【34】激突③
穂刈とブラッドが死闘をくり広げているなか、イズミはというと……。
「ふぁー……」
よく寝たっ。
もう、ほんとあれだね。
優秀な部下を持つと、居眠りしてても誰にも怒られない。
だって私はゴブリンロード。言ってしまえば悪の王さま。
ちょっとくらい怠惰な方がちょーどいいってね! いえーい。
「やっと起きたか眠り姫」
むっ、私の寝室なのに男の声がするぞ?
夜這いか? それとも王子様か?
……ああ、どっちでもなかった。ゲイブじゃん。つまんねー。
「虫が数匹、迷いこんだらしい。ったく、見張りの連中は何やってんだか……」
「え、敵? もうそこまで来てるの? イルガスたちは?」
「いっぺんに幾つも聞くんじゃねえよ……。
まあ、あれだ。ジヲォン爺さんが抗敵してやられるとは思えねえし、
あいつらの心配は要らねえ。とにかく、迷い込んだやつらを歓迎してくるぜ。
もちろん、俺なりのやり方でな―……! 行くぞマッティア。歩兵も連れてく」
ずかずかと寝室を出て行くゲイブ。しかし、マッティアは動かない。
「……俺は、お前ら純血の人間が嫌いだ」
彼はハーフゴブリンだ。
昔、人間である母に痛い目を見させられたらしい。
「……悪いけど、私は元純血、だよ」
本物のゴブリンになった試しだってもちろんある。
今だって、人間化のくすりの効果が持続していなければ立派なゴブリンだ。
「はっ、どっちでもいい。人間が嫌いなことに変わりはない。
……だけど、アンタは違うと思った。アンタが、ここに来て、
築き上げてきた村や、部下の信頼……あんなの見ちまったら、
信用するしかなくなってくるじゃねえか……ずるいよ、殿下」
悔しげに歯噛みしながらも、その瞳は一直線に私を捉えていた。
「俺は、人間が嫌いだ。でも、アンタだけは守ってやる。それだけだ」
そう言い残して、彼は出て行こうとした。私は、その背中に向かって、
「マッティア。それに、ゲイブも」
2人が揃って私に振り向く。
「――信じてるよ。だから、あなた達も私を信じて。
ぜったいに、くれた信頼だけは、裏切らないから」
「……けっ。だと言いけどな」
さり際に見せたゲイブの表情は、少しだけ笑って見えた。
◇
僕は……なにを……。
僕は目が覚めると、たくさんの血を流した人に囲まれていた。
自分の掲げている剣にも、同じ色の血が幾重にも塗り重ねられている。
これを……僕がやった……のか?
「――うっ……」
込み上がってきた吐き気に耐えきることができず、
僕はそのまま地に伏して、胃の中身をぶちまけた。
そして、目が合ってしまった。
頭から血を流して倒れる、黒い長髪の剣士と――。
「う、あああああああああ!?」
パニックに陥った脳は、そのまま叫び続けることを推奨した。
さもなくば、自分が抱える深淵に飲まれてしまいそうだった。
誰も立っている人なんていない、
血だらけの草原で、僕1人。
これを全部僕が、僕が、僕が――なんてことを……!
「――セイタさんっ」
自意識が崩壊していきそうになるなか、
そんな僕を呼び止めてくれる声がした。
「……ソフィア――!」




