表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/140

【46】大きく、無謀な羽


「ふいー……食った食った」


細いお腹をぽんぽんと擦って、

ノイリーは箸を置いた。なんとか

彼女の食事ペースに追いついた私も、

同じくらいの時間帯に食べ終わることができた。


……しかし、彼女はどれだけ食べるんだ。

今、まさにデザートのプリンに手を伸ばそうとしている。


なのにそんなモデル体型ってなんだ。もはや嫌味なのか?


「……なーんか。まだ眠たそうだね。いずみん」


「んー……? そんな事ないよ。ただボーっとしちゃうだけで」


「ふむふむ……」


整った顔立ちからシワをよせて、

うんうんとおざなりに頷くノイリー。


これはあれだ。深く考え事している

時の顔ではあるが、

内心はあまり深く考えていないのだ。


でも本当に、彼女は優しい。きっと心の奥底では、今の私には

どんな治療法があるのかと必死に脳内検索をかけてくれている

ことだろう。だから、私はノイリーが食べ終わるのを待った。


プリンの頂上に聳えたチェリーが今、

彼女の口に吸い込まれる。そうして、彼女が導き出した回答は。


「よしっ。サボるか」


……それって、自分がサボりたいだけなんでは?

と、私をその口実にしているだけなのでは?


そうも思ったが、実は私もサボりたかった。


私としても、一人でサボるのはリスクが伴うし、

誰か友達が欲しかったところだ。ちょうどいい。


「そうだね。サボろっか」


満場一致で、私たちは屋上へ足を伸ばした。



「やっぱいいねー屋上は。開放感がありますな」


四方がフェンスの柵で囲まれてはいるが、

この学校の敷地内では、ここが一番空へ――開放感の

権化に近い場所だ。ノイリーが言うことにも、頷ける。


空は好きだ。

鳥が飛んで、飛行機が飛び交い、

雲がぷかぷかと浮いている場所。


これから、

たとえ世界がどんなに変わっても、

それだけは多分変わらないだろう。


空は人類が最初にたどり着いた、

地球の最果ての地なのだから。


「……んで、なんで昼寝の体制に入ってるの? ノイリー」


「だって私も眠くなっちゃったんだもん……」


「私の悩み、聞いてくれるんじゃなかったの?」


「思春期の男女は皆平等に悩んでる。いずみんの悩みなんて、

どうせ痩せたいーとか、いい出会いがないーとかでしょう?」


「私に限らず大半の女子高生はそんなことで悩んでるんだよ。

……って、そうじゃなくて。本気でモヤモヤしてるんだよ私」


「あはは。そっかそっか、ごめん。じゃあ――

一旦自分の言葉を整理することから始めようか」


私は彼女の言葉に従って、

意識の中枢に潜るように目を閉じる。


私をボーっとさせている原因は、

おそらく私が眠っている間に見た『夢』に原因がある。


もうどんな夢かも覚えていない。でも、とても大切な、

忘れてはいけない――記憶だったような気がするのだ。


必ず思い出して、今の霧がかった感情を払拭してみせる。


さあ、検索を始めよう(言ってみたかっただけ)。



「――意識っていうのはさ、知らず知らずのうちに

記憶のなかに封印されていくものでしょ? だから、

まず自分が思い出したい記憶の鎖を、少し、緩めて」


言われるがまま、私はノイリーの言葉に従った。


深く息をはく。記憶を、絞り出していくように。


――脳裏に、人の言葉がよぎった。


『まったく、貴方には困らされてばかりだ。

いい加減自立してください、引きニート』


――誰の、言葉だろうか。


……それにちょっと待て。

引きニートとはなんだ失礼な。


私はたまにこうしてズル休みすることはあれど、

まだぜんぜん――引き篭もってなんかいない。


いない……はずなのに。


どうしてこんなにも、罪悪感を感じてしまうのだろう。

どうしてこんなにも、後悔と自責の念が溢れてくるのだろう。


分からない……。やがてその無理解は、涙となって放出される。

突然と涙の軌跡を描いた私の頬を見たノイリーは、

驚いてとっさにハンカチを差し出した。


「ごめん、変だよね、私……」


「――ううん……わかるよ。私だって、

無条件に泣きたいときって、あるもん。

だから、何も聞かないから。

何も言わないから――私の胸の中で泣きなさい。

ぜーんぶ、吐き出しちゃえばいいんだからさっ」


気づけば彼女に抱き寄せられ、背中を擦られていた。

生まれたばかりの赤ん坊のように、私は泣いた。


――自分でも、意味が分からないほど泣いた。



夢の中には。


私にはもったいないほどの、楽しい記憶があった。


JKの私には辛すぎるほどの、悲しい記憶があった。


――異世界に転生して、ゴブリンロードを名乗り。

――無謀な夢を抱え、人間たちを巻きこみながら。


一歩、また一歩と、王への歩みを進めていった。


魔族にも、人族にも、色んな人がいた。


敵がいた。

勇者がいた。


部下がいた。


仲間がいた。


家臣がいた。


家族がいた。


親友が――いたのだ。


「――イルガス……っ!」


私は、無意識に誰かの名前をつぶやいていた。


それは異世界で、もっとも私に忠信を尽くしてくれた名前だ。

年が近くて、優秀で、照れ屋で、以外におっちょこちょいで。

あと、多分だけどむっつりなアイツ。


私の世界の主人公――たった一人しかいない、異世界主人公。


私がヒロインなら、きっと彼はそれだったはずだ。


――ああ、こんな居心地のいい場所で怠けていてはダメだ。


彼と、まだ話し足りないことがある。

教えてもらっていない話が沢山ある。


イルガス。また私に、勉強を教えてほしい。

また私と一緒に、トータウスでデートしてほしい。

あなたと一緒に、――王への道を、共に歩みたい。


――涙は枯れた。


さあ進もう。もう後悔したくないのならば。


鳥かごから抜け出して、あの空を目指そう。


自由な空へ。

地球の最果ての地へと、

この大きい無謀な羽を、めいっぱい伸ばしてみよう。


そこにはきっと――引き篭もっていた部屋なんかよりも、

きっと広く居心地のいい世界が広がっているはずだから。



――ゴブリンロード、タドコロ・イズミは死なない。




――何度だって、私は想像の世界で蘇るのだ。




私の青春は幼稚園で終わったからなあ……。

学校の屋上なんてふつうに立ち入り禁止だし、

やけに電脳化が進んでて居心地が悪いし……。

でもこんな親友がいたら、楽しいのかもしれませんねえw


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ