころが悪かったかな……あ、いや?待てよ……ゴホン。……お嬢さん?お怪我はありませんか?お手を……は見ての通り無理だから、よかったら、ツノ使って。」


 おもむろに差し出された、ソレを、恐る恐る握り締め、やっと立ち上がる。立ち上がってみても、陽気に話しかけてきた生物は……羊だった。

(おかしい……昨夜はぐっすり9時間睡眠をかましたはず……)


 もしかしたら、まだ夢の中なのかもしれない。そう考えれば、説明がつく。雷に打たれて、無事だったことも、羊が流暢に人語を喋ることも。

「夢ではないよ、安心してくれ!」

人語を喋るだけじゃなく、人の心まで読むときた……これは本格的に夢だ……


「おいおい、勘弁してくれよ……君、人間のくせに強情だな……」

「羊のくせに、しゃべくるヤツに言われたくないんですけど!?」

しまった……反応してしまった。こういうのは反応した者が負けなのだ。証拠に羊の口角がニンマリと上がっていく。

「やっと、僕を見てくれたね。お嬢さん。」 


 大きなため息が自分の口から噴射される。関わりを持ってしまったものは仕方ない。ここで逃げた方がめんどくさいことになるだろう。繰り返すが、私は面倒臭いことがなによりも嫌いなのだ。

「……で、『オレの雷』ってどういうことなんですか?まるで、自分が雷を出したみたいな言い方でしたけど。」

 そんなことは、ありえない。わかっていながらも、先ほどの聞き捨てならない言葉を羊に返す。

「ん?そのままの意味だろう?君は、オレの雷を受けた!……まぁ、そのつもりはなかったけど、無傷だということは……君が僕の使いになるのかな?」


じろじろと、上から下まで私のことを観察しながら、羊はのたまう。私の耳が腐っていたのでなければ、この羊は今、間違いなく「僕の使い」と言った。私を見ながら。

「えっと、すみません。今……なんて?」

 聞き違いであってほしい。羊の使いなんてやるつもりは全くないが、断る・ゴネる・キレるという動作が私にとっては惜しい。面倒ごとは勘弁だ。というか、なぜ、羊のくせに私に敬語を使わせるのだろうか。生意気だ。羊のくせに。

「聞こえなかったかな?『僕の使い』って、言ったんだよ。ほら、僕の雷を受けても無傷だっただろ?他の子じゃ……まぁ、その……無傷というわけにはいかなかっただろうね。」


 どうしよう、全く意味がわからない。


「えっと……すみません。怪我は特にないので、私はここで、失礼しますね……」

 相手にしてはいけない。そもそも、相手は羊だ。会話を成り立たせて良い相手ではないのだ。

「ちょっと!ちょっと!困るよ。君は、もう、唯一の僕の使いなんだから。そうだな……まずは、手始めに名前を教えてくれる?」


 困ったことに、この羊はでかい。身長が1.5mか、そこらしかない私は、少し目線を下にやる程度で目がしっかり合ってしまう。……振り切る方が面倒くさい可能性すら見えてきた。

「はぁ……都築ミコです、どーも。」

 テキトーに。この上なくテキトーに返してしまったことを、すぐに私は後悔することになる。名前を伝えた瞬間、目の前の羊が金色に光りだしたのだ。


「……!?なに……!?」

 光の中で、私に雷を浴びせたであろう羊がニヤリと笑っている。「やってしまった」ことを察する。具体的になにをやってしまったのかは、わからない。しかし、本能が伝えてくる。何か、まずいことが起こっていると。


「全宇宙を統べる者の名に於いて命ずる!今この時より、『都築ミコ』をオレの使いとする!」


 その瞬間、アスファルトから緑のツタのような光と、空から降り注ぐ雷のような光が私を包み込んだ。痛みはない。あるのは、混乱のみ。


「ちょっと!なにしたの!?これ、なんなの!?」

 光の中で意味深な笑みを浮かべる羊に腹が立つ。羊のくせに生意気な……人間を舐めていると、痛い目に遭うことを、どうにかしてわからせてやりたい。

「ニヤニヤせずに、答えて!!ジンギスカンになりたい!?」

 羊の表情が変わる。腹立たしいニンマリ顔が、驚いたような顔に。しかし、まだ余裕はあるようだった。

「こっわ!最近は、人間と話してなかったからなぁ。女の扱いには、まあまあ慣れてるつもりだったけど……まぁ、落ち着けよ!」

 落ち着いた声音ながらも、軽薄な口調に苛立ちが増す。私がなにをしたというのだ。よくわからない羊に絡まれるほど、悪いコトを、人生でやらかした覚えはない。……「良いコト」も成していないのが問題かもしれないが。

「この、謎の状態で落ち着いていられる程、おとなしい性格じゃないの、おあいにく様。「使い」ってなに!?さっきの光は!?てか、まず、アンタはなんなの!?」

 

 自分で言うのもなんだが、私は比較的冷静な性格だ。しかし、いくら冷静な性格の人物だったとしても、突然雷に打たれたと思ったら、目の前に喋る羊が現れ、その羊に「僕の使い」と言われ、謎の呪文めいた言葉の後に不気味な光に包まれれば、噴火してもおかしくはないと思う。


「あ〜〜、質問が多いな。順番に答えてあげよう!まずは、オレのこと……まずは、名前だよな。ミコも教えてくれたわけだし……そうだな、名前……名前か……そうだ!『アルゴ』とでも呼んでくれ!愛を込めて、『アル』でもいいぜ!」


そして、羊は憎たらしい笑顔を私に向けた。



やっと自己紹介しましたね。

これで、ミコは逃げられなくなりました。

名前を教えるって、どこでも重要な契約になりますからね…

結局話を聞かない陽キャが最強なんですよ……

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