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【05】変わりたい


 ――ゴブリン城塞周辺、貧民街近くの狩場にて。


「……なんだ、これは」


オレが見た光景は、想像を絶するものだった。


生える草木には鮮血が滴り、それを裏付けするようにモンスターの影が一匹も見当たらない。

どう見ても狩りが終わった後だ。それも、在来のモンスター全てを討伐してしまったらしい。


「肉片の一つも落ちていない……。異様だぞ」


戦士でもなければ阿鼻叫喚な現場だったが、オレは屈しない。


落ち着いてあたりを見渡す。……そして。


「――動くな」


わずかな動きを見せた茂みに向かって矢を投擲する。

確かな手応えがあった。ビンゴ。


「姿を見せろ。命までは取らん」


ドスの聞かせた声音で脅しをかけると、茂みに隠れた者たちはそうそうに姿を表した。

二人組の男だった。


「……お主ら、この山村の付近の者ではないな? どこの者だ」


草原と同じ鮮血を浴びた布袋がいくつも、その肩にかけられている。


……あからさまに怪しい。


「――ッ! 待て!」


すると、一瞬の隙きを縫って彼らは逃げていった。

なんて素早い、人間の動きではなかった。


……しかし、一人はオレの矢が当たって手負いの身。

そうそう遠くまで逃げられることはないだろう。


「……追ってみるか」


奴らは足跡が大きい、追跡は容易だった。


――この狩場を荒らしているのは、奴らで間違いない。

何者なのか、この目で確かめてやる。



「――食料問題?」


私が玉座に呼び戻されると、そうそうにゴブリン幹部会議が始まった。

その議題は、私がつぶやいた通りである。


「――はい。ですが、負の方向へではありません。城内の備蓄の総量はイズミ皇女殿下の即位以来、むしろ昇傾向にあります」


「はっはっはっ! さすが、先代が認めただけの女子おなごだ。我らの食料問題を、こうも簡単に解決してしまうとは!」


淡々とデータを読み上げる参謀のイルガスと、結果だけを見て豪快に笑う脳筋ジヲォン。


「ちょ、ちょっと待ってよ。じゃあ、どこに問題があるの?」


「――皇女殿下の、即位してからの行動が問題なのであります」


当然の疑問をぶつける私に、応えたのは第二の参謀のレイだった。


「イズミ皇女殿下は、城内の全ての者に『人間化』の薬をお飲ませになられましたね?」

「う、うん。そうだけど……」


「その結果、城外での狩りの効率が飛躍的に上がりました」


「ですな。狩りに留まらず、我々は基本群れになり、下界の人間の目につかないように行動しなければなりません。でなければ、狩る対象がウサギや羊のモンスターから我々に変わってしまいますからな! ガハハ!」


「笑い事ではありませんが……。ジヲォンの言うとおり、私たちの同士が人間化することにより、人間界の領域に侵入するのが容易になりました。しかし、そこが今回の難点なのです」


レイが一旦言葉を区切ると、その続きをイルガスが引き継いだ。


「僕たちの活動領域は大幅に拡大した……。その結果――人間界の資源を、取りすぎてしまったのです」


「え……っと」


「つまり、どういう事だ? イルガス、レイ。我と皇女殿下に分かるように説明しろ」


「……ジヲォン。皇女殿下はともかく、お前はもっと知識を持て。仮にも幹部だろ」


しゅん、といかつい顔面を落ち込ませるジヲォン。

なんか、かわいそう。


「人間界の資源を取りすぎて、その分だけ奴らの目が険しくなるのは……当然だよな?」

「……そうなのか?」


「そうなんだよ、このおバカ! ……要するに、僕たちは人間界に侵食し過ぎた。僕たちの備蓄が増えれば増えるほど、奴らの備蓄は底をつく。狩りが上手くいかないことに疑問を持った山村の者たちが決起して、この城を嗅ぎつけて落としにくるかもしれないんだよ!」


そこで、私は初めて自分がしてしまったことの重大さに気づいた。

この城が、私のせいで、危険に晒されている――?


その事実に気づいた、ゴブリンロードの私はというと……。


「どっ、どどどっどうしよう! 私のせいだ、わあ〜!」


めっちゃ慌てていた。


王の威厳? なにそれ美味しいの?


「ははは! 皇女殿下、随分な取り乱しようですなあ!」

「……皇女殿下。自分で話を振っておいてなんですが、もう少し落ち着いてください」

「対処の最高決定権はあなた様にあります。即位ばかりで酷なようですが、ご決断を」


幹部の三人は、私に容赦のない視線を向けてくる。


ああ、そっか。これが――『責任』を取るってことか……。


「……わかった」


責任は、重圧は怖い。



でも、これは必ず答えなければいけないモノだ。



役目を果たせ。少しでも、異世界に来て変わりたいと思うのならば。



「――三人はさ、内心私のこと……信用してないよね?」


無言の肯定。分かっていたことだ。


今の自分にあるのは、レベルカンスト99に対する畏怖のみ。

そこに強制力はあれど、信頼性はない。


だから、まずはその価値観を変える。


――部下の信用を勝ち取る。


そうでなければ、落ち着いてダラダラすることもできない。

このゴブリン城塞は第二の我が家だ。そこが危機とあらば、退けてみせよう。その脅威を。


――ここが私のスタートライン。異世界に来て、初めての試練だ。


「ジヲォン、城の皆を集めて。すっごく、大事な話があるって」


さあ、お仕事だ。

職業は王様、逃げるという選択肢はもはや無し。


働きたくないでござるとか、言ってられないぜまったくよお!



初評価ありがとうございます!

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