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【S14】激突前夜


――セイタが目を覚ますと、彼は泣いていた。


私の膝まくらの上で、彼が流した涙がランプに照らされて輝いている。

開いた瞼の先にあった瞳は、遥か遠くを眺めているように感じた。


「あっ、セイタ。目が覚め――」

「エマ」

「え?」


「ちょっと行ってくる」


そう言うとセイタは、宿泊テントの扉を開き外に出てしまった。


「まっ、待ってセイタ。どこに行くの? どうして倒れたかも分からないのに――」


「何だ真夜中に騒々しい……! ん、ホカリ。目が覚めたか。そんな急いでどこに」


「クライスくん。僕は前線に行く、来たければついてこい」


「だから俺の名前はクライ……なんだって?」


クライスが驚いたのは初めてまともに自分の名前を呼んだことか、

それとも「前線に出る」と彼らしからぬ発言にか……恐らく後者だ。


「お前いま、なんと言った?」


「ぐずぐずするな、置いて行くよ?」


「待て。そりゃ確かに行きたいが、どうしたんだホカリ!?

さっきまで前線に赴かないことを喜んでいたじゃないか!?」


「どうしたんですかぁー……って、セイタさん!?」


セイタの豹変ぶりに、あくびをしながら外に出てきたソフィアも驚いていた。


その間にも彼はちゃくちゃくと装備を整え、戦地へ赴く準備を勧めていた。

剣を腰に下げ、ポーションを持ち、体型に合った鎧を着込んでいる。


機械的に装備を整える彼の瞳は、何だか呪われているように見えた。


「……が、待ってるんだよ」


セイタが小さくつぶやいた。


「は?」


ついて行くべきか止めるべきか、

悩み焦ったイルガスが問い返した。


「如月が……僕の恋人が待ってるんだ。

あの山脈の向こうにきっと、彼女がいるんだ―……!」


――ズキン。


とたんに、心臓が針でさされたような痛みが全身に走った。


どうして? 

分からない。


でも、セイタが大粒の涙をこぼしながら北を睨んでいるのを見たら。

なんだか心がザラついて、痛みで頭がいっぱいになってしまった。


セイタはまるで獣のように、憑かれた瞳をひたすら彼方に傾けていた。


「……錯乱者が……! 付き合ってられん!」


誰よりも命を軽視していたクライスが後方待機を決め、

誰よりも命を尊んでいたセイタが前線直行を望んだ。


おかしい……何かが、何かが狂っていた。


「……腰抜けめ」


寒気がするほど冷たい声音で、セイタはそう言った。

そして振り向くことなく馬の手綱をとって――


「まって、セイタ――」


「今行くよ、如月」


そして彼は星が降る夜空の山脈を駆けて行った。


その瞳は何を映しているのか、今の私には分からなかった。




やっと次の回で人間とゴブリンが激突します……長かった(T_T)

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