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【08】罪な男め!



名乗り終えると、オレは意図的に剣を鞘ごと地面に落とした。


敵意がないことを証明するためである。


「……その住民が、私に何の用だ」


ゴブリンの王女はオレに向けて、どこか芝居がかった威圧をかけてきた。


……王にしては威厳というものが感じられず、この小娘にどれほどの力量があるのかは分からないが、臣下たちが確かにこの王女に忠誠を誓っていることは、彼女を守らんとする衛兵の剣幕からも感じられた。


「なに。貴殿らの計画を聞き及び、偶然近くを通っていたもので、そのままお邪魔いたした次第だ。オレに敵意はない。剣は握っていないだろう? 麗しく気高い王女たる貴殿ならば、抵抗のしようもない者を捕らえてどうこうしようとは思いますまい――」


「――ジヲォン将軍、この者をひっ捕らえよ!」


ええええええぇぇぇ!?


いかつい将軍と思われる剣の使い手が、無抵抗なオレの手足を縛り王女の足元へ転がした。


……う、嘘だろ!?


この展開で、侵入してきた理由も聞かず初っ端から拘束する者がいるか!


「……おい、王女。なんだその『してやったり』みたいな顔は。『これも言ってみたかったんだよね〜』って呟いたな、今。どういう事だ、納得できん!」


「――我が同胞の右肩を弓で射ったのは、貴様だな? その時点で、貴様は来訪者などではなく、敵意ある侵入者として扱われて当然。身の程をわきまえろ、この貧民街の下民め!」



ジヲォンと言うらしい剣豪将軍は、オレを睨めつけた途端険しい顔面をさらにこわばらせた。

皺という皺が眉間により、相当怒っていることが伺える。



「……ああ、その件は申し訳なかった。しかし――それに関してはお主たちにも一介の非があるのではないか? お主らゴブリンが集団で人間化したのをいい事に、本来の人間の狩場までを蹂躙し、稼ぎを横取りするのが悪いのではないか」


「貴様……ッ。囚われの身で、よくもそこまでの暴言を……!」


「――剣を下ろしなさい、ジヲォン。彼の言うことも一理……。

いえ、それに関しては彼の言っている事がよほど正論よ」


「レイの言うとおりだな。将軍として――武人として、武器を持たぬ者に剣を向けるとは……。見苦しいぞ」


「ぬうッ……!」


くだんの将軍は剣を鞘に収め、なくなくオレを睥睨するに留まった。

理不尽な斬首からオレを救ったのは、飄々と冷たい雰囲気放つ妖艶な女性に、一番の年少と思われる青年のゴブリンだった。



――なるほど。ゴブリンの中にも、話が通じる者が居るではないか。


「……じゃあ」


そこで改めて、敵方の女王が口を開いた。


「貴方は、何をしにここに参ったのじゃ?」


……この女は。


会話の終始、芝居めいた言葉遣いと表現をしよって。


さてはノリノリだな? この娘。


「……すまない王女。どこぞの脳筋のせいで、論点がズレていたな」


オレは大きく息を吸って、単刀直入に切り出した。


「王女、貴殿はキズル村を侵略すると申したな? それも村の住民一同を、働かせることができなくさせてやると」


「うん、言ったよ」


「無論その中には、オレも含まれている。そんな世迷言、村の戦士たるオレが見逃すとでも? 今この場で釈放されようものなら、後日、村の戦士一同を引き連れ全力で対抗させてもらう。それほどまでに、我々貧民街の資源は枯渇しているのだ。――その覚悟が、即位したばかりの貴殿にあるのか?」


威圧感を込めて言葉を放ったつもりだったが、王女はひるまなかった。


「でも、怪我をさせて物理的に働かせなくするとか、そういうんじゃないの。キズル村の人たちには、私たちゴブリンに『依存』してもらう。私たちが居なくちゃ、生活ができなくさせてあげるの。そうすれば、私たちゴブリンが冒険者たちに襲われることもなくなるし、横取りしちゃった狩場もこれまで通り使用できる。両者Win-Winってことだよ。それがゴブリンロードとしての私の考えた、人間界侵略作戦――異世界人類ニート化計画――私の、異世界に来て見つけた最大の暇つぶしだよ」



王女の言葉には、確固たる意思が感じられる。


先程までの芝居めいた表情はどこにもなく、その瞳は城の仲間を――彼女にとっての家族全員を見据えていた。


「なるほど、貴殿は異世界から来たと申すか……」


通りで――王女にしては道化めいた発言も言動も、これで納得がいった。

『悪逆の王』とまで称された初代のロードと、比べるまでもない弱々しい覇気をしているくせに、なぜ臣下がそこまでの信頼を寄せているのかと思ったが、なるほど。

そういうことか。


異世界の知識を活用してその侵略作戦とやらを考えたと言うのなら、納得がいく。


そして、それはつまり。



彼女はまだ、オレの知り得ない世界の知識を持っている――。



「……ククッ……ははは! なるほど、そういう事か。このブラッドフォード、合点が行った。ならば余計に、貴殿が気になって仕方がない」


そう言うと、なぜか王女はばっと顔を赤らめて目を輝かせ始めた。


「きっ、ききき気になるってそういうこと!? ねえ、そういうこと!?」


「そういうこと……とは検討が付かないが、まあそういう事だ」


なぜか王女は「異世界で私に春が来た――!」と狂乱している。


「……何か勘違いしているようだから、率直に要求を申そう」


王女が年相応の輝きを映えさせるなか、オレは言った。



「――オレを、貴殿の侵略作戦のお仲間に加えていただきたい」



なぜか王女は露骨に嫌そうな顔をした。





視点がブラッドフォード目線になっています。

ヒロインを語り部にさせるのは楽しいですが、たまには男の観点から書くのも悪くないですね・ω・


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