表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/140

【S9】戦火の兆し②

今回は少し長いです。


「――俺たちに何か御用でしょうか」


特別教室に入ると、もうクライスが席に座って待っていた。

僕たちのことを教師だと思ったのか、目を伏せたまま扉に問いかけている。


「僕だよ、クライシス君」

「……貴様か。それと、俺はクライスだ。わざと言っているだろ?」


バレたか。


「今日に限っては勘弁してやる。……それに、ユキミヤもいるようだしな」


視線を僕の後ろに向けたクライスは、舐め回すような目でエマを見た。

とっさにソフィアが庇い、視線を区切る。


「エマにまた何かしたら、僕が許さないから」

「ほう、面白い。やれるものならやってみろ……と言いたいが、

今はそんな場合ではなさそうなのでな」


扉が慌ただしく開かれる。

見やると、今度こそ講師たちだった。


「諸君。昼時だったが、よく集まってくれた」


「おかげで昼食を食べ損ねてしまいましたよ。食堂の食券でも奢ってくださるので?」


クライスは講師の面々がいる場でも、自分の気位の高さを崩さない。

それだけ彼は、生徒会としての神々しい成績を残しているのだろう。

だから停学期間だって、たったの一週間かそこらで済んだのだ。


「悪かった、その件については後日埋め合わせさせてもらう……後日な」


講師の声はどこか重苦しく、これから話すことをためらっているようだった。


「非常に言いにくいのだが……」


講師は敷地外で配られていた号外を取り出して、僕らに見せつけた。


「これを見てくれ」


代表として、クライスがそれを受け取る。

街の人々のように、彼も深いシワをその眉間に刻んだ。


「北の魔王、復活……!?」


――『北の魔王』、メルジェーノフ・ザッハーク

エマの両親を奪い、彼女を傷つけ、記憶を消した元凶。


歴史の座学で習った内容では、現『北の魔王』はゴブリン城塞で隠居しているハズだ。

現『西の勇者』ユキミヤ・リョウヘイに破れ、そのキズを癒やすために……。

それが何で、今になって復活なんて。


「そっ……そんなハズありません!」


同じく『北の魔王』という単語に反応したソフィアが、クライスからそれを受け取る。


四人でその記事を覗き込む。


そこには――新しい北の魔王が就任し、北側の全領地を収める権利を獲得した――。

という旨が、長たらしい文章で記載されていた。

しかし、学校側が問題視するのはそこではなく。

その下に大々的に取り上げられている見出しだった。


「その号外に記載されている通り、『北の魔王』討伐クエストが立案された」


顔を青くしたソフィアが、その記事を読み上げる。


「――即位したばかりの王女など恐るるに足らず、北の覇権を奪い返すなら今しかない。

今こそ西の勢力を集中し、しいたげられた北の領地を開放せん……だそうです」


ようするに、北の領地に――戦争をしかけるつもりのようだ。


記事によると、新しく『北の魔王』として就任したのは、女性。

しかも子供だそうだ。年齢は推定で18歳ほど……高校生じゃないか。


――習った範囲の話でしかないけれど……。


――北は太古から、魔族が多く住み着き、人間の領地を犯すことを絶やさない。

人間が東西南北に別れたその時から、略奪や虐殺ばかりを繰り返していた。

そして先代の『北の魔王』就任後――その体制は盤石となった。

それからというもの、攻め入るのが容易ではなくなった……が。


「今は事情が違う……と?」


「その通りだ、クライス修剣士。国はこの異例の事態を、北の領地を魔族らから奪還する最大の好機と見た。最右翼を結集し、予定では二週間後――準備が整い次第――北領土への侵攻を開始する。相手は――『北の魔王』は即位して日も浅い、年端もいかない少女だ」


――だから北を奪還できる。

……というのは早計だと思うが。


少なくともメルジェーノフ・ザッハークが北を統治していた時よりは、奪還しやすい。

そう国は踏んだのだろう。


その少女が覇権を手に入れる前に、

まだ『北の魔王』として完全に成熟する前に、

政権を崩し、北の領土を取り上げてしまおう……そんな魂胆が覗いている。


「この学園からも、優秀な生徒を、第一次侵攻のパーティメンバーに加える。

これは国からの命令……つまりは、召集令状だ。却下することは許されない」


だからハリー先生はあそこまで焦っていたのだ。

号外が配られた直後の住民たちの青ざめた顔も、クライスの動揺も理解した。


「――ホカリ・セイタ。ユキミヤ・エマ。ソフィアとクライス魔導修剣士一年。

お前たちはこの学校から――ひいては国から斡旋された成績優秀者たちだ。

教育者として心は痛むが……どうかこの遠征に、参加してくれ。頼む!」



「大変なことになっちゃいましたね……」


承諾以外の選択肢はなく、その場をあとにした僕たち。

午後の授業は公欠となり、各自、遠征の準備に精を出せ……との事だった。


「ふん、むしろ光栄なことじゃないか。

俺たちは、国から腕を見込まれたんだ。

こんな大役、そんじょそこらの魔道士たちには与えられない特権だ」


「クライス君……戦地に赴くんだよ。その意味がわかってるの?」


「とうぜんだ。――人が死ぬんだろう、それも大勢」


「ならどうして……!」


「勘違いするな。お前たちはともかく、俺は死ぬ気など微塵もない。

それに、ちゃんと話を聞いてたら分かるだろ? 

俺たちが配属されるのは――いわば偵察部隊。最前線なんかとは比べ物にならない、一度前に出たら終わりの、簡単な任務だ」


「それでも……」


「それでも、何だ? ホカリ・セイタ。

まさか、その程度の試練をこなせないで、一流の魔法使いや魔道士になれるとも? 

笑わせるな――それに、他人の『死』如きがなんだ。その程度で俺の心は痛まんよ」


クライスは踵を返して、通用門から出ていった。


「安心しろ、ユキミヤはこの俺が守ってやる。お前達は安全な後方で、女性に飢えた軍人の相手でもしてるんだな……ソフィア?」


ぞわりと、背筋が凍りそうな笑みを称えて、彼は雑踏の中に消えていった。

それを確認してから、ソフィアが憤慨した。


「最低! 最低です! あれ絶対、私に言ってました!

クライスくんは昔からああですけど、さすがにひどっ……げほ、げほ」


「ソフィア、大丈夫?」

「……う、うん。ありがとうエマ」


「……彼はともかく、問題は僕たちだよ」


目下最大の目的は、戦場に出ても問題ない装備を整えることだ。

そのための軍資金も、事前に学校側から支給された。

これで最低限の準備をしないと……。


「だいじょうぶだよ、セイタ」


僕のあせる想いを察してか、エマが僕を見上げていた。

その瞳は、クライスと違う自愛と優しさに満ちていた。


「私たちは大丈夫――だって、セイタが付いているから」


どうして、僕にそんな信頼を寄せるの?


そんな質問をする前に、僕の口は塞がれていた。

彼女がほうりこんだ、僕の作っただし巻き卵によって。


おいしい。


「こういう時こそリラックスだよ。

セイタは優しいから、たぶん私の過去とかについて余分に考えちゃうんだと思う。

でもね、そんな事は忘れていい。

自分の生き残る道を……いいえ、やりたいことを、探せばいいの」


エマは背伸びをして、頭ひとつ分違う僕の頭を撫でる。

優しく丁寧に、僕の不安を取り払っていくように。


「――セイタ。あなたの、やりたいことは何?」


僕のやりたいこと……それは。


「エマ……僕は」


答えは一つだ。

僕は迷いなく、彼女の手をとって。


「エマ。僕は――ぼくは、君を守りたい」


この小さい手のぬくもりを。


異世界で一人ぼっちだった僕に、居場所をくれたあなたを。


僕は絶対に守り抜いてみせる。


例え、この生命に変えてでも。


「はわわっ……。またオトナなシーンを目撃してしまいました……!」


また何かを勘違いして頬を赤らめるソフィア。

けど、なんだか。


今回は否定する気は起きなかった。




次の回で、またイズミ視点に戻ります∠(`・ω・´)

でもその前に、一回だけ幕間を挟みます。


泉魅の過去についてです。


そして本編――迫りくる脅威に、彼女はまだ気づいていません。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ