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【47】薄っぺらい


――思い出した。


自分が、誰であるのかを。

自分が、どんな最後を遂げた人物であるのかを。


でも、私は英霊というわけじゃない。

聖杯を巡る争いに巻き込まれないだけ、

いい方だろう。


じゃあ、まず。


この幻想を破らなきゃね。


「……いずみん?」


涙を枯らして、

急に立ち上がった友だちを見て、

ノイリーは驚いた表情で私を見上げていた。


「ごめんノイリー……私、わかっちゃった」


「おお、そりゃよかった。で、何が分かったの?」


「目の前のあなたが――偽物だってことが」


「――ッ……」


ノイリーはそれきり黙ると、

うつむいて口を開かなくなった。


太陽の西日と鳥のさえずりが、

私たちの間を埋めてくれている。


「どうして……分かったの?」


やがて、ぼそりと呟くように

口を開いたノイリーに、胸を張って私は答えた。


「思い出したんだ。ぜんぶ。

私は高校一年生のときには、もう引きこもってたし。

っていうことは、ここは私の夢――イフの幻の世界。

こうであったらいい、こんな友だちがいたらいい。

そんな願いが実現した――薄っぺらい世界だから」


「……自分の想像が、薄っぺらいって?」


「うん。だって、想像って、あくまで夢だからさ。

現実ではたいていの事柄は想像通りに運ばなくて、

それでも夢を見続けるから、良いのであって……。

本当に叶えられちゃった世界なんて―……つまんないよ」


家での引きこもり生活は、有限の時間を

無意味に過ごすにはうってつけだった。


その間、いろんなことを夢想した。


私に恋人がいたら、私が一国の主だったら。

私に友達がいたら、私に運命の出会いがあったら。


夜寝る前、朝起きて歯を磨くとき、ゲームの

合間のローディングをする最中。


様々な空き時間を有効活用して、

私はこの世界と自分の様々な可能性を考えていた。


―……でも、現実は想像みたいに上手くいった試しが

全くと言っていいほどない。


ちょっと気になる男の子の肩を叩いて挨拶する事すら、

もどかしく。一国の主だって、クラス委員長になる事すら叶わず。

友達だって、どこかの素敵なお歌みたいに百人も作れる訳なくて。

いや、そんないらないけどさ……)


ごほん。要するに何が言いたいかっていうと。

やっぱり想像は、想像の世界であるからこそ、

輝くモノだと私は思うんだ。


異世界に転生してゴブリンの王になるっていう、

おおよそ現実とはかけ離れた体験をしたけれど、

この初心の思いは今でも忘れない。


だから、この夢が叶った世界では、

これ以上の次なる発展を望めない。



そんな居心地がいい、この薄っぺらい世界に……。

ずっと引きこもってるなんてヒロインらしくない。



きれいな鳥かごを出て、羽を伸ばさなければ。

あの大空へ向かって、何度だって羽ばたかなければ。


そうでなくては。


この世に生を受けた、意味がないではないか。


引きこもって三年。

その意味に、やっと気づけた。


「……流石です、イズミさん」


口調はがらりと変わり、ノイリーの

本来ゆるふわな雰囲気はどこへやら。


敬語を使い、上目遣いを行使し。

彼女―……誰かは、私を見上げていた。


「あなたは、私が作った幻なんだよね。

理想の友だち像。本当は、誰なの?」


「私は、『南の賢者』さまの使役精霊」


ノイリーだった『抜け殻』から羽が生え、

彼女の黒かった双眸は緑色に光っていた。


「主様のご命礼により、あなたを真に『北の魔王』の

器に足るものか判断するため、幻想を見て頂きました」


答えを聞いて、私はけっこうな勢いで嘆息した。


「また試練っぽいやつかー……。で、結果は?」


「文句なしの、合格です。契約により、『西の勇者』殿に

討伐された貴方を蘇生し、あの世界に還して差し上げます」


世界が、陽炎のように溶けてなくなりだす。


学校だった建物は粘土みたいに地盤が崩れて、

今にもなくなってしまいそうだ。


風景も、まるで精巧な絵だったように

バッタバッタとなぎ倒されていく。


崩壊していく世界のなかで不遜なのは、

果たして私たちの存在だけだった。


「あなた様は、本当にご立派でした。

私に与えられたスキル―……権能は、

《相手が望む世界を見せる》能力です。

それを、こうもここまで鮮やかに……」


「ちなみに、この幻想をかけられてるのって

私だけじゃないの? もしかして他の人も?」


「ええ。私が主から与えられた使命は、

歴史の重要人物が死に貧した場合に際し、

その価値を今一度見極め、適合なら蘇生、

不適合ならば黄泉まで送ることです」


「そっか……」


『南の賢者』とやらがどんな人物なのか

分からないが、とにかく精霊を行使して、

あの世界のバランスを保っている人物―……。

だと言うことは分かった。それに、その試験に

私は見事にパスしたというワケだ。


ならば、何の問題もないだろう。


「私の幻想は、時として人を駄目にしてしまう場合も

あります。次代の『西の勇者』様は、危ない所でした」


――次代の『西の勇者』? 誰のことだろうか?


「――お気をつけください。後々、あなた様の

強敵となることでしょう。同じ日本出身ですし」


世界が光の粒子をまとって、

一切が消えてなくなろうとしている。


完全に消滅してしまうその前に、

もう1つ聞きたいことがあった。


「ねえ、精霊さん」


「なんでしょう」


「あなた、本当の名前は何ていうの?」


精霊は、言葉につまっているようだった。

一度まばたきをして、すっと吐き出すように言った。


「名前は……ありません。試練を執行する人物に合わせ、

姿や名前を変えているので」


「へー。そうなんだ……じゃあさ」


びっと指をさして、私は言った。


「これからあなたの名前は、ノイリーね。

また私に合う時は、その名前を使って。

私、ちゃんと覚えているからさ」


にかっと笑った私を見て、

精霊も……いや、ノイリーもうっすらと

微笑んだようだった。


「承知しました。後々、あなた様は主と出会うでしょう。

南の領地……『フレドリー』にてお待ちしていますので」


「その時は」


「この名前で――もう一度話そうね。いずみん」


そうして、夢の時間は、世界は……終焉を迎えた。



「……目ぇ、覚めたか」


重いまぶたを開けると、湿った地下の匂いが

瞬間的に飛び込んできた。


その障気を証明するように私は鉄の鎖で繋がれ、

赤焦げたレンガの上にクッションもなしに

座らされていた。


「やっぱり生き返ると思ったよ。イズミちゃん」


そして、鉄格子の外側からこちらを睥睨する人物、

ユキミヤ・リョウヘイ。


「トータウスの監獄へ、ようこそ」


――私は、投獄されたようだった。



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