【S18】俺たちは認めさせたい①
回想です。
今回は久しい名前がいくつか登場します。
私は人間サイドのキャラもけっこう好きです(*^^*)
「クライス、クライスってば!」
柄にもなく、ユキミヤが大きく声を張り上げている。
馬上にまたがる俺に向かって、全く足りない背を補うように
ぴょんぴょんとジャンプしながら、必死に俺と目を合わせて。
「どこに行くの? まだソフィアの目も覚めてないし、
朝ご飯だってまだだし、その――セイタ、だって……」
ユキミヤの威勢が曇り、
暗くうつむいてしまう。
「セイタだって、なんだ」
そんな彼女に向かって、
俺は無慈悲にも言及した。
――アイツは、まだ悲しみの縁から抜け出せないでいる。
先の戦争で、あの惨劇を作ったのは他でもない奴だというのに。
あのホカリ・セイタという男は、未だユキミヤの
優しい心に甘んじて、部屋でうずくまったままだ。
あんな者、俺は戦友だと――同士だとは認めない。
「あの男が、なんだ。自分で事を作り上げて、
勝手にふさぎ込んでいる、あの男が、何だ?」
「……セイタ、が」
震えながら、迷いながら。
それでもユキミヤは、
唇を動かして言った。
「かわいそう……だから」
「……はっ」
よく言うよ。
じゃあその震えは何だ、アイツのしたことを
思っての不信の震えじゃないのか? ええ?
……そこまで言えるほど、
俺も鬼じゃなかったが。
「……ユキミヤ、お前だって知っているだろう。
あの戦いで『西の勇者』ユキミヤ・リョウヘイ――お前の名付け親が
捕らえた、『北の魔王』タドコロ・イズミがトータウスの牢から脱獄、
南の領地へ向かったと思われるという情報を」
「う、うん……。授業の時間に、聞いた」
「まったく……。どいつもコイツも、腐ってやがる。
なぜ捕らえた少女をみすみす逃すような真似をっ!」
馬の手綱を強く握りしめ、怒りを殺す。
人に当たっては、ホカリと同類だ。
「イズミは魔王……。我々の領地である西に限らず、
この大陸に害を及ぼす、正真正銘の天災なんだぞ?
それを逃がす『勇者』もどきに、
正気に戻らん狂戦士が……!」
オマケに『西の勇者』は、
謎の失踪ときたもんだ。
募る怒りと、収まらない憎悪。
これが人を、狂気へと導く感情……。
だが、これに飲まれるほど俺は甘くない。
俺は、あの男とは――違う!
「――その歪みを、俺が正しに行くんだよ。
役に立たない勇者と同胞の狂戦士に変わって、
俺が世界のアクを絶ち切り、『真の勇者』に」
膝が震える、手首も震える。
これから己が成し遂げる偉業に、
なそうとしていることの愚かしさと無謀さに。
でも、不思議と蛮勇を張っている気はしない。
「なるんだよ……俺は!」
なぜなら、これは世界のためだから。
俺は優等生だ。魔法科高校でも暫定首席の座を誇る、
魔法のエリートにして剣の達人、魔法剣士の第一候補生。
俺は、あれからまた強くなったぞ、ホカリ。
お前がベソをかいてうずくまっている間に、
俺は努力したぞ、鍛錬をしたぞ、ホカリ!
……もう遅れはとらない。
恋人の、ユキミヤの隣にいるために。
俺は剣を学んだ。魔法を習得した。
血の滲むような、努力をしたんだ。
なのに、ユキミヤが認めた男は、
お前だった。
悔しかった。
悔しかった。悔しかった。
……羨ましいと、思ってしまった。
でも、それに負けたら終わりだ、とも思った。
嫉妬に負けて剣が鈍るようでは、俺の名が廃る。
今までの努力は間違ってなかったのだと、
あの戦いから帰ってからも信じ続けて。
俺は今、ここに立っているぞ、ホカリ。
「――世界を、救う。アイツと違うと、
証明するんだ。そうしたら、ユキミヤ。
そのときは俺と――…」
その先は、言えなかった。
手綱を握り、馬の胴を蹴った。
遠ざかっていくユキミヤの顔は、
ぽかんとした目と唇が印象的で、
ずっと頭のなかに残ってしまいそうな後味を残したが、
「(ガリッ)!」
唇を強くかんで、
ユキミヤの顔が頭に残らないようにした。
今の俺に大切なのは、恋なんかじゃない。
誰にも負けない怒りと、自尊心だ。
取り戻せ、
俺の目標を。
煩悩なんて忘却の彼方に捨ててこい。
今やるべきことを、なすべきことを。
心に刻め。
まずは、西の領地を出て南を目指し、
そこで戦力の増加を図る。
確か、『歪んだ守護者』という『南の賢者』から
追放されたハグレモノたちが集う村があるはずだ。
剣で脅し、支配し、力を借りよう。
不器用な俺ができるとしたら、
これくらいの事だろうから。
俺の、長い長い孤独な旅が始まった。
次回も回想になります。
クライスと『不快王』ゴーディとの出会い編です。




