【21】歴史が動く
「――おい淫売女! 客連れてきてやったぞ感謝しろ!」
「変な風評被害流さないでもらえる!?
それに、客ってなに? まず頼んでないし、その人ちゃんと審査を通って――」
その後、ゲイブに強引に案内された場所は、無駄に広い書庫の中だった。
そこに居た、ちょっと雰囲気がエッチぃ女の人は、私を見た途端に身を固くした。
「タドコロ・イズミ……」
「……えっと、私の名前って、もうそんなに轟いてるの?」
すると、イルガスが呆れ顔で。
「殿下……あなたは以前、レイのスキルを使って、城の屋上から叫んだではありませんか。
お前らを、働けない体にしてやる、と。あれは、他国が受け取れば、宣戦布告ですからね」
「ええ!? だって、あれは特定の人にしか通じない特殊な電波って、レイ本人が……」
「だとしたら、彼女はその『特定の人』なのでは? 彼女は相当の魔力反応があります」
全員の視線が、女の人に集まる。
居心地が悪くなったのか、視線をそらした女の人は、ぼそぼそと喋り始めた。
「……ワタシの名前は、ロウム・クロノウェル。この禁書庫の管理人」
◇
ロウムに一通りの事情背景を語り終えると、彼女はなっとくして頷いた。
「つまり、イズミさんは『北の魔王』を名乗るため、馳せ参じたと……」
「うん。そうだよ」
すると、敵意に似た何かが、ロウムに宿った。
「……異世界人の成り上がり風情が、よく、ゴブリンの王になりたいと思いましたね。
あなたが行おうとしていることは、この大陸の歴史を変えようしている事と全く同じ。
これからあなたは、人々から恐怖され、萎縮され、魔の者から敬われる存在になる。
それでも、あたなは次世代のゴブリンロードでありたいと思うのですか?
たかが一つの城と一つの村。それを統治したいが為に、あなた――人間辞めるんですか?」
「てっ、てめえ。その言い方は――」
つっかかろうとしたゲイブを制して、私は答える。
「もちろん、辞める気はないよ。
でも、必要なら辞めたっていい。
――私はみんなの王になる。それはもう、決まっていることだから」
確かめるような眼光が、私を萎縮させまいと襲いかかる。
でも、私は一歩も引かなかった。
「……意思は固いようですね」
そうして彼女は、重たい腰をあげた。
「では、『北の魔王』の正統後継者、タドコロ・イズミは前へ。儀式を始めます」
ロウムが開けた場所まで移動する。
その床に書かれている魔法陣へ対して、何やら詠唱を始めた。
「さあ、目を離すなよイルガス――歴史が変わるぞ」
後方で待機するゲイブが、ひっそりと呟いた。
「――我が名はロウム・クロノウェル。汝、善悪の禁書庫を守り、謳う者。
禁書庫当主の名に聞き従いて、ゴブリンリード、タドコロ・イズミの恩名、
永劫の時と共に、この場と大地に刻まれんことを――!」
パシュ!
突如まばゆい光が、私を包み込む。
そして、意識は煌々とした光に吸い込まれていった――。
◇
次に目を開けるころには、世界が暗転していた。
真っ暗だ、何も見えない。
『ここは……どこ?』
自分の声が直接響いてくるようだ、なんだかとっても気持ち悪い。
自分の姿を確認したくて、じたばたと動いた。
すると黒い霧が晴れて、辺りが開けてきた。
『――え?』
気づけば、自分が立っているのは焼け野原だった。
辺り一面、死の世界。
ゴブリンの死体が、無残に転がっている。
「死ね、子鬼ども」
グチャリ。
そんな表現技法が似合いそうなほど、痛ましい殺し方をする、剣を持った男。
血しぶきが顔に跳ね、血涙のように頬を伝う。
文字通り切って捨てられたのは、ジヲォン、レイ、イルガス――。
『……何で……』
私はその場で、うずくまってただ泣くことしかできなかった。
王の威厳も、地位も、涯分も、誇りすら、何もかもがなくなって崩れ落ちる。
『君がこの道を選んだ。だから彼らは死んだ』
『……ぜんぶ、わたしがわるいの……?』
泣きはらした喉は、まるで子供のような声音を吐き出していた。
『そうだよ、イズミ。君があの時、ロードとなっていなければ……。
北の魔王になっていなければ、こんな地獄は起きなかったんだ……』
『……わたし、が……いなければぁ……』
『だから、君も死ね。贖罪の大火を、その身を持って味わうがいい。
僕の名前はホカリ・セイタ。北の魔王を殺した、西の勇者だ――!」
そして私は、心臓を貫かれて死んだ
◇
って夢を見た。
「うわあ!」
反射的に私が起き上がると、そには冷たい床だった。
描かれた魔法陣の寒色が、さらに寒々しさを倍増させている。
「あなたも見ましたか……予知夢を」
「予知夢?」
「ええ。東西南北の覇者の位を受けつぐ者には、
その後の未来が、少しだけ投映されるのですよ。
それは災厄の予兆であったり、幸福の兆しであったり様々ですが……。
新しい『北の魔王』となったあなたは、一体どんな夢を見ましたか?」
「どんな夢、って……」
語りたくないほど、おぞましいものだった。
どこまでも透き通る声で、ロウムは言った。
「それがあなたの、未来を左右する夢になります」




