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【32】激突①


「何だ……これは……」


ブラッドが敵がいると目された地点へ行くと、先見部隊が全滅していた。


縦横無尽に転がる部下たち、その中には血を流しうめいている者もいた。


――生きている。


「おい!」


その中のひとりにブラッドは声をかけた。

倒れている体をゆり起こし、是が非でも息をすることを強制した。


「何があった! 意識があるうちに手短に説明しろ!」


「……ブラッド……さま……」


腕章持ちのゴブリンは血の足跡が描かれた草原を指差して、言った。


狂戦士バーサーカーです……! やつは、人間じゃ、ありません……!」



「あああああああ!」


穂刈誠太は、必至に剣を振るっていた。

それが誰のためなのかも、何の目的のためなのかも釈然としないまま。


ただ「戦え」と本能がうなるままに、血が何層にも塗られた剣を振るい続ける。

その様はまさしく正気を失った狂戦士、バーサーカーのそれだった。


「セイタ、セイタ! どこに行くの!」


その後ろから馬でついてくるのは、唯一彼を止めれる可能性のある少女、エマだった。

しかし彼女の呼びかけも虚しく、誠太は人間とは思えない速さで敵をなぎ倒していく。


「下がれエマ! 僕一人で十分だ!」

「どうしちゃったのセイタ!? 勝手に軍から逃げ出して、一人で敵陣地に踏み込んで!」


「これが僕のやりたいことなんだよ……。待ってろ如月!」


その瞳に、もはやエマは映っていない。

前の世界に失った誰かに、取り憑かれているようだった。


「止まれ!」


進撃する狂戦士、その剣先を捉えたのは、一人の人間の男だった。


「我が名はブラッドフォード! この先はイズミ皇女殿下の御膳、

貴様のような野良犬に、そうそう通してくれる訳には行かぬ!」


「見ろ、エマ! 敵の本陣はすぐ近くだ!

ここで一足早く、戦争を終わらせるんだ!」


戦う大義名分を手に入れたセイタの行動は早かった。


剣は迷うことなくブラッドに刺突を見舞い、一瞬で火花を散らす。


――しかし、混乱していた彼は。

――その名前の聞き覚えに、気づくことができなかった。


「ぐっ……!」


同じ人間とは思えない衝撃に後ずさるブラッド。


しかし、ここで引けば、本陣は壊滅するだろう。

ジヲォンがいるとは言え、ここで負けては人間の名折れ。

ゴブリンに全てを任せるほど、人間だって落ちぶれちゃいない。


「う、おおおおおおおお!」


気迫と叫びで何とか押しかえすブラッド。


――泉魅が不在のなか、ジヲォンと鍛えたこの剣。

そう安々と、敗れるものではない!


「ちっ……異世界人ごときが、僕の邪魔を……!

僕と如月の恋路を……邪魔するなぁ!」


目の前で、仮にも好意を寄せている男が死闘を繰り広げる様を。

銀髪の美少女――エマはただ一人で、見つめることしかできなかった。


「(セイタ……どうしちゃったの?)」


目の前が真っ白になったような錯覚に襲われる。

落馬するのだけはなんとかこらえたが――

こんな状態で、抗敵できるはずがなかった。


「キズル以外の人間はー……死ねぇ!」


まっすぐに突き出される刃。

それは果たして人に扮したゴブリンか、ただの人間か。


腕章をつけていなければ分かるはずがない――そう。


エマが気づくころには、その者の腕はなかった。

そうなってしまえば、もう腕章を持っていようがいまいが関係ない。


「言っただろ――ユキミヤは、この俺が守ってやると」


「クライス―……!」


エマに突き出された剣は、腕ごと、腕章ごとクライスに叩き切られた。


鮮血の花が噴水のようにその者の腕から放出される。

鈍痛にあえぐ男を、クライスは容赦なくトドメを指した。


「やれやれ……心配になって来てみれば、

本当に奴はおかしくなってしまったのか?」


「わかんない……わかんないよ……!」


「戦場で泣くなユキミヤ……それより」


おそらく敵の主力と思われる人物とセイタが交戦しているのを

クライスは眼下に捉えて、エマの手綱を握りしめて同時に走った。


「セイタの言うとおりだ。ここで先に戦争を終わらせる。

そうすれば、規定違反が功績に変わる保証もなくはない」


「待って、セイタは!?」


「知るかあんな狂人!

いいかユキミヤ、今の奴は俺たちの知るホカリ・セイタじゃない!

怨念か、堕ちた精霊に取り憑かれた、おぞましい何かなんだよ!」


「堕ちた……せい、れい……」


手綱をひっぱられるがまま、エマは敵の本丸へと連れ出されていった。


「やめて……」


そんななか、風に遮られる小さな囁きが、


「セイタを……連れてかないでぇ……!」


彼に届くことは、なかった。





久しぶりの投稿になります・ω・

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