うだつの上がらないヒーラーの僕が最強クラスの冒険者とパーティーを組むことになった理由
※本作品は習作の為冒頭のみとなります。ご注意下さい。
お知らせ:この冒頭をもとに作品を構築していましたが、諸般都合により別作品というのが正しくなるレベルの変更が生じることとなりました。申し訳ありません
ああ、まただ。
パーティーリーダーの戦士に怒鳴られながら、僕はあきらめ切っていた。
もう何度目かさえ、数えちゃいない。
「だからさあ。なんで雑魚戦でヒール使っちゃうかなあ? あそこで無駄遣いしなけりゃ、最後大物相手に使えたのにさあ」
違う。僕はヒーラーだから分かる。
あの時は、武闘家がギリギリで戦っていた。ヒールしなかったら、もっと早くに逃げ出すことになっていた。
そもそもこのパーティーは戦士のワンマン。他のメンバーはそのお守りに近い。
戦士が率先してボス格に突っ込み、武闘家が後を守る。
魔法使いが周りをカバーし、弓使いが遠距離からの攻撃に対して先手を打つ。
結果、戦士が勝利を誇る陰で、他のメンバーは疲れをためていた。
でも口には出せない。
出したところで、なにも変わらない。ムダな口論で疲れるだけだ。
そもそも僕は外野で、一時的な雇われだ。口を出しても、意味がない。
武闘家も。魔法使いも。弓使いも。きっとそう思っている。
ダンジョンの攻略に失敗し、命からがらギルドまで逃げてきた直後。
誰だって戦士に反論したくないだろう。僕だって、パーティーを壊したくはない。
「はあ……。口がヘタなのはともかく、腕は立つって聞いたのになあ……」
戦士のあきれた声。お決まりのセリフ。
もう聞き飽きた。この後に来る言葉も知っている。
「もういいや、今回限りね。ここの代金はこっちで持つから、ラゼル君は報酬ゼロ。後よろしく」
クビ。
初めて入ったパーティーで過度の回復を要求されて倒れて以来、何度も聞かされた言葉。
その後も何回かパーティーに加わったけど、いつしか扱いが雑になって、最後は倒れた。
結果、今じゃ傭兵のように渡り歩くしかなくなっている。日雇いみたいなもので、リピートもほとんどない。
「ラゼルの奴、またクビにされてるぜ」
「不器用なんだよな。自分が正しいと思うのなら、抗議すりゃあいいのに」
パーティーの面々が去っていき、取り残された僕に刺さる陰口。
うるさい。僕だって言えるものなら言いたいんだ。
だけど攻撃もできないヒーラーが、強気になったところで。
「自分がボコボコにされておしまい、ってか?」
声は奥から聞こえた。妙に明瞭だった。
ギルドの奥には酒場があり、更に奥には一人の男が陣取っている。
その男から、声は聞こえた。
「悪いな。一部始終顛末を見て、お前さんの表情を見て。俺が思ったんだ」
のっそりと、その人は僕のところへ近づいてくる。
時折体を屈めて、大きな男が近づいてくる。
そんなバカな。
だって、酒場の奥はといえば。
ましてや鎧を脱いでたたずんでる人なんて。一人しかいない。
「おいおい、いくらなんでも」
「ダルカスさんから行く、だと……!?」
ギルドのみんなが騒ぎ出す。
そう。ダルカス・ナイト・エルフォート。
国からナイトの地位を貰い受けた、最上級の冒険者。
ドラゴン相手に単騎で挑む、神話の世界に足を踏み込んでいる人。
「あー、テメエ等。静まれ静まれ」
僕に向かって寄ってくる人々に、ダルカスさんは手で跳ね除ける仕草をする。
当たり前だ。普段は奥で酒を飲み、ろくに動かない人が自分から来たのだ。
僕だって当事者じゃなければそうする。
「ヒーラーのラゼル。ラゼル・パクニシャム……だったか?」
「は、はい」
僕はダルカスさんを見上げる。
僕よりも頭一つ大きく、横幅もデカかった。
ラフな服装をしているのに、筋肉の凄さがハッキリと分かる。
西の森に棲むグランド・キングコングの成獣とタイマンしたという噂が、本物に思えた。
「俺には分かる。貴様は決して、十把一絡げにしていい存在じゃねえ。今のような立場でいいはずがねえ」
「え……」
見上げるその目は本気だった。
僕が今の立場でいるのがおかしいと、本気で考えている目だった。
「俺は酒場の奥でいつも見ていた。テメエで気づくなら手は出さねえつもりでいた。だが貴様はいつまで経っても気づきやしねえ。挙句の果てに冒険者をやめちまいそうな顔までしやがる。いよいよ我慢できなくなったって寸法だ」
僕は圧倒されていた。周りは無言になっていた。
ちゃんちゃらおかしいと言いたくとも、相手が悪すぎる。
そんな空気が漂っていた。
「ラゼル・パクニシャム。俺と来い。俺が貴様の真価を教えてやる」
彼は短く、僕を誘う。
だが僕はためらった。彼を笑い者にしてしまう勇気は、僕にはない。
僕はただの……。
「テメエでテメエを否定するような奴こそが、この世で一番ダメな奴だ!」
一喝。咆哮。
ドン! と身体が跳ねるような覇気が、目の前から飛んで来た。
木製の建物が、ビシビシと鳴っていた。
誰もが押し黙る。僕は尻餅をついていた。
「誰かからの受け売りだ。だが真実は言い当てていると思う。テメエはダメなままでいいのか?」
見極める視線が、僕に注がれる。
僕は静かに、首を振った。
ただのヒーラーだと思うのは事実だ。
だけど、ダメなヒーラーじゃない。
昔から、ヒールにかけては村一番だったんだ。
死の淵にいた冒険者を、まるっと治したことだってある。
「……」
気が付けば僕は立ち上がっていた。
ダルカスさんの前に立ち、手を差し出していた。
「行きます」
たった四文字で十分だった。
答えなんて、「行くか、行かないか」しかないんだから。
「それでいい」
ダルカスさんが、僕の手を掴んだ。
そのまま奥へと、引っ張られる。
「え、ちょ!? えっ?」
「まずは祝いの酒盛りからだ」
剛力無双に引っ張られて、僕の身体が宙に浮く。
周りの奴等が、騒ぎ始める。
僕が歩む物語は、この瞬間から始まった。