【S20】俺たちは認めさせたい③
「あんたがここに来るまで踏み潰した、アリの数」
ほつれだらけのソファーに横たわり、
虚空を見つめるような目で佇む男。
それこそが、俺の目的であり探し人である
『不快』の王――ゴーディの姿だった。
「……。覚えがないって顔してるね。
大丈夫、みんな最初はそうなんだよ。
自分が知らず知らずのうちに犯した罪を悟らずに生きている。
そう、かつての俺達のように――自分がしてしまったことの
愚かしさに、気づいていないのだから……。あんただけが、
特別って訳じゃないよ。小さな命を何個踏み潰そうが、ね」
淡々と、俺の罪を述べはじめるゴーディ。
どんな洗脳術を持っているかわからない。
ここはできるだけ刺激しないように、
会話を回すことに徹しようか――。
「すまない。周囲を警戒していたもので、
足元までは注意が及ばなかったようだ」
この男が、
ホカリに似て一種の狂人なのは
間違いない。だからどれだけ常軌を逸した
発言をしようが――俺はそれに合わせよう。
「なるほど、確かにそうだ。
レジスタンスのアジトに潜り込もうと
しているのに、足元まで注意をしている
余裕はないだろう。分かる、尊重するよ。
――でもさ」
空気が、その否定の一言で一変した。
「アリだってもミジンコだって、
切り離されたトカゲの尻尾だって、
――まだ生きているのに。そんな
小さな命を尊重しないのは、
人としてどうなの? って、
話になってこないかな――」
ゴーディの周りに、不可解な魔力の
オーラが溢れ出す。それは、俺が扱うような
神聖な青い光とは違って、酷く薄汚れていて、
見る目を摩耗させるような――『不快』に溢れた紫色だ。
「――小さき者よ、かの者を、拘束しろ」
足元から、出処がわからない『不快感』が
襲いかかる。
このまま、突っ立っていたらマズい――。
本能が脳に命令を伝達するまでのたった一瞬、
それだけで――俺の足元には、小さく黒い鎖のようなモノが
足と床を固定するように絡まっていた。
「――お客さん、あなたは知らないだろう。
小さい生命たちが、どれだけ必死に生きているのかを。
その小さい心臓を、どれだけ必死に動かしているかを。
血反吐を吐いて、泥水をすすって、頭をこすりつけながら
前に、ひたすら明かりの見えない前へ進む。……そんな、
地獄のような日々を生きたことが――あなたにあるか?」
ゴーディがよく回る舌を動かしていくうちに、
足元の鎖の正体がわかった。
――アリだ。
踏み潰して四肢がちぎれて、
体液がぶちまかれたあとが、
鎖のところどころに垣間見える。
「――死。それが、必死に生きる小さな生命を陵辱した、
あなたへの報復だ。さあ、その身を持って知るがいい。
小さな、俺たちの怒りを」
アリの死体が魔力によって動かされ、形成された『死の鎖』が。
かかとから足の付根へ、ひざへ、どんどん侵食を深めている。
これが、俺に踏み潰された26匹のアリの恨みだというのか。
ただ歩いていただけで、文字通り命を踏み潰された恨みを。
何の罪もないのに、蹴り飛ばされた痛みを。
痛み、恨み、憎しみ――その全てが、俺の
足元へと収縮されて『死』を伝えにくる。
これが、命を散らしたものへの報い……。
――はっ。
「悪いな、ゴーディ」
「……なんだと」
鞘から剣を引き抜き、
魔法を発動する。剣術を利用して、
空気を切り裂くような演舞を描き、
魔法の光をオーブに収縮して、
周囲にバラまいた。
するとどうだろう。
足元へたかっていた『死の鎖』は、
まるで最初からなかったかのように
浄化されていく。魔法の、力により。
「この程度の呪い――。回復魔法の
権能にかかれば、解呪は造作もない」
「……ちっ。その禍々しい青の光は。
あの時の、賢者さまと同じ……!
分かったぞ、お前、魔法剣士か」
「ご名答。それと、さっきの
報復とやらについてだが……」
ふっと嘲笑的な笑みを作って、
ゴーディへと傾ける。
「アリにとどまらず、もう何人もの魔族を
この手で葬ってきた。命が小さい大きい関わらず、
この歳で、数え切れないほどの命をこの光と剣で、
浄化してきたんだ――。今更アリの命ごときで、
死んでやるようでは――他の俺に死んで欲しい
連中に、顔向けできないだろうが」
「……お前えええぇぇぇ!」
圧倒的な『不快』のちからが開放され、
俺に襲いかからんと魔力を深めた。
剣を握り直す。さあ、正念場だ。
なろうをしてる時間がない……(T_T)




