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【21】歴史が動く


「――おい淫売女! 客連れてきてやったぞ感謝しろ!」


「変な風評被害流さないでもらえる!?

それに、客ってなに? まず頼んでないし、その人ちゃんと審査を通って――」


その後、ゲイブに強引に案内された場所は、無駄に広い書庫の中だった。


そこに居た、ちょっと雰囲気がエッチぃ女の人は、私を見た途端に身を固くした。


「タドコロ・イズミ……」


「……えっと、私の名前って、もうそんなに轟いてるの?」


すると、イルガスが呆れ顔で。


「殿下……あなたは以前、レイのスキルを使って、城の屋上から叫んだではありませんか。

お前らを、働けない体にしてやる、と。あれは、他国が受け取れば、宣戦布告ですからね」


「ええ!? だって、あれは特定の人にしか通じない特殊な電波って、レイ本人が……」


「だとしたら、彼女はその『特定の人』なのでは? 彼女は相当の魔力反応があります」



全員の視線が、女の人に集まる。

居心地が悪くなったのか、視線をそらした女の人は、ぼそぼそと喋り始めた。



「……ワタシの名前は、ロウム・クロノウェル。この禁書庫の管理人」





ロウムに一通りの事情背景を語り終えると、彼女はなっとくして頷いた。


「つまり、イズミさんは『北の魔王』を名乗るため、馳せ参じたと……」


「うん。そうだよ」


すると、敵意に似た何かが、ロウムに宿った。



「……異世界人の成り上がり風情が、よく、ゴブリンの王になりたいと思いましたね。

あなたが行おうとしていることは、この大陸の歴史を変えようしている事と全く同じ。


これからあなたは、人々から恐怖され、萎縮され、魔の者から敬われる存在になる。


それでも、あたなは次世代のゴブリンロードでありたいと思うのですか?

たかが一つの城と一つの村。それを統治したいが為に、あなた――人間辞めるんですか?」



「てっ、てめえ。その言い方は――」


つっかかろうとしたゲイブを制して、私は答える。


「もちろん、辞める気はないよ。

でも、必要なら辞めたっていい。

――私はみんなの王になる。それはもう、決まっていることだから」


確かめるような眼光が、私を萎縮させまいと襲いかかる。

でも、私は一歩も引かなかった。


「……意思は固いようですね」


そうして彼女は、重たい腰をあげた。



「では、『北の魔王』の正統後継者、タドコロ・イズミは前へ。儀式を始めます」



ロウムが開けた場所まで移動する。

その床に書かれている魔法陣へ対して、何やら詠唱を始めた。



「さあ、目を離すなよイルガス――歴史が変わるぞ」



後方で待機するゲイブが、ひっそりと呟いた。


「――我が名はロウム・クロノウェル。汝、善悪の禁書庫を守り、謳う者。

禁書庫当主ブックマスターの名に聞き従いて、ゴブリンリード、タドコロ・イズミの恩名、

永劫の時と共に、この場と大地に刻まれんことを――!」


パシュ!

突如まばゆい光が、私を包み込む。


そして、意識は煌々とした光に吸い込まれていった――。





次に目を開けるころには、世界が暗転していた。

真っ暗だ、何も見えない。


『ここは……どこ?』


自分の声が直接響いてくるようだ、なんだかとっても気持ち悪い。

自分の姿を確認したくて、じたばたと動いた。

すると黒い霧が晴れて、辺りが開けてきた。


『――え?』


気づけば、自分が立っているのは焼け野原だった。


辺り一面、死の世界。

ゴブリンの死体が、無残に転がっている。


「死ね、子鬼ども」


グチャリ。

そんな表現技法が似合いそうなほど、痛ましい殺し方をする、剣を持った男。


血しぶきが顔に跳ね、血涙のように頬を伝う。


文字通り切って捨てられたのは、ジヲォン、レイ、イルガス――。


『……何で……』


私はその場で、うずくまってただ泣くことしかできなかった。

王の威厳も、地位も、涯分も、誇りすら、何もかもがなくなって崩れ落ちる。


『君がこの道を選んだ。だから彼らは死んだ』


『……ぜんぶ、わたしがわるいの……?』


泣きはらした喉は、まるで子供のような声音を吐き出していた。


『そうだよ、イズミ。君があの時、ロードとなっていなければ……。

北の魔王になっていなければ、こんな地獄は起きなかったんだ……』


『……わたし、が……いなければぁ……』


『だから、君も死ね。贖罪の大火を、その身を持って味わうがいい。

僕の名前はホカリ・セイタ。北の魔王を殺した、西の勇者だ――!」


そして私は、心臓を貫かれて死んだ





って夢を見た。


「うわあ!」


反射的に私が起き上がると、そには冷たい床だった。

描かれた魔法陣の寒色が、さらに寒々しさを倍増させている。


「あなたも見ましたか……予知夢を」

「予知夢?」


「ええ。東西南北の覇者の位を受けつぐ者には、

その後の未来が、少しだけ投映されるのですよ。

それは災厄の予兆であったり、幸福の兆しであったり様々ですが……。

新しい『北の魔王』となったあなたは、一体どんな夢を見ましたか?」


「どんな夢、って……」


語りたくないほど、おぞましいものだった。


どこまでも透き通る声で、ロウムは言った。


「それがあなたの、未来を左右する夢になります」




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