【61】反省会
「――テメェみたいな悪を砕く、ゴブリンの牙だ」
イルガスやレイの獣化現象は、
いつの間にかふと消えていた。
しかし、ゲイブ命名のショルダーファングは
未だに健在であった。
「男に興味はねえんだよ……。
――腐れ」
「腐れ」、その一言でツルを切った
ゲイブのショルダーファングが、
刃先の方向からドロリと溶けた。
「『腐海』の威力も知らずに、突っ込んできた愚か者よ。
染王ゴーディの名のもとに、汝を腐りの楽園へと導こう」
ゴーディが淡々と呪詛を唱えるたびに、
ゲイブの牙の融解速度が早まっていく。
圧倒的な力に為す術もなく、折れる
ゲイブの牙―……。
「――はん。この程度で!」
心を折られるほど、柔く鍛えられちゃいねえ!
『絶対意思――!」
爆発的に上昇する魔力オーラ。
ゲイブのレベルが七十、八十――絶対に倒れぬ鋼鉄の意思により、
レベルという『力』が呼応して、彼の『不快』を取り去っていく。
「こんな魚の胃液みたいにちんけな毒……。俺さまには利かねえよ!」
ぐっと、拳を握って力強さをアピール。
『腐海』を受けながらも白銀に煌めくその牙に、
ゴーディはなおさら両目に宿る警戒心を強めた。
「うわー……。自己強化の権能かよ……。
相性わりぃから、離脱だな。これ」
ゴーディはそう言うと、
パチンと指を鳴らした。
すると周囲で不気味な沈黙を保っていた
包帯や外套の男たちが、まるで幽霊のような
足取りで彼のもとへ集っていく。
「まあ、今日はこの辺にしてやるさ……。
だが、『歪んだ守護者』の名に誓って、必ず。
お前らが南に着くまで、堕天にしてやる」
彼が踏んでいた落ち葉の影が、ブラックホール並の
闇を称えて深淵を深めていく。
そこに、吸い込まれるように消えていくゴーディと
その取り巻き。
「じゃあ、また合う日まで……―賢者のご加護があらんことを」
最後にそう残して、『不快』の主は消えていった。
◇
――その後、合流した私たちは互いの状況を
伝え合い、敵についての情報の収集に努めた。
◇
「――じゃあ、負傷したのはレイと、ジヲォンだけだね?」
「はい……。この老骨、殿下の足手纏いになろうとは……」
その日の晩、すっかりと暮れて夜行性の鳥類たちが
歌い出す頃、私たちは焚き火を焚いて反省会をしていた。
赤くそまった薪がはぜて、周囲にぱちぱちと飛んでいく。
「いいの、気にしないで。それよりイルガス、
ジヲォンの傷は治りそう?」
「ええ、致死傷にはなりえない傷です。――しかし、
不可解な権能の呪いがかけられています」
「権能の、呪い?」
「はい。属性的に、希少種ではありますが――…極稀に、
傷つけた対象に向かって後遺症を残す、『不快』という特殊
スキルが存在します。そして、『不快』を使える条件は……」
「聖なる存在から抜け堕ちた――邪悪の存在であること」
博識の参謀二人が、互いに顔を見合わせながら
鎮痛なかおをする。
「レイも、知ってるの?」
「……私たち参謀は、魔族の『知の武器』です。
この大陸のいたる事象や歴史は、私たちの頭に詰まっています。
その中でも、特に忌み嫌われた存在が、先ほどの『不快』です」
焼けた木の破片が散るまわりで、
『不快』という言葉がやけに頭に残った。
べったりと、心のすみにくっつくように。
「おい、なんなんだよォ。その抜け堕ちた存在ってのは」
イライラと怒りを募らせるゲイブが、
あぐらを掻きながら二人に聞いた。
答えたのはゲイブだった。
「まず、聖なる存在とは大陸の支配者たちのことを指す。
東の魔女、北の魔王、西の勇者、南の賢者――…それが、
この世界を権威と法律で縛る、聖なる存在だ」
「――…イズミの姉貴は、聖なる存在じゃなくね?」
うんまあ、魔王だもんね。
「……そこはいいんだよ、一括りになっているんだ。
とにかく、この大陸には殿下を含め四人の存在が支配している。
そこはわかるな、ゲイブ。いかに知識がないお前でも」
「一言余計だぜ」
「そして、抜け堕ちとは――…その聖なる存在の仲間から、
――破門。または、追放された者たちの末路を指す言葉だ」
沈黙が、ゴブリンたちの周囲を満たす。
「理由は様々だが、追放される者たちが各地でいるのは確かだ。
多くは、配下であった騎士や学者が過去の例に挙げられている」
「そして、ここは南の領地に限りなく近い山道……」
イルガスの言葉を、レイが補い―……。
「――『南の賢者』の配下であった者たちが、
何らかの理由で抜け堕ちた者たちの集団――」
「それが、『歪んだ守護者』……ってわけ?」
「ご名答です、殿下。現に、ゲイブの報告では
奴らはさり際に「賢者のご加護があらんことを」と残したそうです。
他にも堕天やら、染王やら――…奴らにしか理解不能な用語を用い、
我々に危害を加えようとした。――…どうやら、我々『北』出身の
魔族が『南』の領地に進出すると、奴らにとって何かしらの被害が
生じる――…そういう解釈でよろしいかと」
淡々と結論を述べ伝えたイルガスの瞳には、
強い対抗心と怒りがこもっている。
――私たち、誇り高い魔族がたかが人間から
放たれた野良犬ごときに、遅れをとったのだ。
私だって、腹が立たないはずがない。
「ゴーディー……か」
宿敵の名をつぶやく。
イケメンだろうが、なんだろうが、
私の家臣に手を出したんだ。
――ただで済むと思うなよ。
黒幕さんがいるんですが、入り切らなかった……。
こんど出します^^;




