チームを組んだは良いものの。
「メノア、後は10時と3時の方向に1体ずつだ!」
少年が声を張り上げ、前で氷の槍を振るう銀髪の少女に指示を出す。
それに少し遅れて、そのやや後ろで構える少女にハンドサインを出した。
「はーい、了解っ」
少年からの指示を受け、後ろにいる少女は片手を天に掲げて粒の小さな雨を降らせる。
その滴が何に触れたかで、より正確な位置関係を測っていく。
彼女の得意な、探知魔法だ。
そして銀髪の少女は、先ず10時の方向に向けて地を蹴り、その氷の槍を構え攻撃に備えた。
無駄の無い洗練された動きで、標的に対し一気に距離を詰める。槍の先端が、月明かりを受けて煌めいた。
標的の口の奥が、赤く煌々と光る。
そして身体が膨らんだかと思えば、彼女の移動先を予測したかのように大きな炎弾が高速で放たれた。
ごう、と轟音を上げて炎は着弾した。
爆発と共に、煙が舞い上がる。
標的の片割れは、唸り声を上げ警戒するかの様にそこを注視している。
しかし。
銀髪の少女は、既にそこにはいない。
慌てたかのようにそれは辺りを見渡している。四肢をやや広げ、姿勢を低くした儘唸りを上げて。
その刹那、ひゅん、と言う風を切る音と共にそれの頭部は胴体から離れた。
断末魔を放つ事も無く、力無くその場に倒れ伏す。
「グレイ、もう片方がそっちに行ってる!」
位置を感知した少女が叫んだ。
少年は片手に持つ剣に焔を纏わせ、魔物が来るであろう方向に構え意識を集中させた。
踵を軽く上げ、どんな状況にもすぐに対応できるように重心を少しだけ上げる。
深呼吸して、心を落ち着かせた瞬間。
──来た!
鋭い爪と牙を向け、獣型の魔物が飛び込んで来た。
その赤黒い目は狂気に満ち、危険な存在であることを嫌でも実感させられる。
その動きに合わせるように、少年が踏み込んで剣を振るおうとしたその時だった。
「あ」
雨の結界を張っていた少女が、何かに気付いたかのように呟く。
銀髪の少女が、魔物の上に飛び乗ると槍を頭部に躊躇無く突き刺した。
殺意が満ちた爪と牙は少年に届くことは無く、少女が乗った分勢いが消えてどさりと地に落下した。
「今のは俺だっただろうが、横取りすんな!」
「私がやった方が確実、そう思っただけ」
「勝手な判断するなって言ってるだろが!」
「ま、まあまあ2人とも。終わったし……帰ろ?」
怒りが収まらない様子の少年を宥めるかのように、深緑の髪をした少女がぽんぽんと肩を叩いた。
睨まれる視線を向けられても、銀髪の少女はどこ吹く風と言った様子ですましている。
やっぱりこいつは嫌いだ。
少年は心の中で毒付いた。