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灰皿のシミ

作者: 菜畑三太郎



あの公園は桜がきれいだったけど、梅雨に入った今はどんな花を咲かせているんだろう。


ひょっとして紫陽花が咲いていたりするかもしれないから、僕はまたそうやってあの公園を思い出す。


僕の部屋の隅に溜まった埃みたいな色をした雲からは雨が降ることもなく、ただ徒に世界を暗くする。


白壁の図書館はグレーに、鴉に至っては見えなくなった。


世界が彩を取り戻すのはいつだろう。そんなことを思って見上げても、空は悲しそうな顔をして俯いているだけだ。






なんとなくだが、シガレットを吸うのをやめた。

空に煙を飛ばすことの空虚さ、そして肺に鉛を詰め込む無意味さが何となく嫌になった。


灰皿をきれいに洗う。手で拭っても、拭いきれない黒いシミがあることに気が付く。そしてまた、洗う。



何度も、何度も人差し指でこすってみる。



洗う。洗う。



水を止めて、確認する。




やはり、取れていない。


諦めてそのままにする。






悲しいのに涙を流せない僕を嘲笑うかのような空梅雨の年。


空虚な僕を小馬鹿にするように禁煙した後の灰皿には、黒いシミが残る。




拭っても拭っても、拭いきれないシミ。




今はそのままにしておこうかと思う。そのままにして、今日はあの公園に紫陽花を見に行く。



そしてちゃんと拭いきれるようにホームセンターで洗浄液でも買って帰ろう。


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