【S8】戦火の兆し①
今回ちょっと短いです……(;_;)
「――にしても、転入初日の授業でフルスコアなんて凄いじゃない。
さすが、私の騎士ね。セイタ」
だし巻き卵がお気に召したのか、お姫様は大層ご機嫌がよろしかった。
ほころんだ口元から、わずかにケチャップの赤い跡が覗いている。
「あはは……そんな凄いことでもないよ」
苦笑いを浮かべながら、僕はそれをハンカチで拭ってやる。
ソフィアは「はわわ〜……オトナです……!」と漏らしながら、
また何か勘違いしていそうな熱い視線で僕たちを見つめていた。
――謙遜でもなんでもなく、事実そうなんだ。
ソフィアから盗んだ剣術を、そのまま実践しただけだ。
――たとえば体育の授業で跳び箱を教わる時、バク転を教わる時。
僕はたいてい、失敗した経験がない。
それはなぜか。
コツがあるわけでもなければ、僕の運動能力がいいわけでもない。
僕は学力も運動能力も平均以下の、謂わば不遇の勇者なのだから。
答えは『どうせ、やったってできない』という固定観念を、自分の中で壊す事。
人間は日々の生活の中で、何かをセーブし、ブレーキをかけながら生きている。
それは何気ない友だちとの会話しかり、体育での運動しかりだ。
そのブレーキが、人間の根本的な能力を低下させてしまっているのだ。
……ソフィアじゃないが、大人の僕に、ブレーキをかける理由は何もない。
社会じゃあ、常に誰かが誰かを蹴り落としながら生きている。
ブレーキをかけていたら、とうてい生存競争を乗り越えてはいけない。
そういう意味で――人は初めて大人になると、言えるのではないだろうか。
「凄いことよ。これならソフィアとのトップツーも夢じゃない……わね」
護衛役と親友が腕の立つことが嬉しかったのか、エマは目を輝かせている。
「そういえば、エマは魔法科だよな。そっちの方はどうなの?」
軽く話題を変えるために放った一言なのだが、どうも重く受け取ってしまったらしい。
エマはうつむいて、何やら「うー……」と低く唸っていた。
「セイタさん! そのぅ……エマはあまり成績の方は人並みというか、何というか……」
「いいのよソフィア。あなた、オブラートの包み方が下手だから……」
手振り身振りを加えながら努力しようとするソフィア。
それをエマが肩に手をぽんと置いて宥める。
「……ごめん。そういえば前、クライス君にそんなこと言われてたよね」
『魔術師としては低級……』
という彼の言い回しにも問題があるが、あながち間違いではないようだ。
「……私の魔法適正職は、『ライフヘルパー』って言って。
主に回復専門の魔法しか使えないの。
それ以外は、からっきしで……ね?」
「本来なら、ライフヘルパーだって立派な魔法職なんです。
でも、エマは特別で。その、――ハーフエルフだから……」
本来ハーフエルフという存在は、高い知能と魔術適正を持っている種族。
という話を、エマのお爺さんから聞いた。
だからこそ、基本的なパラメーターから差別視されてしまうのだろう。
「でも、回復士としての腕前は確かです。
エマの幼馴染である、この私が保証しますっ」
誇らしげに胸をはるソフィアに、エマは救われたような安らかな顔をして肩を預ける。
――本当に彼女には、ずっとエマの親友でいて欲しい。
心からそう思えた。
「――号外! 号外!」
学園の敷地外から、慌ただしくかけまわる人が見えた。
新聞を路上にばらまき、拾った人々が次々に眉間にしわを刻んでいく。
……何かあったんだろうか。
「ユキミヤ・エマ ホカリ・セイタ ソフィア クライス 魔導修士一年は居るか!」
呆然としていると、魔術講師がおおよそ平和ではない面影で僕たちの名前を叫んでいた。
「僕が行くよ」と、女子二人より先に先生の前へ出た。
「ホカリ・セイタ魔導修剣士一年であります。いかが致しましたか、ハリー先生」
「おお、ホカリか! ちょうどいい所に居た、他の奴らも一緒か。
すぐに特別教室まで来てくれ。お前達に――召集令状がかかった」
次の回で、初めて穂刈くんと泉魅の世界観が交錯します。
お楽しみに^^;




