【39】最近私の出番少なくないですか? 活躍させてもらっていいですか?①
……ひーまーだ。
暇だ暇だ暇だひまだヒマナッツ。
というか、出番がないのだ。
おかしくない? 一応主人公だよ、私。
いくら元ニートでも、この間は遠征とか行ってきたんだよ。
その頑張りを、ここに来て台無しにするような放置プレイ。
一体作者は何を考えているのだろうか。
帰省から帰ってきたんなら早く出番を寄越せボケェ。
「……うん?」
なんて、ベッドでゴロゴロしながら悪態をついていると、
どこからともなく足音がするじゃないか。
でも、ゲイブやマッティアを含める衛兵は
全員外のお邪魔虫とやらの接待に出向いている。
「レイたちが帰ってきたのかな……?」
『殿下!』
「あれ、レイ? これって思念通話だよね。そこに居ないの?」
『お気をつけください。最前線にて、強力な先遣部隊が押し寄せた
模様です。ブラッドと、彼率いる部隊が全滅したと、ジヲォンが!』
……うっそーん。
ブラッドがやられた? なんじゃそりゃ。
異世界でのヒエラルキーがひっくり返るぞ。
『とにかく、強力な魔術師がそちらに向かっています。
万が一に備えて、十分にお気をつけください』
レイの言葉を裏付けるように―……足音はさらに
大きく、そして多くなっていく。
『ブラッドはこちらで治療し、イルガスが城に向かっています。
それまでどうか、あまり行動を起こさず静かに待機を―……』
「――いや、もう遅いっぽい」
視線をベッドの周囲に向けると、
カーテンの影がなぜか濃くなっている。
しかもユラユラと、確かな人間の形を
帯びて、複数に分裂し、隊を形成する
ように私の周りを取り囲んで行った。
「半透明魔術師だね」
私が正体を看破すると、影は観念したように
黒いフードを脱いで姿を見せた。
全員が全員、鋭い目つきをした猛者だと分かった。
彼らから発せられる魔力値が、全員がレイに匹敵
する魔力回廊を秘めている。
「北の魔王……タドコロ・イズミだな?」
その中の一人の無精髭を生やした男が
私に問けけてきた。
「そうだよー。私こそ新しい北の魔王、
田所泉魅。ここ、私の城なんだけどさー……――なに土足で入ってんの?」
鋭い視線を鏡に映すように睨み返すと、男は忌々しげに舌打ちすると、
素早い仕草で鞘からワンドを抜いた。お付きの魔術士たちも、それに習う。
「今日こそは、魔族に奪われし北の領土を奪還する。
その為に我々はここに居る。必ず貴様を討ち滅ぼし、
東西南北を人類のみで統治する悲願! 今日ここで、
果たして見せよう」
「あららー……。ずいぶん嫌われてるのね、魔族って」
「当然だ。魔族は太古から人類を殺し、略奪し、財産や
資源を葬ることを繰り返してきた。だが、貴様の先代が
和平を結んだばかりに……人類は魔族を容易には断罪
できなくなった、が」
「代が変わったら、条約は無効……。しかも、
政権が変わったばかりのポンコツ王女なんて、
先代に比べたらかんたんに殺せる……ってことね」
「そうだ。我々人類は、太古から定められた契約に
従って、敵討ちをするまで――…悪く思うなよ小娘」
そう言うと男は、その男の周囲の者たちは、
私に向かってワンドを振りかざし、術式を
展開して詠唱を唱え始めた。
「……はあ」
契約だとか、敵討ちとか、付き合ってらんないなー。
だって、そんなの私には関係ないじゃん。
そんなの全部先代が、もしくは先代の先代が
やったことであって、当代の私には、何ら関係が
ない。なのにその責任を全部私が被るのは理不尽だ。
私は私らしく、楽しくゴブリンロードをやっている。
それでいいじゃないか。
他方から恨まれる筋合いなんてない。
私は私らしくいればいい。
私の思う、悪の王様のままで――いい。
「さらばだ、ゴブリンの王女よ」
俯いて隙を見せた私に、無数の火花や
燐光が放たれた。
視界を殺す光の矢、素肌を犯す焦土の炎。
城には一切の危害を加えず、その災厄は
私のみに降りかかる。
――しかぁし、そんなの私にはかんけーないっ。
「……なんだと?」
微動だにせず無傷な私を見て、無精髭の男は
混乱したようにそうつぶやいていた。
だってそうでしょう?
私、これでも天下のレベルカンストゴブリンよ?
――あんたら雑魚の攻撃で、ダメージを受けるはずないでしょ。
「そんな、バカな……!」
「我々王国兵士の総合火力でも、
傷ひとつ付けられないなんて!」
「ハッタリだ! 正体を見せろ、化物め!」
――怒り、混乱、戸惑い。
様々な『負の感情』が、城の中に溢れていた。
――ああ、キズル村の時と一緒だ。
誰もが疑心暗鬼に陥り、やがて自分
さえも信じられなくなり、他人を傷つける
しか自分を肯定する判断材料がなくなってしまう。
すると他人を祝福できなくなり、慮れなくなって、
そして飢餓や、殺しが生まれる――『負の感情』。
やーな雰囲気だな……よし、決めたっ。
「……ねえ、アンタらも《スキル》って権能、
持ってるでしょ? レベルに応じて、上位の
ものになっていくっていう、アレ」
初めて私からの問いかけを受けて、
魔術師たちはひどく混乱しているようだった。
「レベルカンストの私が《スキル》を発動したら
どうなるか―……気にならない?」
ぞわり―……周囲の鳥肌がいっせいに弾けるのが肌で分かった。
よしよし……そうでないと見せるかいがないからね。
「おいで、ガーちゃん」
私が呼ぶと、ベッドに一羽の地竜が舞い込んだ。
小さく可愛い羽を生やし、体毛に覆われた龍の子だ。
この間……キズル村に戻ったとき、なぜか牛や鳥とともに
繁殖していた地竜の一匹を、ペットとして飼っているのだ。
なぜって? 可愛かったから♡
「ガーガ〜」
名付けの理由は、こうしてよく泣くから。
そして泣く大抵の理由は――お腹が減っているからだ。
「ねえガーちゃん。お腹減ったねえ」
「ガーガ〜」
「よーし、いい子いい子…――今、ご飯の用意するからね?」
◇
「よーし、いい子いい子…―今、ご飯の用意するからね?」
王国兵士の長である男は、王女から発せられる
理不尽にも感じられる量の殺気や悪寒に、
もはや恐怖を通り越して足が竦んでいた。
ありえない…――何なんだ、この威圧感は。
まるで彼女の背中から堕天使の羽が生えているように、
恐ろしく強大な禍々しいオーラが、無尽蔵に放たれている。
尋常じゃない黒い霧が、王女の眼光を浮き彫りにしている。
それが王女を、そして―……彼女が撫でる地龍を包んでいく。
「見せてあげる。レベルカンストゴブリンの真価―……。
その《スキル》の威力を」
黒い玉が出来上がると、城は完全に飲み込まれた。
それは王国兵士の意識さえ、空気さえ、圧縮していくように。
「《想像の権化!》」
――地龍が進化する。
羽毛だった羽は強靭な骨を手に入れ黒い左翼と右翼に分かれ、
くるみを噛み砕くほどの歯は、人を噛み殺せるほどに発達し、
ヌイグルミのように小さかった体は、嘘のように肥大化した。
それは瞬く間に城を壊し――兵士たちを大空へと巻き上げた。
「これが私の進化した《スキル》だよ。堪能してくれたかな?
……さあ、残虐王の眠りを妨げた罪を、償ってもらおうか」
長かった……書くのに一時間かかった^^;




