【S16】それぞれの夜①
「――行くぞユキミヤ。こんな男に、構っている時間が持ったいない」
「……あ」
一瞬の抵抗を見せたエマ。
しかし、クライスがもう一度その腕を引くと、
憂いをその瞳に映し―……場を離れていった。
◇
……私は、どうすればよかったんだろう。
あんなに目元を腫らして、ずっとあそこで
蹲っているセイタを見て、私はなんて、
声をかければよかったんだろう。
……セイタが、悪い人じゃないのは
最初からわかっている。
じゃなかったら、ハーフエルフとして
忌み嫌われていた私を、あんなに優しい笑顔で
受け止めてくれるはずがないのだから。
クライスとも、ソフィアとも違う、
ホカリセイタの暖かさは、私の
冷たい心を、いつだって暖かく包んでくれているのに。
私はその暖かさに、同じ温度で報いてあげることが
できない。
私は一体、セイタに、これ以上。
なにを望んでいるのだろう―……。
ソフィアや、私たちを傷つけたことへの贖罪?
一人で勝手に行動したことへの反省?
でも、私はもう、それ以上の幸福を与えて
もらってしまった。今更、彼を糾弾するのは
恩知らずだとも思うし、したいとも思わない。
でも、セイタがしたのは許されることじゃなくて。
それはクライスの言ったことだけではなくて、
直接的な軍機違反にもつながっている。
彼の処分はまだ出ていないから、私には
どんな処分がくだされるかわからないけど、
できることなら、それが軽くあればいいと思う。
……けど、私がそれを望んでも、いいのだろうか。
迷惑をかけた人には、それ相応の謝罪をさせたいという
キモチもある。
でも……。
セイタが本当に心のない狂戦士なら、傷つけた
仲間の前で二晩も泣き明かすことなんてしないはずだ。
だいじょうぶ、彼に心はある。
――前の世界に残してきた心残りが、
まだ彼の心の中で根付いているだけなんだ。
私が理解してあげあきゃ、誰が理解してあげられるだろう。
ホカリ・セイタという、異世界人を。
「だいじょうぶ。大丈夫だよセイタ」
他の誰が何と言おうが、たとえ世界が
あなたを否定しようが、私はあなたの思いを尊重し続ける。
枯れない思いを胸に、私は目上の夜空に手を伸ばした。
もしかしたら、セイタが来たのはあの星かもしれない。
いいや、その隣の星かもしれないし、斜め上かもしれない。
でも必ずあるんだ。セイタが生を受けて、生まれ育った星が。
あっ、あの星なんかきれいなんじゃないだろうか。
青々と光立つみずみずしい一等星が―……涙を伝わせる私の頬を、
柔らかに照らし上げていた。




