表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/140

【S17】それぞれの夜②


僕は一体、何をしにここに来たのだろう。

この世界に、一体、なんの目的があって、

こんな場所にいるのだろう。


別に、自分を変えたいわけでもなかった。

あの自堕落な生活に、これといって忌避感を

感じていた訳でもない。ただ、世間的に見て、

自分はどうなのかと自問自答するくらい……。


でも、それくらい、誰だって抱えている

悩みだろう。

僕に限った話じゃないはずだ。

僕が抱えている悩みは、

全人類の悩みだ。

僕が思う感傷は、

すべての人々が抱える痛みだ。


いま、この世界の中にも、

悩んでいる人や傷ついている人たちは

たくさんいる。


……―自分のことを棚に上げて、

己の感傷ばかり押し付けるのは

傲慢だろうか。


分かっている。

でも、辛いんだ。

どうしようもないくらい。


望んでもいないのに、理不尽に

この世界に転生されて。


行きたくもない戦争に

駆り出され、兵として番号を与えられ。


仲間を傷つけ、己を見失い、あげく、

仲間たちの背中を守れず敗走した。


―…僕は一体、この世界にきて

何を成し遂げたことがあっただろう。


一つでも挙げられるものなら挙げてみろ。


僕は、何も成し遂げられない愚か者だ。

その姿勢は、もはや勇者ですらない。


自堕落に生きていた罪を、

今贖わされている。


でも、あまりにも

ひどすぎるだろ。

運命の神様。


せめて、僕だけを

罰しろよ。


なんで、ソフィアを傷つけた。


なんで、エマの心を傷つけた。


僕だけでいいだろ。


僕は――『不遇の勇者』は、万人の

不幸を背負うために、いるのだろう。


「……ああ」



『夢の中で、異世界に転生して、あたしを見つけて。そして救って。

あたしはいつまでも待ってる。それまで『自由の心』を忘れないで』



キサラギ。

お前いま、どこにいるんだよ。



『想像を止めないこと。自由を貫くこと。そうすれば、自ずと道は開けてくる』



無理だよ。


僕は、君みたいに強くない。



『あなたは不遇の勇者なんかじゃない――来るべくして転生された、本物の勇者さま』



嘘だ。


嘘だ嘘だ嘘だうそうそうそうそ。



『いかなる時も想像を止めないで』



無茶言わないでくれ……。



『残された時間で、もっとあたしを理解して』



――虚像の君の、なにを理解しろと……。


きみだって、僕だって、ぜんぶ、ぜんぶ


嘘なんだろう―……?



『そして』


これ以上ぼくに―……。


『あたしを、救い出して』


何を望むんだよ―……!


キサラギ――!



「――…失礼します、賢者さま」


満月から発光する光が、

海上にあるガーデンドームを

淡く照らし出している。


さざなみの音と共に、

波打つ潮騒の香り。


芸術的な静寂のなかで、

『賢者』と呼ばれた女は振り向いた。


「どうしたの。フィアリー02」


「……―先日、次代『西の勇者』である

ホカリ・セイタに行ったコネクトですが、

どうやら良くない方向に進んでいます」


「ふー……ん」


傍目から見て、

興味がなさそうな賢者は、

大きなあくびを繰り出した。


フェアリー02は、それを咎めること

なく声をかける。


「お疲れなら、お休みになられますか?」


「……いいえ。あなたの声は、聞いていて

心地がいいの。もっと聞かせて? 『西の

勇者』のお話を。コネクトした……感触を」


「……随分と、ご興味を持たれているのですね。あの男に」


「ええ。だって――セイタに見させたのは、あたしの

夢なんでしょう? 気にもなるわよ――元恋人だもの」


満月は、その女の蠱惑的な微笑みを、どこか

妖艶なものへと置き換えていた。その笑みは

深く、遠く――この世界ではない、どこかへ

向けられている。


「……それと、恐れながら賢者さま」


「なに? フェアリー02」


「この度、『友』から名を頂きました。

これからは、ノイリー。

と、そうお呼びください」


「……わかったわ。ノイリー」


不遇の勇者の、悔恨の夜は、明けない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ