【64】ブラッドフォード
「――敵の位置、出ました。3時の方向より、敵魔力反応を多数確認」
緊張感が漂うなか、権能を
発動していたイルガスが、的確に
情報を報告する。
その朗報に、
牙を研でいた二人の戦士が顔を上げた。
「――姉貴、出撃許可を」
「うん、いってらっしゃい。
派手にやっておいで――ゲイブ、ブラッド」
「「殿下の仰せのままに」」
声を重ねた二人の忠義は、
イズミが自信を持って彼らを送り出すのに、
充分であった。
◇
――ゲイブとブラッドの精鋭二人が『不快』討伐に
向けてイズミのもとを離れたあと、突然、ブラッド
がこんなことを言い出した。
「――ゲイブ殿、俺の権能で歩幅を合わせる。
悪いが、しばらくのあいだ、息を止めてくれ」
「はあ? 息を止めるぅ?」
「いくぞ。3、2、1……」
走りながら、一秒でも長く空気の循環が
求められる状況で。しかし、
ゲイブはそれに従った。
「んんー!(なんだってんだ)」
「はは、すぐに分かる!」
そう言うとブラッドは、
さきの襲撃でイズミが降らせた
闘魔の閃槍を一本抜き取り、
自分もぐっと息をつめて、魔力を開放させた。
ブラッドフォード――権能名――《反発異粒子》
「こういうことさ!」
周囲の空気が、刹那の間だけふわっと軽くなる。
ゲイブとブラッドの体が宙に浮いて、
跳躍もしていないのに宙に留まった。
『無重力』に近い現象を、
ゲイブは初めて体験した。
「なんじゃこりゃあァ! 一瞬体が浮いたぞ!?」
結果、大はしゃぎである。
すとんと足が地面につくと、
なんだか体が軽くなっている
感覚がした。
「その状態で、大きく足を駆け出してみろ」
「こうか? ――って、うお!」
ゲイブが地面を蹴ると、
自分でも信じられないほどの
距離を移動していた。
まるで、体が反重力体になったように。
「体がめちゃくちゃ軽くなってやがる」
「岩場だと、足が思うように動かせらられないだろ?
そういう時に俺の権能が役に立つ。対象者の体のみを
反重力にさせて、一度の跳躍で爆発的なパワーを生む
ことができる。ただし、持続時間は俺の体力次第だが」
反重力の状態を維持したまま、
二人は『不快』がいる方角へと
凄いスピードで向かっていた。
ゲイブは持ち前の驚異的な運動能力と、
ブラッドの強化系スキルによって、
その速さは乗用車の最高速度に達する。
対するブラッドはそこまでの基礎能力が
ないため、イズミの闘魔の閃槍を
反重力ユニットとして用い、
武器としながら
空を切って前へ、
前へと重力を調整しながら進んでいた。
槍が、磁石のような役割を果たしていると
言ったほうがわかりやすいかもしれない。
驚異的なスピードで、加速していく脅威。
それはどんな破城槌よりも、
どんな玉砕攻撃よりも厚い、
ゴブリンの『牙』そのものであった。
「……テメェ、なんで今までこんな強力な権能のこと、
黙ってたんだ」
「別に隠していたわけじゃない。
ただ、使う場面がなかったんだ」
なんせ、他の幹部たちが強すぎるからな……。
という言葉を、ブラッドはぐっと飲み込んだ。
「いや、べつに責め立ててるわけじゃねえよ。
ただ、お前は特別だからよ。――お前は、人間だろ?」
その「人間だろ?」には、
侮蔑的な意味合いはまったく込められていなくて、
ただ「お前って人間なのに、なんでそんなにスゲえの?」
という疑問や敬意が込められているとブラッドは感じた。
「……まあ、そうだな。イズミ一行のなかで、
人間なのは俺だけだなものな……」
――本当はイズミも元・人間ではあるのだが、
今では列記とした魔族、ゴブリンの王である。
「……あまり、周囲に馴染めていないのは、自分でも
理解している。ジヲォン殿は俺のことをかわいがって
くれるし、なんだか皆が俺に気を使ってくれている感じは
否めない」
「はあ? 違えよなに言ってんだお前」
珍しく感傷的になるブラッドに対して、
ゲイブはいつもの態度を崩さなかった。
「――皆がお前の力を認めてるから、
お前を受け入れるんだ」
「――そう、なのか?」
「あたぼうよ。
それにな、ジヲォン爺さんがお前を
可愛がってるってのだって、そりゃお前が、
あの爺さんの全盛期くらいに強いからだよ。
ライバルとでも思ってるんだろ、爺さんもよ。
――お前は、枯れかけた花に、また水を汲んで
やったんだよ。はっ、誇らしいことじゃねえか」
「はは……。ジヲォン殿の若いころ、か……?」
「ああ。『鬼神』って呼ばれてたらしいぜ?」
「……俺には荷が重いよ。
だって、俺は」
ただの、家族不幸な兄弟の一人なのだから。
――クズみたいな兄の元で育ち、彼と同じ飯を
食い、同じ剣を振るい、同じ家で暮らすうちに、
いつのまにか俺も、きっと同じレベルまで腐っていた。
そうして、もはや剣しか誇れることがなかった俺を、
俺と同じように荒廃したキズル村を、イズミは救い。
どころか、俺に手を差し伸べてくれた。
彼女を守りたい。
彼女が大陸の王になることを望むのならば、
喜んで覇道をともに歩もう。歩ませて欲しい。
だから、俺はあくまで彼女に従う従者の一人。
『鬼神』と同じ土俵に立とうなどと、おこがましい。
「……お前の過去に、何があったかは知らねえけどよ」
ゲイブは、珍しく殊勝な態度で。
「そんなに、気負うことないんじゃねえの?」
「……本当に、そうだろうか」
自信が、持てないんだ。
ゲイブ。
お前たちと、本当に同じ場所から、
目線から同じ主に仕えているのか。
俺は人間。
お前たちは魔族。
仕える主も、魔族だ。
本当に俺は、家臣として――仲間として。
認められているのだろうか?
そんな俺に、ゲイブは言った。
「――人間なんだ。弱くて、当たり前じゃねえか」
「――」
「お前は、俺より弱い。でも、他の奴らよりは強え。
それでいいじゃねえか。――それにお前、何よりな。
主が力を認めてくれている。
それで、充分じゃねえか。
騎士の矜持としてはよぉ」
後頭部を、ちょくせつ言葉のハンマーで
殴られたようだった。
今まで恨んでいた自分の『弱さ』を、
「当たり前じゃないか」と肯定されてしまった。
「お前はお前でいいよ」と肯定されてしまった。
心の中を覆っていた黒い羽が、ほどけた気がした。
「イズミの姉貴を守るために、お前が必要だ。
ブラッドフォード。俺さまに、力を貸してくれ」
名前を呼ばれてしまった。
必要とされてしまった。
なら、進むしかない。
与えられた期待に、
『人間』として答えなければ。
「――ああ、任せておけ」
特別なことができなくたっていい。
ただ、期待されたら応えられる人に、
俺はなりたい。
ふおー……すげーミスをしてしまった。
ブラッドのセリフにあった「人間じゃないのは俺だけ」
じゃなくて、本当は「人間なのは俺だけ」です。
バカなのか私は。
修正しましたけど先に読んでくれた方々はすみません。
意味の分からない文章になってしまって……。
これと全く同じ文を次のまえがきにも書きますので、
今これを読んでくださっている人は
次回の前書きを読み飛ばしてもらって大丈夫です。
自分のキャラの設定を間違えるとは。
アホすぎる……(^o^)




