【S11】キサラギ
「うう……緊張します」
――ソフィアは寒さに身を縮めて、必至に部隊について行った。
闇夜の中を、魔法でつけた灯籠の明かりだけを頼りに進んでいく。
なぜこんな夜中に行軍する必要があるんだろうか……。
上の奴らの思考がまるきり江戸時代のそれだ。
まあ生憎と、僕らは武士じゃなく魔道士だが。
「ひやっ――」
「危ないっ」
体制を崩したソフィアの腕をぐっと掴む。
ギリギリ間に合ったが……下は険しい山場だ。
ここはもう北の領地だし、はぐれたらどうなるか分からない。
「あ……ありがとうございます、セイタさん」
「どういたしまして。エマもクライス君も、警戒して歩こう」
「ええ」
「言われなくても」
足元が疎かになっているというのもあるが、何せこの足場だ。
多少の披露やすり傷はエマの『回復特化』の魔法で治してもらえるが、
彼女の魔力量にも限界があるし、戦闘まで極力体力を消費したくない。
「――よし、学徒はここで止まれ」
前衛を務める軍人が、馬を止めて僕たちに呼びかけた。
「今日はここで野宿する。明日には北の城壁まで到達する予定だ。
テントを建てて、各自で寝てくれ。飯は明日の朝6時に配給する。
今日はご苦労だった」
日本と変わらない敬礼のポーズをとって、軍人が去ろうとする。
その背に問いかける一人の男が……。
「一つ質問よろしいですか?」
もちろん僕じゃない、クライスだ。
「なんだ?」
「今回の俺たちの任務は、あくまで威力偵察……。
明日の戦闘においても、前線には出ずに後方待機。
そのような理解でよろしいのですね?」
「ああ。情けない限りだが今は猫の手も借りたいくらいなんだ。
安心してくれ、未来ある若者を戦場に借り出したりはしないさ。
威力偵察部隊には、魔法を使える者が多い君たちが向いてる。
ただ、それだけさ。――君たちが危険を侵す必要はない」
「……そうですか」
なぜか僕には、クライスの瞳が少し陰ったような気がした。
軍人が去って見えなくなると、彼は小さく舌打ちした。
「どこが不満なの……? クライシスくん」
「俺はもうツッコまないぞホカリ……!
不満なのかって? ああ、不満たらたらだとも。
上の人間に見てもらえなければ、こんな辺境まで来た意味がない!」
……ああ、そうか。
この子は、絶対に自分に危険はないと思っている。
だから命を軽はずみに見るようなことが言えるのだ。
そして彼の場合、それが強がりでないという訳でも、威勢を張っているだけでもない。
明らかな『自信』を根拠に言っているのが厄介なのだ。
問い詰めようとしても、間違えを指摘することができない。
――良くも悪くも、彼は自分の思うがままに生きている。
僕にはそれが、なんとなく羨ましく思ってしまった。
『はあ……izumiさんはいいなあ……。お宝ザックザクじゃないか』
――この世界に来るまえ、有給を棒に振ってゲームに興じていた時のことを思い出す。
――僕があの時、もっと積極的にボスに突っ込んでいれば。ゲームを楽しんでいれば。
もっと自己主張をしていたら、後悔なんてしなかっただろうか。
ああ。
僕も、こんなふうに生きてればよかったのかなあ……。
そういう意味では、izumiさんは僕の憧れだった。
そう、まるで―――のような。
……って、待てよ。
誰だよ、それ。
――刹那、言葉にならない激痛が僕を襲った。
「ッ――!? はっ、あぐッ……アアアアアア!」
「ホカリ!」「セイタ!?」「セイタさん!?」
なんだ……これ!?
目が焼けるみたいに痛い、
おまけに何も考えられない。
頭の底に封印していた記憶が、無理やり海馬を突き破ろうとしているような感覚。
体は思い出さないことを望んでいるのに、記憶が無理やり引き出されていく。
『ねえ、誠太。あたし――幸せだよ?』
きさ……ら……ぎ――ーーーーーーーー
暗闇の中で、彼女はひっそりとつぶやいていた。
作者さえも忘れかけていたこの名前……。
『不遇の勇者の誕生祭①〜⑤』で名前だけ出てきた穂刈くんの彼女です。
わりと彼女が重要なキャラクターであったりなかったり……。
いや、ありますけど^^;
少なくとも穂刈くんの過去には大きく関わります。




