【40】最近私の出番少なくないですか? 活躍させてもらっていいですか?②
怒り、戸惑い、混乱―……。
昔から、この空気が嫌いだ。
この空気が流れるときは、決まって嫌なことが起こる前触れだから。
例えば、滅多になかったけど、親子喧嘩とか学級崩壊とかが
起こる前の、大切なものを瓦解させるような冷や汗を誘う
陰湿な空気。吸っているだけで息が詰まるような、
そんな経験が何回もあった。
――だから私は、世界に私だけしか存在しない
無菌室の部屋に引きこもってしまったのだけれど。
私はその空気を、いつしか『負の感情』と名付けていた。
それが流れるときは、決まってとびきり嫌なことが起こる。
しかもそれは自分の頑張り如何ではどうにもならないような
できごとばかりで、それと合わせても本当に嫌になってしまう。
だから、私が異世界で目覚めた権能が、これだったのかもしれない。
《想像の権化》
どうしたって対抗できない、
形のない不可逆な『空気』を
可逆できる『事象』へと持っていく。
つまり、二次元で起こる出来事を三次元へと
リンクさせて具現化させる……って言い方が
正しいのかもしれない。
自分でも、よく理解できないときがあるけれど、
きっと私は誰よりも自分の力の本質をわかってる。
――これはきっと、転生する前、自分が「嫌だ」と
言って逃げてきた事柄を克服するためにあるのだと。
それさえ分かれば、自分の力を振るうのになんの
恐れも恐縮も要らない。
自分の個性を、ただ存分に発揮するだけだ。
――さあ、王の力を見せようか。
◇
王国兵士たちは、考えさせられる暇もなく空へ打ち上げられた。
彼らに大空を見せたのは、漆黒の翼を動かしながら
地面に転がる兵士たちを睥睨する肥大化した地龍と、
それにドラゴンライダーのごとく跨る一人の王女。
しかし、さすがは王国に仕える兵士や魔術師。
全員落下死はせず、負傷のないまま体制を立て直す。
「ふーん。やっぱり、これだけじゃダメかー……」
「ガーが~!」
立派な黒竜となって興奮したガーちゃんの鳴き声は、
それだけで飛行機のエンジン音にも相当する騒音だ。
しかし、王女は慣れているのか、何も同様せず。
――悪魔のような微笑みで、こう言うのだ。
「どうどう。待っててねガーちゃん。
――すぐに、ご飯ができるからね?」
王国兵士全員の背筋に、泡が弾けた。
怒りは恐怖に、恐怖は焦燥へと変換されていく。
「おっ……のれェ! 全員、術式展開! 焼き殺せ!」
もはや焦燥に青くなった無精髭の隊長の掛け声で、
周りの者たちも次々に詠唱を唱えはじめ、地面に
燐光が描かれる。
やがて光は刃に、紋様は輪廻を捻じ曲げる方程式に。
魔法が、放たれる。
「わー。すごーい火の玉だ〜(棒)」
それさっきも食らったよ……落胆を隠せない王女だった。
でもまあ、威力はさっきより上がっているように見える。
さすがに全く同じ攻撃を打ってきた時にはため息の一つでも
ついてやろうかと思ったが、それはぐっと喉の奥に押し込んだ。
「でもさー……狙いが単調なんじゃない?」
すべての火の玉は、イズミに向かって放たれている。
王女はそれがお気に召さないご様子だ。
「将を欲するならまず龍を打たないと…――わかってないなぁ」
さあ、ゴブリン専用の混紡の登場である。
なぜか、武器のストックは混紡しかない。
最初はイズミも扱いに困ったが、今では
モーニングスターの容量で使いこなしている。
迫りくる火球を跳ね返す、打ち返す、投げ返す!
「イズミちゃんドラフト指名来ちゃうんじゃないの、これ?」
蹂躙される兵士たち、消される魔法陣。
全てがゴブリンの女王によって無へと
還されていく。
「(でも……まだだ)」
まだ、『負の本流』は消えない。
恐怖と焦燥が、煮えたぎる負の感情が。
息をするのによくない空気を作り出している。
――怒りや憎悪は、想像力豊かな妄想の妨げとなる。
暗い意志やあやふやな思考。そんなぐちゃぐちゃな頭で、
気持ちのよいストーリーが描けるだろうか。否、描けない。
まあ要するに『負の感情』は、私の想像の妨げになるのだ。
……――だから、それを利用する。
それを利用して、息苦しい空気を――打ち砕け。
キズル村のときのように、『負の本流』を、
克服するために、「嫌」を利用してやろう。
「嫌」を「嫌」のままで終わらせるな。
克服しろ。それが私の――努めなのだ。
今こそ進化のとき。
曖昧だった《スキル》を、今までの自分を。
超えて、一歩未来の自分へと導いてやろう。
『負の感情』を、圧倒的な恐怖で塗り替えて。
恐怖さえもなくすほどに、怯えさせて、
強引に空気を清浄化する。
なぜなら私はゴブリンロード…――悪逆の王だからだ。
もう自分さえよければ、それでよかった。
力に酔って、だんだんとダークになっていくヒロイン……。
そろそろ闘争編も終わります、どうぞお付き合いください・ω・




