【37】西の天才VS北の最凶
誠太・ソフィアの戦線離脱から十分ほど前。
ゴブリン城塞付近、通用門の前にて。
「――おいおい……ただの餓鬼じゃねえか」
迷いこんだ二匹の羽虫。
単身で突っ込んでくるからには相当の手練を期待していたゲイブだが。
「期待はずれだ……とっとと済ませて、女神の寝顔を拝みてえ」
背中の鞘にしまっていた棍棒をすっと引き抜いて、
臨戦態勢をとるゲイブ。右にマッティアも並んだ。
「いいかテメエえら」
マッティアと歩兵に、ゲイブが呼びかける。
「やつらが視界に入ったら、一気にたたみかけろ」
――今、奴らを視認できているのは視野のいいゲイブのみだ。
彼らが馬から離れ、戦闘の動きを見せたら一瞬でケリをつける。
「距離四百……三百……」
そろそろ、基本的に視野の悪いゴブリン達にも敵が見えるころだ。
部隊全体に緊張感が走り、野獣のような唸り声が辺りに響き渡る。
「二百……いまっ――」
ゲイブの判断は遅かった。
突撃を命令する刹那、
突如光の刃が孤を描き、部隊を鮮血で染め上げた。
百の歩兵と、マッティアが、声をあげる暇もなく切り裂かれたのだ。
それはまるで、光が見せた奇跡のようだった。
曇天から指す後光が突然人を襲う熱線となり、
己を照らす光や空気が見えない斬撃となって、
宙に浮いた兵を片っ端から切り裂いていく。
見たことがある。
これは魔法――人間のみが使える、ふざけたチート兵器だ。
「――集団で二人を襲おうとは、野蛮な事だな。ゴブリン」
とっさの判断で重症を避けたゲイブは、声がした方向を見やる。
そこには馬にまたがり、燐光をまとう剣を掲げた少年がいた。
前髪が長く、そこから覗く瞳は万物を見下すような不遜な色に満ちている。
そこから感じるのは絶対的な自信、それに付随する紛れもない実力の証だ。
傍らにいる銀髪のきれいな少女を守るようにして剣を掲げる少年は、
人間嫌いのゲイブにも、さながら円卓の騎士のようにも見えた。
「学徒志願兵団所属、クライス二等兵。名を名乗れ、蛮族の長」
魔法の奇襲をしのぎきったゲイブに対し、悪態をつきながらも
敬意を見せるように馬を降り、正面から彼を見据えるクライス。
――ゲイブとて、己に対し絶対の強さを疑わない自信家である。
ゴブリンロードの甥として生まれ、現ロード直属配下の男。
己の血筋に、己のレベルがもたらす《スキル》に、
何よりの自信と自負を持つ。
その男が、目の前で目を向ける男に対し、
『恐怖』という最大の敬意を覚えていた。
「(……コイツぁ……強えェ……!)」
ぶわっと、肌が泡をたててはじけ飛んだ。
事実、今まで勝負を挑んでは口先だけの男などいくらでも見てきたのだ。
ゲイブの血筋の良さに嫉妬した哀れな男たちを、
幼少期はばったばったと薙ぎ倒していたものだ。
だが、この男は違う。
絶対の自信の中に、揺るがない確かな強さと。
そして、己に対する隔絶的な誇りを持っていた。
――いいな。
イズミの姉貴にさえ匹敵する、この信念。
試させてもらおうじゃねえか。
「俺様の名はァ、ゲイブ。ゲイブ・ザッハーク。
正当の王――……ロードの血筋を次ぐモンだ!」
さぁ行くぜチート兵器。
勝つのは俺様の信念か、テメェの矜持か。
勝負だ魔法使い!




