【S21】俺たちは認めさせたい④
剣を握り直す。さあ、正念場だ。
「集え、歪んだ守護者たちよ!」
ゴーディの一言で、どこに待機していたのか
四方八方から包帯や外套で体を纏った男たちが
わらわらと集まってくる。その者たちは一介に
死んだ目や爛れた肌、薄い影をしていて不気味だった。
「腐れ、堕ちろ、腐敗しろ……!」
ブツブツと恨めしそうに呪言を漏らしながら、
ゴーディの周囲に瞬く間に『不快』な魔術が
展開されていく。精霊を媒体にして魔法を操るものとしては、
あの異臭が漂いそうな魔力はどうも苦手だが……だからこそ、
「手早く終わらせよう」
――瘴気を焦がせし紅蓮の炎たちよ、
かの空気を燃やし尽くし、浄化せよ。
「ファイアセイバー……!」
演舞を描いた剣に精霊をまとわせ、
生まれた炎と原子と魔力を結合し、
最大火力の魔法炎字を発現させる。
その炎に描く字は――。
「大文字!」
放出された炎の粒子は、
大の字を形成してゴーディへ向かう。
建物は内側から倒壊して、
壁の肌は焼け焦げている。
すべてを燃やしながら近づく紅蓮の魔法に――。
しかしゴーディと守護者たちは、微動だにせず。
「腐り堕ちろおおおおおおお!」
憤怒の叫びとともに、青白く不気味に
まとっていた彼の瘴気と魔力が放出する。
それは大文字を巻き込み、相殺せんと
どんどん威力を殺しにかかっている。
――だが、俺の魔術のほうが強い。
大文字はそれすら燃料に変えて、
青い炎に形を変えてゴーディたち、
『歪んだ守護者』たちに迫っていく。
「「――俺たちは、ハグレモノだ」」
ゴーディが、その周りに侍る守護者が、
大文字を相手にしながら口車を止めない。
シンクロする自戒の言葉。後ろめたい顔。
「「どんなことをしようが、自由の身だ。
もう俺たちを裁くものは誰もいないから。
だからこそ、たまにケジメをつける――。
俺たちはその聖なる儀式を、堕天と呼ぶ」」
「……お前たち、危険を前に随分とよく喋るな」
ゴーディは止まらない。
「堕天さえすれば、聖なる世界へ行けると
俺たちは信じて止まない。それこそが救い」
「そう、罪のない世界へ」
ゴーディの言葉に、
後ろで侍る『守護者』たちが賛同する。
「既に――堕ちに、堕ちきった俺たち」
「俺たちを救ってくれるのは、よもや」
「地獄しかない」
その声音には剣幕と覚悟が宿っているのに、
何なのだろう。この、全てを諦めた意思は。
「天から地へ。地から獄へ。その炎が、俺たちを
包み込み、地獄へと送ってくれるのなら、本望だ」
「痛みも恐怖も感じない。その代わりに、どうか」
「「「どうか、最後だけは安らかに」」」
病みきった心を、文字通り火中に投じるように。
『歪んだ守護者』たちは、大文字へ向けて体を
投げた。ゴーディも、目を細めて炎の中へ――。
入ったが、何も起きなかった。
「……は?」
死の判決が下ると思った――その直後。
しかし、審判の槌は鳴らされなかった。
「――お前たち、俺に仕えろ」
呆然とする守護者たちに、
剣を鞘に収めて俺は言った。
「……待て待て、まてまてまて」
ゴーディは呆然とする連中の中で、
唯一、まだ疑問を口にすることを
止めていなかった。
「どうして……。俺たちは、炎に巻かれて
堕天になるはずじゃなかったのか……」
「お前たちは、地獄に行くにはまだ早い」
死んでいない事実に絶望する亡者たちを
前に、少しばかり残酷に俺は言い渡す。
「――俺の魔法の効力は、汚れた存在。
魔族や悪魔を浄化するため『だけ』に、
ある。それがお前たちを焼けなかった
というのは、どういう事か分かるか?」
「……まさか」
自分が自分じゃないように手のひらを見つめる
ゴーディ。しかし、頭は理解に辿り着いているようで。
「お前たちは、腐ってなんかいないんだよ。ゴーディ」
ざわめきが、倒壊し荒れ果てた建物のなかに満ちる。
本当に、自分が自分であるのか。既に腐っていると
思われた自分が、まだ救いようがある人間なのだと。
そう悟ったハグレモノたちが辿り着くのは、絶望か。
或いは……。
「……あんたにはぁ、負けた」
ゴーディが頭を垂れて、
「負け」の一言を口にした。
「……この、不快王ゴーディ。
俺はアンタに仕えよう、ボス。
そうしたら……。いっしょに、
証明させてくれないか」
「何をだ」
「……――認め、させたいんだ。
俺たちを追いやった、賢者様に。
俺たちを迫害した、国の人々に。
俺たちは、正しいことをしたのだと。
堕天する前に、どうか一度だけでも」
ゴーディの言動にシンクロする、『歪んだ守護者』たち。
捨てられ、嘲られ、居場所を追われて歪んだ元聖者たち。
それが、今、一介の学生剣士に頭を下げてまで。
「「「認めさせたいんだ。世界に、俺たちの存在を」」」
――有名な話だ。
ミカンの箱のなかに腐ったミカンを入れれば、
連鎖的に健康なミカンさえ腐っていってしまう。
だが、まだ彼らは腐ってなどいない。
ただ、腐りかけていただけなのだ。
まだ、やり直せる。
まだやり直せる。
その役目を、俺が果たせ。
『北の魔王』を、
この手で打つことで!
「その契約、確かに
聞いた。ならば、俺はその役目を
果たそう――。お前たちの名前を、
歴史に刻もう。そのためにも――」
悪逆の使徒を、この手で打ち。
この俺を、ユキミヤ・リョウヘイや
ホカリ・セイタに替わる『真の勇者』と
認めさせ。『歪んだ守護者』たちの名を、歴史の
本に名を刻むのだ。
――こうして、対『北』勢力が完成した。
次回は久しぶりに主人公兼ヒロインが登場します




