【33】激突②
「――して、イルガス。道中の殿下の様子はどうだったのだ?」
同日同時刻――ブラッドが繰り広げる死闘を知るはずもない幹部たちは、
大きな机を3人で囲んで、近況報告――と称した雑談を盛り上がらせていた。
ジヲォンは肘をつきながら、ゆるりとしていたイルガスに問いかける。
「総じて言えば、まあ……あれだ。ちょっと大人な子供と言ったところか」
「その心は?」
「まず、補習をしようとすると少なからず駄々をこねる。
目新しい物があればすぐに飛びつき、人の話を聞かない」
「人間らしくていいじゃない。私は、殿下のそういう所も好きよ」
と、苦笑いをしながらレイ。
「しかし、彼女は我らの王――後には『北の魔王』として、
大陸全土の支配権すら持とうとしておられるお方だ……。
このまま、大人にならずしていいはずがない」
「確かに、なあ……。
こう何か、心機一転させるような出来事が、殿下にもあればよいのだが……」
「ジヲォン。あんたはその前に、自分の古希について考えたらどうなのかしら?」
「バカを言え、レイ。殿下が高みを目指す限り、我はそばに付き従うと決めたのだ」
「ふふっ。いい家臣だこと。殿下も幸せね。こんな忠誠心の溢れる家臣に囲まれて」
「自分で言うか、レイ」
苦笑しながらコーヒーを口元に運ぶイルガス。
「あら、私のことなんて言ってないじゃない。
それに、今の言葉は貴方に向けられた言葉よ、イルガス」
「僕だと?」
「ええ。あなた、トータウスから帰ってきてから、
殿下の世話焼き度がかくだんに上がってるわよ」
「そうか……?」
身に覚えがなかった。
イルガスは遠征時も今まで通り、
そして、もちろんこれまでも、不変の忠誠心を捧げてきた。
それが無になることも、これ以上の忠誠を捧げる必要もないと思っている。
だとしたら、レイは、一体何を勘違いしているというのだろうか。
「なんというか……尽くす質が違うのよ。私たちと、イルガスは」
「それこそバカを言え。僕は忠誠心に優劣があると思いたくない」
話は平行線をたどり、その伏線に待ったを入れたのは、
以外にも最年長である、無精ヒゲを携えたジヲォンだ。
「ふふん……我には分かるぞ、イルガスよ」
いかにも悟ったようなしたり顔で、言った。
「――お前、殿下に恋をしているのではないか?」
◇
「さあ――見えてきたぞ」
場所は変わり、同時刻。
戦場を駆ける若人たちがいた。
その数、たった二騎。
二頭分の手綱を引いて先導する少年と、
その後ろに迷いを抱えながらも必至についていく少女。
「ゴブリン城塞、敵の本丸だ」
――先遣隊であるクライスとエマは、
泉魅の居るすぐそこまで迫っていた。




